★第百四十二話:泰子さんの話(40)「恋愛結婚」(2)
★第百四十二話:泰子さんの話(40)「恋愛結婚」(2)
もう死んだが、私の母の弟、即ち泰子さんの兄も、(恋愛ではなく)見合いだった。
さて本題である:様々に個性豊かで、若い時おきゃんだった泰子さんの場合である。泰子さんはどうだったろうか。泰子さんは私の母とは、性格も考え方も180度違う。母とは違って「しっかり者」。それだけの条件で「恋愛結婚」だったのだろうと、私は想像した。
先の日曜日のお昼に泰子さんから馳走になって、ホテルの最上階で二人で和食の会席料理を食べた。食べながら訊いてみた:「泰子さん夫婦の最初の馴れ初め(なれそめ)は?」
「さあーーー、どうじゃったかなあーーー。何せ昔じゃからなーーー」と、本人は空とぼけた。
女の人生の大事を忘れる筈はないと思うから、(記憶にありませんという)国会議員の常套答弁みたいに、甥っ子の私へ言いたくなかったのだろうか。裏を返せば、人様に「言えるような出会いではなかった」のかも。となれば、これで充分な回答になっている:当時のお転婆娘が、ろくでもない場所で「男あさり」をしたのだ。
「当時の泰子さんは、お転婆娘だったんじゃろ?」と私。
「そんな事はねえ、お転婆と言っても知れているーーー」と、歯切れが悪い。こっちはお転婆の程度が知りたいものだ。
「でも、XXXさん(=夫の名前)を、うまく見つけて良かったじゃない?」
「ーーーー」と、泰子さんはだんまり。
「だってね、こんなに沢山の財産を泰子さんへ残してくれたんだものーーー」と、やんわり追求。
「もっと、いい男が居たかも知れんーーー」と泰子さん。
こんな言い方はおかしいーーー、と私は直感した:体の関係が先に出来てしまって、にっちもさっちも行かなくなったのだ。今と違って、昔は婚前関係はふしだら娘と見られた時代だ。
「アハハ」と、すべてを知った私。やたらと可笑しかった。
「XXXさんは、ハンサムだったから最初は泰子さんが惚れて熱を挙げたのじゃろうね?」と鎌を掛けた処、
「そうじゃねえ、あっちが追いかけて来たんじゃ」と、即座に反論した。打てば響く反応振りだったか
ら、これは信じて良さそうで、泰子さんの言うのが正しいに違いないと思った。
また一方で泰子さんは、姉妹だけに容貌は私の母と似ていて、やはり世間の水準からみて美人度の高い女性だ。美人に共通しているのが、がつがつしない一種の冷やかさ。「好きだ好きだ」と言われて引きずられて、「まあ、結婚してやってもいいかーーー」のタイプが多い。泰子さんも私の母に似て、「消極的好き」な訳だったのだ。
若き日の泰子さんを思いやって、私は愉快な気分になった。
お仕舞い




