5回位潰れている勘定
本当を言うと、会社設立の当初は大いに大きくしたかった:冒頭に書いたように「大きくならなくてよい」というのは、実はやむを得ない面がある。業界自体がニッチ業界(=規模の小さな隙間産業)なので、鬼みたいに頑張って大きくしたくてもやりようがない事情がある。ひなびた温泉地に、五千人収容規模の大ホテルを建設しようかなんて出来っこないのと同じで、成功する筈がない。
営業マンが(仮に)現状で10人いたとして、これを15人へと増やせば、売り上げが1.5倍になると当初は信じていた。が、やっている内に、これはウソだと分かった。マーケットの大きさが営業マン10人分しか存在しないならば(と仮定するならば)、15人へ増やせば5人は仕事が無い事になるし、人件費だけが増える。しかも、5人はもともと仕事が無いのだから当然売り上げ成績は振るわない。
当時はこれを、「やつらの能力に問題がある」と決めつけた。毎朝朝礼で「頑張れ・頑張れ・死ね」と声を枯らして尻を叩くのは、理屈が合わない訳だった。単純な算数だったが、この「当たり前」に配偶者は3年で気づいたが、脳の悪い私は20年は掛かった。
一方で、会社の規模を大きくしないといけない業界があるのは確かだ。車がそうだし家電製品もそうだしネット通販もそうで、むしろ世に沢山ある。そういう業界では大きくならないのは罪で、罰として淘汰される。これを世間で見慣れていると、「ウチも大きくーーー」と錯覚しがちになる。私が20年掛かったのは、そんな偏見から抜けられなかったからだ。ところがウチの属する業界は全く180度異なった、ニッチだから。
改めて世間を眺めると、大きな会社が必ずしも安泰とは限らない。最近でもシャープが2700億円の赤字計上とか、ソフトバンクは9700億円赤字とか聞く。儲かる時は大儲けするが、調子がわるくなると死ぬか生きるかとなるから、ある意味で脆弱だ。会社とは違うが、我が国の財政経営も一年分の国家予算の10倍以上の借金を抱えている。もし民間企業なら5回位潰れている勘定になるが、政府は人の(=国民の)金と思っているから呑気なものだ。
それを思えば少人数の零細企業ながら、リーマンショックを生き延び、コロナ禍も切り抜けて一度も赤字を計上しないウチは、褒められても良かろう。会社が設立されて30年以上無事に生き延びる生存率は数万社に1社しかないと聞くから、こうなるとウチはもうアインシュタインに次ぐ天才だ。有名なドラッカーの経営論を必ずしも信用しなくなったのは、このせいである。




