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私もなりたい

46.私もなりたい

 ドライブばかりしていたから、たまには「買うよ」という便利な処へ行きあたる事もある。そうこうする内に、当初は売上成績がビリだったのに、ドライブのついでに何時の間にか私はあんまり沢山「売った」から、「売るのがクセ」になってしまった。驚くべし!最も不向きな仕事だったのに、やがて社内でトップセールスマンになったのである。二年が経っていた。


 こうなると、磨いたセールスの腕を会社の為に使うより、自分の為に使おうと考えたのは自然な成り行きで、格別な決心ではない。独立することにした。

 やり方は簡単で、元の会社を「真似て」配偶者と二人で似た販売会社を興したのである。元の会社の製品は米国製だったが、目先を変えてこっちは同じものでドイツ製にした。


 お金が足りなかったから、市場マーケットの中で漬物屋の隣に、五坪ほどの事務所を借りた。こうして長年願望した社長へ、「あっけなく」なってしまった。

 なるほど、社長になるとは「こういうこと」だったのかーーー、初めて気が付いた。その昔主任教授へ、明治へ遡って啖呵を切るほど大袈裟な事ではなかったのだ。ただ、「五坪」の狭い事務所と、社員が私と配偶者を含めて二人というのが気に入らなかったがーーー。


 「私も社長にはなりたい」と配偶者が言ったから、譲歩して私が社長で配偶者を副社長にした。二人社長だから大出世で、「お互い、偉くなったよなあ!」と肩を叩きあった。とは言っても、成り方が簡単すぎたから、本当の処は「社長になった」実感は乏しかった。何となれば、簡単に成り方を纏めれば:

①先ず先に失業しなさい。

②次に、セールスマンになる。

③激しくドライブばかりして、トップセールスになり、

④独立して、元の会社のそっくり「真似」をする。

 実はこれが、「社長になる」ノウハウの全てだ。期間は失業から数えて二年半もあれば充分。(なお、語るべき話がなお続くので、先を急ぐ。このページではノウハウのサワリだけにしておいて、もっと詳細は別稿で書く事にしたい)。


「なった」感慨に浸る余裕は無かった。何せ社長と副社長の二人だから、社長はセールスマン・仕入れ係・修理梱包係を引き受け、副社長は経理・事務員・電話番・掃除婦・社長の肩揉み、を引き受けた。会社員時代以上に多忙になった。


 私の担当はセールスマン兼業だから、以前と何も変わらない。同じ須磨アルプス北側の山麓を光の速さで通過し、機械のサンプルを積んだ営業車で、走り回る日々が続いた:

「機械は要らんかねえーーー、今度はドイツ製だよ」

「要らんよお!」と、須磨アルプスの山々はこだました。


 山麓を走るたびに、小さな白い見晴台らしきものは、私へシグナルを送り続けた。が、それまでより一層多忙な生活になって、「登ってみよう」の機会は、それから何年も巡って来なかった。


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