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今は明治ではない

33.今は明治ではない


 大学生になっても決意はいよいよ衰えない。それが証拠に、大学卒業時に就職先として主任教授から超大手K社を斡旋されたが、それを断った。人が羨む一流会社である。当時は今と違って、主任教授の威光に逆らい難い処があり、絶対服従に近い。

それを敢えて断った勇気の元は、そんな巨大な会社では到底「社長のチャンス」は巡って来ないと考えたからだ。主任教授とは言え、同意する訳には行かない。


 教授の怪訝な顔へ、「会社が大き過ぎて、社長になれないから」と、恐る恐る応えたのを覚えている。私が熱心に語る話を聴き終わっても、教授は暫く物を言わずポカンとして、放心状態になった。先ず、自分に逆らう学生が居るなんて思わなかったから、精神的ショックだった。それに加えて、古びた考古学の書物を1ページめくった気がしたろうか:


 「末は社長か大臣かなんてーーー、今は岩崎弥太郎の明治ではない」と、顔に書いてあった。こっちだって、今が明治ではなく昭和(当時)なのを知っている。が、何の根拠も無かったが、私にだけは「明治時代の特例」が適用されるべきだと考えていた。


 教授の戸惑いは、もっともかも知れない。

どんな親も子の尻を叩き猫も杓子も好い成績を上げようとする。今じゃ、幼稚園にも入試があるらしい。厳しい受験戦争に勝ち抜き、良い高校から良い大学へ入ろうと努力するのは、ちゃんと目的がある。それは、最終目標として「良い会社」へ入る為に外ならない。


 だのに、天下の一流会社を断るなんて、権利の放棄どころか乱用みたいなもので、あってはならない愚かな行為と、教授は考えたようだ。気持ちは、つぶやきになった:

「君は、過去に例が無いケースだーーー」


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