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片足でケンケンしながら歩けた道

 確かに「普段なら」お爺さんの考えは正解だったろう、しかし今日は決して「普段ではない!」。こっちはこっちで、お爺さんの間延びした驚愕の様子を眺めて、流石古老ともなると過剰反応を起こし、しかも感情を表すのにとても長時間掛かると判って、非常に落胆した。選りによってこんな人に頼っておればサハラ砂漠で共倒れになる:「エライコッチャ!」。


 こっちの内心では岩岡村まで車で送り届けて欲しかったのだが、驚くのに相当時間が掛かる古老へ「ああしてくれ、こうしてくれ」とはとても言い出せない。筆者は思いやりが深かったから、パワハラだけは避けたかった。


 すれ違いのやり取りを暫く続けた末、互いに相手を誤解している点において、ついに両者の意見は完全に一致した。作法に倣って名乗り合い、二人とも100歳を超えていない点でも同時に合意した。そうなると何故かうきうきした感覚で打ち解けた仲となり、愛情さえ芽生えかけた:やっぱり暴力に訴えなくて良かったーーー、何事も「話せば解かる」のだ。話し合いの大切さを痛感した。


 岩岡村は目の前の林の向こう側にある。ブドウ園を経由すれば距離は延々と遠いが林を突っ切るなら方向として反対側なので、30分もあれば充分で近いもんだとお爺さんが説明した。(林の中の道)を丁寧に教えてくれて、もし迷ったら「あの高圧電線鉄塔」を目印にしなさい「そこが岩岡村なのだから」と太鼓判を押し、遥か遠くの鉄塔を指した。迷子ゲームの見通しはとりわけ明るくなった。成程、目印の鉄塔だーーー。


 「林を越えればすぐ近い・三十分・鉄塔の方向」とのお墨付きを得て、体にムチ打ち老眼鏡をかけ直して再度林へ侵入した。結論を先に言おう:踏み込んだコースは飛躍的に複雑になり劣悪な環境に陥った。後で気付いたが、目印の高圧鉄塔は木々に遮られて一旦林の中に一歩入ると皆目見えなくなってしまった。騙されたと気付いた時には、末期のガンみたいに手遅れだった。

 土地の人なら簡単なコースで、片目をつぶって片足でケンケンしながら歩けた道だったろう。が、部外者で初心者なら古老の言葉を額面通りに受け取ってはならない、と極めて重要な教訓を得た。


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