表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1144/1699

★第百十四話:泰子さんの話⑫「しょうがねえじゃろっ!」

★第百十四話:泰子さんの話⑫「しょうがねえじゃろっ!」


 私は82だし、泰子さんのお世話を今後も「一人で実行し続ける」には当然限度がある。将来泰子さんが寝たきりになるなど私の手に余るようになれば、介護施設に入所してもらわないといけない。私方の叔母であるし、私の配偶者は難病で今も体調が良いとは言えないので、彼女に何かを頼むという発想は1%も無いからだ。


 であるからして、「ヒロシ、お前が元気でおってくれんといけんよ」と、泰子さんは事あるごとに私へ釘を刺す。「うん、大丈夫だよ」と元気に応えるものの、確たる自信がある訳ではないから、カラ元気である。


 とはいえ、もし入所する事になればどれだけの費用が掛かるかーーーについては、認識にズレがあり、これが少し心配になった。と言うのも、泰子さんの財産の正確な額を知ってからは、無関心では居られなくなったのだ。決して超お金持ちではないから。訊いてみると:

「岡山では一番高けえ処で、月額が30万で入居金がその3ケ月分(=90万円)じゃ」

「ーーーー?」


 神戸では入居金がウン千万円だと聞いた覚えがあったから、私は目をパチクリさせた。岡山と差があり過ぎると思った。それを私が指摘した:

「それで、神戸では死んだらその高い入居金は戻ってくるんか?」と、泰子さん。

「うんにゃあーーー、戻って来ないと思うよ。戻そうにも本人はもう居ないんだもの」と、私。


 泰子さんは腰を抜かした風で、

「それなら、まるで泥棒じゃ」

「神戸には泥棒が多いらしいーーー」

「ーーーー」

「ーーーー」


「入所するんは、体が動けんようになってからじゃから、ロビーにシャンデリアなんか無くったっていい、清潔で一人になれる空間がありさえすればーーー。しょうがねえじゃろ。」と、泰子さんは譲歩した。

「シャンデリアの代わりに、安い施設では夏ならハエ取り紙がつるしてあるかもしれんーーー」と、私は意地悪で返した。昭和初期生まれなら、知っている生活風景である。


 (元々お嬢さん育ちのセレブな筈だのに)自分が入所する筈の終の棲家には、贅沢を求めない。しょうがねえじゃろっ、という訳だ。いざぎ良いというか、瞬時にスッパリと考えを切り替えてしまうというか、なんとなくサバサバして「なるほど、ご立派」と思わざるを得なかった。


お仕舞い


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ