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バラ色で天下のミルクコーヒー

 他方で先のエッセイで書いたように、ウチの会社には上役が居ない。即ち管理が「緩やか」だから、社員達もギスギスしていない。「売上を上げよ!」と(昔のように)声を枯らして尻を叩かなくなったからで、仮に営業マンが丸一日事務所から外出しなくても咎められる事はない。だから、ウチに限って天国は死後の世界ではないと何度も書いた。


 けれども実を言うと、当初から会社は天国を目指していたわけではない。以前は泣く子も黙る鬼の商社で、厳しい管理だった。成績の悪いのは積極的に辞めて貰った。ブラック企業と呼ばれるのを(呼ばれた事は実際には一度も無いが)、むしろ誇りに感じるくらいだった。


 そう書くと人聞きがわるいが、決して社員に対してブラック(理不尽)だったわけではなく、優先的に「当たり前」(=合理性)を押し通していただけだった: 給料をもらう限りは給料分を働けと言っていただけでこれは当たり前だし、能力が未熟なら(=何時までも損益分岐点に達しない)、「貴方はウチの仕事と相性が悪いと思うから、新しい世界で自分に合った仕事を探した方がいいんじゃないの、その方が人生幸せだよ」と言って転職を促しただけで、実はこれも当たり前。あの松の枝ぶりは首を吊るのに丁度いいなんて感じても、個人的感想を一度も言った覚えはない。


 当たり前の事をミルク無しにストレートにやるとブラックコーヒーと見られるのはよくある話で、そうする内にエリートばかりが残ったのが今の会社で、どこから眺めてもバラ色で天下のミルクコーヒーの会社である。



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