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「子持昆布」の話(3)

66.「子持昆布」の話(3)

「でも、女の子は次の日に学校で男の子にまた会えるのを、とても楽しみにしたわ」

「そうかも知れないーーー」

「けれども、次の日男の子は教室で女の子を無視した。一度だけ目が合ったのに、男の子の方から目を反らしたわ」

「僕は、彼女の方を見ないようにしていたんだーーー」


「やんちゃな他の生徒が居る教室ではだめでも、学校の帰り道に男の子と又話が出来るのを、彼女は秘かに愉しみにしたわ。泣き虫でさえない子だっだけれど、唯一の友達だったから、下校時間が待ち遠しかった」

「ーーーー」

「けれども、帰り道に男の子は居なかったわ」

「ーーーー」


「その次の日の帰り道、校門を出てずっと女の子は気になって道々後ろを振り返り振り返りして歩いたわ。道の遠くまで目をやったけれども、男の子の姿は見えなかったーーー」

「女の子に逢わないように、通学路を僕がわざと違う道へ変えていたからだよーーー」


「その次の日も、その又次も、女の子は毎日振り返りながら道を歩いたから、後ろを振り返るのが癖になったわーーー」

「ーーーー」

「時々校門をクラスの誰よりも先に出て、登山口まで普段の倍の時間を掛けて、試しにのろのろ歩く実験もしてみた。足の遅いチビの男の子が、追いついて来れるようにと思ってーーー」


「僕は違う道だったんだーーー。それに医院に寄って、カルシウムの注射の予定もあったしーーー」

「毎日教室にはちゃんと居るのに、男の子は帰り道から蒸発したみたいに消えてしまった。ひどいわ! こんな事なら、あの時たぬき汁にして全部食べて置けば良かったーーー、と後悔した」


「僕は風邪を引いて、何日かは学校を休んでいたかも知れないーーー」

「そうかしらーーー?」

「彼女の気持ちを想うと、何だか切なくなるねーーー。君は、僕を責めているのかい?」


「中学になって、男の子は急に成績をぐんぐん上げていったわ」

「アカンタレだったけれど、少しは勉強を頑張ったーーー。努力を認めてくれるかい?」

「クラスは違ったけれど、そんな男の子を、彼女は遠くからずっと眺めていたわ。好きだったからよ。小二の遠い記憶だから、多くの事を忘れてしまったけれども、男の子の事だけは忘れず、彼女の中で特別な存在だった」

「そうかなーーー?」


「そりゃ、そうよ。山の途中まで辛抱強く一緒に登ってくれたのは、後にも先にも、人生でたった一人、アノ男の子だけだったからよ。忘れようったって、忘れるものじゃないわ」

「そうだったろうかーーー? そう言われると、そうかも知れないなーーー」


「中学校になって下校時に、キツネ坂で時々男の子の姿を見かける事があったわ。でも、忘れたように男の子の方では無関心を示した。地球人は薄情よね」

「でも、本当は僕は女の子の事を忘れてはいない。忘れていなかったからこそ、無理に無視したんだ。「アカンタレと思われているに違いない」と思って辛かったからだよ。確かに僕はかたくなで、プライドが高過ぎたかも知れないーーー」


「そんな男の子を眺めて、彼女は後悔したわ: 昔男の子が山道の途中で「戻る」と音を上げた時、どうしてもっと強く引き止めなかったのかと」

「ーーーー」


「男の子はきっと、潮見台のお金持ちの子に違いないし、自分の成績は男の子ほど良くなかったから、女の子は、もう手が届かないと思った。それが一番辛かったわ」

「そんなーーー、そんな事は無いーーー、僕は好きだった」


「お金の問題で進学出来なかった。女の子は中学を出ると直ぐ町へ就職して、母親がやっている山の茶店を、日曜日には手伝った。『おらが茶屋』よ。暫くして、男の子が名門の高校へ合格したと風の便りに聞いた時、寂しかったわ。とうとう、男の子が遠くの星へ行ってしまった気がしてーーー」

「ーーー僕は地球へ帰ったんだ」


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