遠吠え
神社まで真夏は歩くのが暑いので車で行くが3分である。神社を囲む林の中で車に常備してあるゴザを取り出して敷き、おにぎりかパンと牛乳だけの昼食をし、寝転びながら新聞を読む。流石に真冬はそうは行かないが、真夏であっても田を渡る風が何時も肌に感じられて、耐えがたい暑さにはならない。
去年の夏だったが、昼休みに林の中でパンを食べながら、目の前の稲田の上スレスレで反転を繰り返す数羽のツバメを眺めていた。ふと目を下げた拍子に、直ぐ3m先に小さな(多分子供の)タヌキがいた。決してイタチではない。相手も想定外だったらしく、むき出しの真実に互いに戸惑った。見つめ合って一緒にフリーズしたが、向こうが先に目を二度パチクリさせてから、急ぐ風でもなく姿を消した。
タヌキが一体この辺りで何を食べて生きて行けるのか、後で不審に思った。しかしこれは筆者の杞憂で彼はフリーターではなく、ひょっとして中途採用で神社の神主の職を得ていたのだろうか。案外生活苦ではないかも知れない。ヘビに出会うのは珍しくないがタヌキは初めてだったから、この分なら次は狼が出て来ても不思議はない。遠吠えが聞こえるかと思って耳を澄ました。




