第三百七十一話:泰子さんの話(269) 栄養失調の女(4)
第三百七十一話:泰子さんの話(269) 栄養失調の女(4)
今の日本でご飯しか食べない説明に、少々意表を突かれた。罪とまで言えなくても。まともな食生活ではない気がした。子供の頃にドーナッツやケーキを食べなかったとは思えないからだ。しかし「嫌い!」と言われてしまえば、それ以上「責めよう」が無かった。
その日、自宅で配偶者に話した処、彼女は暫く考えていたが謎を解いてみせた:
「(栄養失調の)その期間、実の処はツワリだったに違いないわ。結果として流産したか、堕したかなーーー」
「ーーーー??」
「初めての妊娠だったら、堕しはしないと思うから、流産かもーーー」
世の中には、男が想像もつかない謎が多い。出鼻をくじかれた気がして、栄養失調について、以後私は新人の女に何も言わない事にした。栄養失調のせいに違いないと私は内心で確信しているが、女は会社で何時も寒そうにしている。それも何か嫌味だ: 会社が暖房費をケチって、社員を冷蔵庫内で働かせているみたいに見える。
足が冷えるらしく、椅子を低く調整して座布団を敷き、その上に正座して机に向かって仕事をして居る。離れた処から眺めたら姿勢が良いから、それだけで真面目な仕事振りに見える。仕方なく、時々暖房器具の前で手をかざしている女へ、「明日からもっと厚着をして来なさい」と言った。
お仕舞い




