★第百四十話:泰子さんの話(38)「分かれ道」(3)
★第百四十話:泰子さんの話(38)「分かれ道」(3)
日本中を探してもこんな年寄りに便利な住居地は、そう数あるまいと思う。ただ、普段から気安くしている先のシテイホテルの女性スタッフから訊いた話では、物価は神戸市内の他の地区と比べてやや高めなようだ。口を極めてそう非難しているから、これが当地区の難点らしい。
因みに、彼女は58~63(=変動相場制で、訊くたびに相手を見て歳を変える)で三度目を狙っているバツ2のたくましい独身だ。遠隔の神戸市東灘区に住み、勤務地の当ホテル(=西区)まで通勤しているのは、恨みの物価のせいだと彼女は言う。
この女から三人目の候補として私は狙われているが(だから本人は58と有利に詐称している)、それはダメよ! ちゃんと私には素敵な配偶者がおります。
彼女は言う:「離婚なんて簡単よ、やり慣れたら何回でも行けるわ。指南してあげる」と、何時も私へ好意的だ。
それはさておき、経済的にややゆとりのある年寄り向けの移住地として、この地を推薦してもバチは当たるまいと思う。神戸の「西神中央駅近辺・市営地下鉄山手線の終点駅」である。しかし地区内ならどこでも良いわけではない。住居すべきは、駅周辺のマンションに限る。95ともなり自活を続けたければ庭や植木は潔く諦めなさい。甘ったれるな、泰子さんを見よ!
もっと歳が入って私が将来独身になっても、ここなら介護施設に入居しなくても、ギリギリまで一人で生活出来そうな気がする。もっとも、最低限平地を「歩ける程度」※の健康を維持しているならばーーー、という条件付きだが。※むろん、容易な事ではないから、泰子さんは確かに偉い。
自分の住居地の範囲内で、一日に2回も一人で買い物に行く(=行ける訳だ)泰子さんの生活ぶりや、手軽な外食振りを見ていると、つくづくそう感じる。若い時、何処に住居するかそんな単純な事が、
人生を左右する「大きな値打ち」になるとは考えても見なかったなーーー。
お仕舞い




