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★第百三十一話:泰子さんの話(29)「新しい知識」(2)

★第百三十一話:泰子さんの話(29)「新しい知識」(2)


 話変わって、私は会社を約40年に渡って経営してきた。主として長年油圧レンチ(=ボルト締め工具:A製品と称する)ばかりを扱い販売したりレンタルしたりして来ている。大きなボルト締めに必須の工具なので時代が変わっても、需要が無くなるとは考え難く、地道にやればこの先もビジネスとして廃れる事はないと思う。そんな訳でA製品さえやっておれば、後継者(=社員も含めて)も食いはぐれる事はあるまい。確かに幸せな事だ。


 けれども私は事業家として、そんな伝統の中で「新たに追加して」別の製品(B製品と称す)も、並行して取り扱うようになった。そうしないと会社が潰れる訳ではなかったが、(将来有望な商品と見越して)経営者として積極的に導入した。

 売るには高度な製品知識とユーザーへの丁寧な技術説明を要したから、販売が「易しい」とは言えない。勉強させて、新しいプロジェクトとして営業員全員にはっぱを掛けて全国で売らせた。


 この経験は、「人とは何か」を私へ教えた。例えば営業員が10名居るとすると、3名はB製品を積極的に非常に沢山売った。他の3名はまあまあ売った。しかし残りの4名は殆どよう売らなかった。よう売らないどころか(4名の中の約過半数は)「何年経っても」売上数は完全にゼロのままである。B製品がゼロであっても、伝統のA製品はしっかり売っているから、経営的にはペイしているのだが。


 なぜ4名(=40%の人)はB製品をよう売らないのだろう:能力としてバカである訳ではなく、ただ(伝統的なA製品以外の)新しいものに対して心理的にアレルギーがあり、心に垣根を作っている為だ。「好きでない・虫が好かない・覚えるのが億劫・覚えられない」という気持ちがある。B製品を売らなくても従来通りA製品を売っておればいいじゃないかという「逃げ」の気持ちもある。


 お気づきの通り、これは先に紹介した泰子さんの振る舞いに似ている。最新型の電子レンジをよう使いこなさないのと同じだ。泰子さんは年齢的に「仕方がない」が、B製品をよう売らない人は、若くして既に「歳を取っている」。伝統的なA製品から頭をよう切り替えない。決して泰子さんを笑う事は出来ない筈で、(若くても)そんな人は世に決して少なくはない。


(3)へつづく



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