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難破船を建造する

34.難破船を建造する 


 同級生からも周囲からも、変わり者と見られた。一流会社を辞退した息子に親もがっかりした。

 

 考えてみると「社長になりたい」というのは、どこかヘンではある。小児科の医者になりたいとか、癌の薬を発明する化学者になりたいなどという具体性に欠ける。どんな種類の会社の社長になって、何かをしたい、という訳ではなかった。

 「社長の椅子」なら、うどん屋の社長でも造船会社の社長でも構わないのだから、おかしいと言えば確かに少々おかしい。この可笑しさから見ても、小二の女の子が何年経っても「アカンタレ」の私を、強く支配していたとしか思えない。 


 困惑した教授は、「大学に残ったらどうかね」と話を百八十度変えた。学業成績が多少は良かったからで、助け舟を出してくれた積りである。今に思えば、「青っぽ過ぎる」私を眺めて、このまま世間の荒波に放り出すのは、如何にも過酷と思われたか? 或いは、もし大手の造船所なんかへ就職させると、難破船でも建造しかねないと、教授なりに別の心配もされたらしい。


 けれどもーーー、今度はそれが私には突拍子もない提案であった。何故なら、先ず「大学で勉強して、延長戦で将来も大学へ残る」というのは、余りに変化が無さ過ぎると感じた。次にたとえ大学に残って研究しても自分の脳では、ノーベル賞の可能性は極めて薄いと別の心配もした。


 そんな風に双方の思惑がすれ違ったが、教授の親心を知らず、申し訳ないと自覚しつつも、私は改めて研究室へのお誘いも丁寧に断った。手に負えないと匙を投げられたか、この件は教授から助教授へ下ろされた。


 私は助教授の部屋でも同じ話を繰り返した。五十前の助教授は、懸命に話す私の顔をじっと眺めていた。やがて、穏やかに微笑しながら「若さがうらやましい」の意味の事を言った。言い方がしみじみとしていたから、助教授は自分の人生と重ね合わせたのだろうか。歳月を経て自分が失ってしまった情熱を、生真面目な学生の青さの中に見たのかも知れない。

 助教授は考えた末、S社という二部上場の小さな工事会社を紹介してくれた。


 大阪の会社で会社四季報と言う本にも載っている。自分なりに調べてみると過去何年にも渡って大きな収益を上げ、それに見合って株主配当も高率であった。有名ではないが何となく将来性があり、優良会社に思えた。小規模だから、手早く出世して社長になれそうである。

 助教授は懇意にしていたS社の人事課長を大学へ呼んでくれた。研究室内で、いわば面接試験を行うみたいな形になった。


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