精神を病む悪夢
41. 精神を病む悪夢
当時こんな悪夢によくうなされた:汗をびっしょりかきながら、赤い太陽みたいなものを必死で追っている。追い縋って捕まえようとする。けれども何時までたっても自分の走る速さで追いつけず、とうとう陽は西の果てに沈んでしまう。辺りに闇が広がり、私は無念の想いで地面をたたいて涙ぐむ。
追い求めたモノは、私の強い願望の象徴だったろうと思う。繰り返し同じ夢で苦しめられたから、「絶望の夢」と名付けた。悪夢というのは、目覚めて現実世界に戻ればホッと安心するものだが、私の場合は逆だった。夢から覚めると、「(社長に)未だなっていない」自分を発見して、一層苦しめられた。 「今は明治ではない!」と言った主任教授へ、何の為に逆らったのかもう意味を無くしていた。
「夢を持て!」と人は簡単に言う。が、多分その人は本気で夢を持った事はないのだと思う。直ぐに諦めが付くような、どうでもいい程度のものなのだろう。本気でそれを持つならば、人を苦しめる。夢なぞ無ければ、人生はどんなに平穏であろうかと今でも本気で思う。私はパンだけでよう生きなかったのである。
他の人達がそんな悪夢に悩まされず、呑気そうに暮らしているのを眺めて「こいつらはどうかしているんじゃないか・人格に欠陥があるのだろう」と怪しんだ。中には悟った者であるかのように、「(人生に)多くを望まない・足るを知る」なんて言うのが居るけれども、求めても得られないと「諦め・逃げている」だけではあるまいか。本当は落伍者なのだ。
私は一種の精神を病む人間で、「社長」という狭い思考の世界から抜け出られなかった。外見は素知らぬ顔をしていたから、同居する配偶者も私の苦しみや悪夢の精神構造に気付くことは無かった。ただ、神経質で顔の暗い男と見ていた。




