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サハラ砂漠

 畑というよりもっと面積がある農園であった。目の前に幅が5m程の農園を貫く土の道が横たわってあった。多分シャインマスカットだが、産地と称するだけあって植えられたブドウの木が延々と果てしも無く続いていた。どちらを眺めても道の先に人家は見えない。


 老人にとっては、これが数学の無限関数を解くのと同じで、サハラ砂漠の砂粒の数を数えるようなものだ。方角が分からないのである。いや、太陽の位置と遥かに霞む遠方の山々から東西南北は分かるが、自分が置いてきた車の方向がどっちだか見当がつかなかった。


 目の前には立派な道があるから、方向を決めて真っすぐに歩けば原生林の中とは違って堂々巡りする心配はない。いつかは農園の果てには行き着ける。けれども、ここでも林の中で悩んだのと同じ思考が起きた。82の体力が農園の果てに行き着けるかだ。しかも蒸し暑いと来た。途中で行き倒れになっても、死ぬことは無いにしても岩岡中( じゅう)の笑い者で、離婚騒動もあり得るーーー。


 疲れに加えて体が半分しなびてきたのは、五月の太陽に真上からあぶられて水分が蒸発したからだ。しなびた体でしなしなしながら取り敢えず5m幅の道を東へテクテク約500m程歩いてみた。そうするより仕方が無かったからだが、周りの景色は何も変わらない。ラクダがいないだけでサハラ砂漠と同じ。歩けば歩くほど逆方向ではないかと不安が増して来た。で、また元の場所まで無駄に戻ったから、これだけで往復1km。今度は反対の西方向へ1km程歩いた。やはり砂漠の景色に変化がない。スマホを手持ちしておくべきだったーーー。


 ブドウ園で作業する人が居るかときょろきょろしながら歩くのだが、目につくのは空を舞う数羽のカラスだけ。カラスは肉食と聞くが、まさかこっちが倒れるのを楽しみにしている訳ではあるまい。時期ではないからブドウの実は無く、水分不足と食糧不足と焦げ付く太陽熱で、人間スルメが出来上がるのは時間の問題。人は案外簡単に死ぬと聞いたことがある、と考えながら歩き続けた。


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