こっそりワシに教えてくれ
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いやいや、そんな話ではなかった。歳が入ってからの健診(人間ドック)は、若い時とは様変わりな対応をされるから、良くも悪くも読者へも注意を喚起しておきたいーーーのが目的であった。これは本人にとって歓んで良いのか悲しんで良いのか、本当の処は分からないのだが。
先般大きな病院で受診した。血液検査・身長・体重・心電図・レントゲン・胃カメラー――で、体中をくまなく調べた。が、先の理論から言えば「読書好き」か「お喋りの多寡」も検査して欲しかったのだが、この病院の意識はそこまで高くはない。
視力検査は、もともとバクチの要素が大きいが、最後の最後の目に見えない位小さなマークの切れ目を示された。前後の確率から慎重に計算して、「下!」と言ったら、的中して1.5ですと言われた。昨年は1.2だったから、若返って近眼の歴史始まって以来の世界最高記録となった。確率計算に集中した脳力の勝利は明らかで、眼力の勝負ではなかった。来年は2.0を目指そうと思う。
他の全ての肉体的検査結果が数値として出て、最終プロセスとし医者との面談になった:筆者も近年見慣れているが、数値に赤い数字が多い。ノーマルな範囲を逸脱しているのだ。血圧・血糖・コレステロール値は結構高い数字だ。血糖など糖尿病発症すれすれですねーーーと医者が独り言を言った。独り言を使う処が、大いにみそだ。
40過ぎの医者は、面談で筆者にこんな趣旨の事を説明した:「貴方と同年の年寄りを、私は商売柄沢山診ています。が、同年の人に比べて貴方はとても元気そうに見える。表情も生き生きしているし。何か特別な健康法でもやっているのですか?」 (こっそりワシに教えてくれ、と言わんばかりに)尊敬の眼差しを向けた。
更に「元気な81の貴方に、若輩の私があれこれ指示をしたり、xxxを禁じたり、zzzを止めなさいとは言いにくい。むしろ、この赤字の検査数字があるからこそ、至極お元気でおられるのではないかー――と私は思うのですよ」、と医者の説明は好意的であった。




