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余程凶暴な人間

 この清掃工場の存在は、構内に入ったのは初めてだったが、普段のWalkingの習慣で地理的位置は知っていた。近隣にバスが通っていないのも知っていたから、自分の車までビッチリ歩かざるを得なかった。疲れ果てていて、歩くのに流石にすたすたとは行かなかったが、幸いにして田んぼのあぜ道を抜ける近道を知っていた。覚悟を決めて休み休みのろのろと暑い道を戻ったが、3kmは充分にあった。


 ほうほうの体で車にたどり着き生還を果たした時、歩数計は3万歩(約6kmほど)を越えていた。82の年寄りがよく死ななかったものだ。普段Walkingで鍛えていたお陰で、でなければ、この日筆者は確実に三回は死んだはずだった。

 幸いだったのは登山ではなかったから歩き回るのに高低差が殆ど無かった事だろう。


 障害物競走みたいに、飛び越えたり乗り越えたりが多かったから抜け出すのに時間が掛かったけれども、案外体力を使い切らなかった。道に迷って気持ちが動転していた時は、十分か十五分の積もりだったのが、実際には五分か六分しか経ってなかったのだろう。それにしても、実にアカンタレだったなーーー。


 ついでに感じたのは:岩岡村は大変良い処だ、けれども数少ない問題がある。道端にも林の周りにも出逢うような人がいない孤独さと、清掃工場の敷地も含めて住人は大部分が大年寄ばかりで、ブドウ園が人を殺しかねない程広すぎる事と、新幹線はおろか流しのタクシーも無い不便さだ。改善のために村長へ一筆啓上しようかと思った。


 会社に戻ったのは(12時過ぎに原生林へ足を踏み入れてから)4時過ぎになっていた。(心配した)社員に訊かれたが、無論遭難し掛けたなんて言わない。疲れた風は1%も見せず「なに、町のDIY店へ必要な特殊工具を探しに行ってたんだよーーー、たまたまそこで知り合いに会ったものだからーーー、つい話し込んでね」とだましてやった。

 腕や首筋が傷だらけで血が滲んでいたから、知り合いというのは余程凶暴な人間、と思ったかも知れない。


 話はまだ終わりではない、実はここからが本番なのである。



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