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死なないように何度もお祈り

 男から遅れる事約20年にして、私自身も会社の創業で経営者になった。なって初めて「ああ、そうだったかーーー」と今にして見える事がある。男は頭が非常に良く、人心を掌握する営業センス(=人たらし)がピカイチで、仮に教えられたとしても私には真似が出来なかったし、同じ経営者ながら、到底彼には及ばない。その意味では歴史上の秀吉と共通点があるように思った。


 先に泰子さん夫婦の離婚騒動で、お祖父さんが男に頭を下げた事件を紹介した。その内実は離婚問題だけではなかった、と今の私ならそう睨んでいる。創業した経験の無い人には思いつかないかも知れないが、問題は別にあったと思う:才幹があっても会社が一人前に「立ち上がる」には、資本金だけではとても足りず、実際にはその十倍以上の資金が必ず要るものだ。発展に欠かせない運転資金である。けれども資産も無く担保も信用も無い立ち上がりの時期に、金を貸す銀行など無い。


 離婚問題の見え隠れする陰に、必ず金が絡んでいた筈だ。男を見込んだお祖父さんの資金援助が動いていたにちがいない。男の方でも立ち上がる為に資金が要ったーーー。お金のプラス・マイナスがあった筈で外部からは不自然に見えても、お祖父さんが「頭を下げた」状況にしっかり説明がつくような、何らかのやり取りがあった。私の読みは殆ど外れていないと思う。


え? 私の会社の場合はどうなんだって? 時代は先の男と二十年遅れたが、立ち上がりの初期に大きな運転資金が必要で不足に苦しんだ。無論銀行は貸してくれなかったし、もうお祖父さんのようなスポンサーも居なかった。どうしたか? 


 代わりに仕切れ先に頼んで、代金の支払いを数ヶ月間延べ払いして待ってもらった。ウチは海外取引をする会社なので、初期の五年間は海外の会社にこれを「お願いし続け」た。日本では信用が無かったが海外であったのである。これは数千万円から数億円の資金援助を受けたのに相当した。


 相手の会社は私個人の信用力(=製品を売る営業力)に掛けて、これが目に見えない担保だった。何かの事故でもし私が突然死ねば、援助資金に相当した数千万円が一瞬にしてパアだったから、相手の会社は私が死なないように何度もお祈りをしてくれた。人生でこの時ほど「私の命」が大切に思われたことは無かった。

 運は自分で切り開くものと考えている人がいるが(そう言えば格好はいいけれども)実に軽率で、多くの場合助力者や協力者が陰に存在するものだ。



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