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純生( じゅんなま)の男

8.純生( じゅんなま)の男


 こんな空気を素早く読み取るのが、元営業マンの私。ここぞとばかり、調子に乗った。「それにねえーー」と、女達の顔色を窺いながら続けた: 


「店を開いたら、技術も大切だけど、営業トークはもっと大事だよ。 リピーターの獲得が一番さ。きっと中年の女性も多く来るでしょう。マッサージしながら、ウソでもいいから褒め殺しをやるんだ:


「んまあ、奥様、ハリのあるお肌ですわ! こうして触って見るとすぐに判ります。指が跳ね返って来ますもの。 何かスポーツをなさっていますの? きっとそうなんでしょう?」

「嬉しい事言ってくれるわね。健康の為に、週一でエアロビダンスのお稽古をしているのよ!」

「まあ、そうなんですか、やっぱり! 日頃体を動かしている方は、お肌のハリがまるで違いますわねえ!」


 この時、三十代の生意気盛りな「キャハハー」の一人が、突っ込んで来た:

「もしその奥さんが案に相違して、運動もせず、家でゴロゴロ怠けているばかりだと答えたら、どう返事する積もりよっ!? 困るじゃないの!」概して、若い女は生真面目である。冷静な元セールスマンは、すかさず応じた:


「エッ!? そうなんですか、信じられナ~イ! けれど、失礼ですが奥様の年輩で、めったにこんなハリのあるお肌の方はいらっしゃいませんわ! 職業柄、直ぐ判ります。やっぱり「生まれ付き」なんですねえ。羨ましいですわーーー」

 たぶらかしのセリフが、すらすら出て来る自分が、げに恐ろしい。


 こっちを眺める女達の目に、いよいよ尊敬の色さえ見え始めた。「純生( じゅんなま)の男」がここにいる!と初めて認識したのだ。瞳( ひとみ)さえ潤んで来たから、いよいよ「キャハハー」対「たぶらかし屋」の対決である。

「使えるかどうか、試して見る?」のゴールに向けて、私はあと一歩の処まで漕ぎ着けている。今月末の卒業日までには何とかしたい。


  完


(比呂よし)



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