★第百六十話:泰子さんの話(58)「六高生」
★第百六十話:泰子さんの話(58)「六高生」
泰子さんは、当人を含めて四人兄弟で、若い頃どの人も水準を抜けた美男美女であった。
一番年長が私の母だった。子供(私)というのは親が美人かどうかはよく分からないものだ。生まれてからずっと眺めているものは、当たり前で、それが普通で、さっぱり美しくは見えない。「君のお母さんは美人だ」と何度か人から言われた事があったが、その都度「そうかなあーーー」と思っただけだ。
成長して私に彼女が出来て、母に紹介した事があった。と言っても今の私の配偶者を含めて、たった二人の女性だったに過ぎないが。私にはそんなつもりはなかったのだが、二人とも「綺麗なお母さんねーーー」と後で私に(母の居ない処で)消え入るような声を出した。母親の顔を見慣れた私の美人度測定の尺度が、とてもハイレベルと誤解したのだ。しかし、そう指摘されても、私の方では「そうかなあーーー」でお仕舞だった。
多分、子供は母親を「女として」眺めないせいだと思う。これを思うと人の美醜と言うのは、鑑賞者の立場と視点で変わるのだから、随分といい加減だという気がする。モナリザを美人と見るのは、地球人だけだろう。
泰子さんの(死んだ)次姉は兄弟の中で上から三番目だが、中でも跳び抜けて美人だったらしい。私の母も泰子さんも口を揃えて言うから、間違いなかろう。一緒に道を歩くのを泰子さんは嫌だったそうだ。見比べられるからだ。
泰子さんの兄(兄弟の中で二番目)は、西部劇映画俳優の(昔の)ゲーリー・クーパーそっくりだと、私は子供心にそう思っていた位だから、矢張り確かに美男であった。
つづく




