秘かな決心
30. 秘かな決心
話せば馬鹿にされるし、話しても判る知能がある相手ではないから、親にも人にも内緒にした。五面の敵に対する「仕返し」だけに、「社長になる」決心は半端なものではなかった。
先ず、決心は人を変える: 先に書いたけれども、死ぬほどの痛さは変わらなかったが、これを境に私はカルシウムの注射でベソをかかなくなった。次に、苛められる事も無くなったのである。将来社長になった時に、「昔泣き虫だった」てのは、様にならない。将来の自分に自ら泥を塗るような事はすまいと思ったからだ。
ただ、決心は大したものだったが、思い通りに行かないのが人生。小学生も人生の範疇に入る。何時もクラスでビリから勘定されているような社長は、世界中におるまいとやや深刻に考えた。何とかしなければならない。しかし、そう「思う」だけでも「思わない」よりは大したものであった:
凧の揚げ方は知っていたが、成績の揚げ方というのは、小二の知恵では見当が付かない。第一に凧紐を付ける場所がないし、そもそも物を「覚える」という意味さえ理解しがたい。多分「忘れない」事だろうとは推測が付いたが、「忘れる」のはオネショをするみたいに自然勝手な現象だから、人間の意志でどうこう出来る範囲ではないと考えた。因みに私は小二でも、週に一度は確実にオネショを敢行していた。人並み外れて個性的だったのである。




