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「子持昆布」の話(2)

65.「子持昆布」の話(2)


「彼女は一人っ子だったわーーー、間違いない。私にはソレがちゃんと分かるのよ」

「はあ、僕がそう言ったかな---? あの喫茶室のお婆さんが、そう教えてくれたんだけれど」

「学校から帰っても兄弟は居ないし、遊ぶにしても友達も居ないわ」

「独りで、山でどんぐりでも拾ったんだろうよ。猿はいなかったと思う」


「二年生の時に、学校の帰り道に地球人の男の子に話し掛けられてーーー、山道を同道してくれるなんて初めての事だったのよ。友達が居なかった女ターザンにしてみれば、嬉しかった。それだけの理由で、地球人の男の子を好きになったわーーー」

「うむーーー、でも無口な子だったよ。好きになってくれたかどうか、判らないーーー」


「好きになるのに、外に理由は要らなかったわ。好きな証拠に、ターザンの家まで回り道して帰ると地球人が言った時に、彼女は断わらなかったーーー」

「なるほど確かに、好きになった証拠かもねーーー」


「地球人は女ターザンの気持を、全然判ってなかったわ」

「ーーー? そりゃ、未だ小二の子供同士だからねーーー」

「男の子が女の子の家の玄関先まで「寄り道する」と提案をしたのは、確かに立派だったわ。男の中の男よ」

「それほど立派だったかなーーー?」

「けれども、気持にズレがあったわ。男の子は、女の子の家まで時間的に精々十分かその程度と考えた」

「そりゃ、そうだったよ。随分昔の事だったけど、そう思うのは当たり前さ」


「でも女の子の方では、まるで違ったわ。自分ちは、延々と遠い山の上の一軒家なのだからーーー。玄関先で「じゃあ、また明日ね」の一言で追い払う、というのでは済まないと思ったわ。大人の思考よ、初めっから」

「はあ、そりゃ確かにーーー。 彼女はそう思ったかも知れないな。家は茶店だし」

「地球人を、たぬき汁にする積りも無かった。体が細いから、味が好いとは思えなかったしーーー」

「ーーーだろうな」

「でも、骨がスープの出汁だしになるとは思った」

「アハハーーー」


「男の子の申し出た一言は、彼女には「お金持ちの男の子が、自分ちへ遊びに来る」という重大な意味になったのよ」

「なるほどねーーー」

「女の子がどんなにビックラこいだと思うのよ? 小二と言えども、相手は異性なのよ。結納式に男が奥座敷まで挨拶に来たいと言うのと同じじゃないの!」

「結納だって!? 君は、ヘンな事を考えるもんだな」


「だって、男の子はひょっとしたら結婚してもいいと、考えていたのじゃなかったの? 話の中で、そう言ったわ!」

「アハハ、君はユーモアが上手だ! でも、君の言うのは当ってるだろうね。「男の子が、家へ遊びに来る」というのを、大事件と女の子が取ったのは間違いなかろうな。何せ、場所は山奥のてっぺんの話だものね」


「だから、最初から二人の気持ちに大きなずれがあったーーー」

「なるほどーーー。君の説明で小さな女の子の気持が良く判る」

「女の子の家は茶店だから、玄関なんて元々無いのよ」

「そりゃあ、そうだーーー、何処からでも出入り自由」

「彼女は、結納を持って男の子が来てくれるのが、内心とても嬉しかった」

「また、結納だなんてーーー」


「女の子は男の子を茶店で接待する積もりだった、タヌキ汁以外で。恥ずかしかったけれど、一緒に遊びたかったわ」 

「うむーーー。僕は途中で諦めずにちゃんと茶店まで、頑張って歩き通せばよかったよな。もう少しの勇気さえあったならーーー」




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