★第百三十八話:泰子さんの話(36)「分かれ道]
★第百三十八話:泰子さんの話(36)「分かれ道]
若い人でも体調の良し悪しがあるが、泰子さんの体調も日によって変わる。95ともなると体調が良くないと聞くだけで、命に関わる事もあると思うから、こっちも気を遣う。顔の表情で良し悪しが大体分かるものだ。
泰子さんは「退屈じゃあ」を解消する為に、少々体調が優れなくても外出が好きだ。外出と言えば食料品の買い物になる。住んでいるマンションから歩いて5分以内の処に広大な公園があるのだが、散歩を勧めても行かない。散歩なんて「辛気くせえ」からである。
そう言われたら確かにそうだ。公園を散策するのは、辺りが広すぎるだけに一層独り身を自覚させられてちょっと寂しい。やっぱり、パートナーが欲しい処だ。でも、私を当てにしないでね、泰子さん、私の本当のパートナーは私の配偶者。
日本中どんな場所に住んでいても、仮に近所に公園が無くても散歩する位の小道や公道はあるもの。
他方で買い物する場所となると、必ずしも近所にあるとは限らない。限らないどころか平均的にみれば、そんな「生活に便利」な場所は「余りない」。実はこれが年寄りが自立して生活できるかどうか、の分かれ道ではないかと思う。
若い間は電車に乗ったりバスに乗って買い物に行くのが苦にならないが、年寄りになるとこれが難しくなる。頭はしっかりしていても、食料品の買い物に便利かどうかは、自立の可否を左右する。泰子さんに言わせれば「(毎日の)一番の楽しみは食べる事じゃ」と言うくらいだから。介護施設で働いている私の女友達「バツイチ子持ち女」も、日々年寄りに接していて「そうみたいよ」とプロが保証するから、間違いない。
よく聞くが、歳が入ったら(買い物に不便な)田舎から出て来て街に住まいするというのは、この意味で正解だ。
つづく




