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第8話

目を見開くと、そこは紫紺の光に包まれた空間だった。


『私のやり方が間違っていると言うのですか?』


 光の中で、聞き覚えのない女性の声が耳に届く。何事かと思い、周囲を見まわしたが女性の姿は見えない。



『そうよ。差別を助長する教えなんて間違っているわ。なんのために私達はこの世界にやってきたの? 自分の王国を作るため?』


『理想は理想。結局、平等を実現しようとしたから、あの世界は……。神の教えの通り、私達が地上を支配した方が人々は幸せになるのよ』


『そんな過去の遺物を信じた人間が、戦争を起こし、人々を迫害したんじゃない……』



 先ほどの女性とは異なるもう一人の女性の声が耳に届く。


 二人の会話は、顔見知りのそれであったが、激しい口論を交わしている。差別や戦争、理想などと言った言葉をそれぞれ口にする。


 若い女性であるが故の理想と理想のぶつかりあいと言えるのだろうか?



『正当化するつもりはないわ。でも、結局はそれが心理よ。私達がものを与えても、彼らは欲望を優先して対立するか、守銭奴たちに操られるだけ。意味なんて無いわ』


『それで、他の教えも迫害するの? 私達と志を同じくしてくれた人々をも否定して?』


『所詮、彼らは道具よ。私達の義務を果たすためのね』


『義務ねぇ……』


『ルルーシア? どこへ?』


『その義務とやらを果たしに行くのよ。でも、貴女たちとは道を同じく出来ない。ジェノーラ達は、私を裏切りものと罵るでしょうしね』


『考え直して。貴女の考えは理想でしかないわ』


『理想でけっこう。私の考えは変わらないし、変えるつもりもないわ』


『いくら私達に力があるとは言え、一人でなんて無理だわ。他の人達も納得してくれない』


『変わったわね貴女。私の思いに賛同してくれる子達もいるわ。彼らと一緒にやってみせるだけよ』


『…………どうして分かってくれないの? 私達は二人だけの姉妹なのに』


『貴女が変わったからよ。理想が裏切られたからって、人々を不孝にするようなやり方が許されるはずがない。せいぜい、聖女を気取って、信者たちに祭り上げられているがいいわ』



 なおも口論は続く。どうやら、二人の女性は姉妹のようであるが、迫害や差別などを正当化?しようとしていた女性が口にした“ルルーシア”と言う名前。

 それが、今、立ち去ろうとしている女性の名のようであったが、どこか聞き覚えがあるように思える。

 だが、それが確信に変わる前に、聞こえてくる声はひどく変質したそれになっていた。



『私の何が間違っていたというの……?』



 虚ろな調子で何かに問い掛け続ける声。



『どうして、私を裏切ったの?』



 今度は不義を咎める声。



『どうして、私を? どうして…………』



 そこから先は、自身に対するあらゆる仕打ちの理由を問いかけ続ける声。その内容は、おぞましいに一言であったが、声の主が他者からそこまで憎悪を向けられる理由があったのか、それはなんであるのかが理解できなかった。




「分からないでしょうね。そして、それを話す気も無いわ。私は、貴方の身体を私の新しい身体にしようとした。でも、それは私の身勝手。だから、こうして……」


「えっ!?」



 そして、それまでの虚ろな声が一片、はっきりと、やや幼さの残る口調となって自分に声をかけてくる。

 驚きとともに目を見開くと、今はラウネーとしての姿に戻っているヒュプノイア、オルフェノ、ジェノン神官長。そして、見覚えのない銀髪の少女。



「ごめんなさい。貴方を傷付けてしまって」


「君は?」


「あんたが殺した女よ。まあ、殺しても死なない因果な生き物なんだけどね」



 身を起こした自分に対し、ゆっくりと頭を下げてきた少女に対し、困惑気味に問い掛けるも、代わりに答えたのはヒュプノイアであった。


 殺した女。そう言われて、気を失う前の光景が目に映りはじめる。


 締め上げられる首、憎悪に彩られた虚ろな瞳とボロボロの身体。

 彼女に何が起こったのかを知るよしもなかったが、目の前に無防備に額を晒している彼女に対し、躊躇うことなく銃を突き付けてその引き金を引いた自分。

 そして、大地に咲いた大輪の花を見つめながら、突如として襲いかかってきた黒き光を浴びると、意識を失ってしまったのだ。



「どういうことだ?」


「まあ待て、とりあえずフソラ」


「はい?」


「無事で良かったぞ。ただ、無茶はいかんな」


「はい……」



 先ほどまでの出来事を思い返していたが、どうにも少女の姿との関連性が見えないまま、首を傾げるも、それに答える前にオルフェノが進み出てきて頭を撫でる。

 たしかに、無茶なことをしたとも思う。だが、ヒュプノイアの危機でもあったし、何より……。



「そう言えば、あの子は?」


「あの子? ああ、迷子の女の子ね。迎えが来て帰って行ったわよ。貴方にお礼を言っていたわ」



 自分を庇うように立った少女を逆に庇うようにして自分は女性に捕らえられたのだ。

 そして、法術を使役するにあたって、少女の言が助けになった事も事実。

 だが、すでにこの場に居ないのならば問い掛けようもない。それに、大人たちの反応を見ると、あまり話したいことではない様子である。



「それで、この子が、私の“殺した女”とは?」


「貴方に頭をぶち抜かれた女よ。私は」


「どういう事だ?」


「隠したって仕方ねえな。フソラ、お前は子どもだが、中身は大人みてえなもんだ、馬鹿な騒ぎはしないだろうし、ラウネーもジェノンもいいな?」



 そして、この場に居ない少女のことよりも目の前の少女のことである。


 自身の問いに少女は鸚鵡返しをしてくるだけで、話に進展はなかったが、オルフェノが白髪の交じりはじめた頭を掻きながら進み出て、ヒュプノイアとジェノンにも了解を取る。

 二人が頷いたのを確認すると、オルフェノは少女の頭を撫でながら口を開く。



「お前さんがこの前に見た得体の知れない女が居たろ? あれは、“邪神ルルーシア”その人さ。んで、こいつは“ただのルルーシア”だ」


「端折りすぎでしょ。ようは私達に襲いかかったボロボロだった女から邪気を取っ払って残ったのがこの女の子って事よ」


「女の子とは失礼ね。貴方と同じで500年近く生きているばばあよ? 私は」


「女神様。ともあれ、フソラ君、君が一時的とはいえ、彼女を殺害した事で、彼女を狂わせていた邪気は払われた。加えて、彼女を女神として存在させていた証拠も役目を終えた」



 そんなオルフェノに続き、ヒュプノイアとジェノンも口を開く。


 彼らの言を借りれば、彼女は“邪神ルルーシア”と言うことになるのであろうが……、自分が殺した女。あの虚ろな姿をしていた女性が、目の前の少女であるという。

 いくら何でも荒唐無稽すぎる。



「それを信じろと言われても、さすがに……」


「ただとは言わんよ。左手を見てみなさい」


 そんなジェノンの言に、視線を左手へと移す。すると、そこには見覚えのない刻印の姿。

 十字架といくつかの円が交錯する象形を鎖のようなものが幾重にも取り巻き、禍々しき形を作っている。

 そして、先ほどの夢の中で見たような、どす黒い紫色と黄色の入り混じった不気味な光を静かに灯していた。



「これは?」


「私が身に宿してた“黒の刻印”。償いや許し、憎しみや慈悲などの人々の感情や意志。それらを総称する混沌を司る力を持つ」


「宿していたとは?」


「さっき言ったとおり。神とて下界に降り立ち、命を失えば死ぬ。だが、消滅する前に、貴方の身にそれが宿ったことで私の命はここに残された。無意識のうちに、貴方が私を刻印から解放したんだと思うけどね」


「どういう……?」


「神なんてものはいない。私達は、たまたま大いなる力を得る事が出来た人間でしかないのよ。だから、下界に降り立てば傷つくし、刻印を奪われるなり、破壊されるなりすれば、消滅という形の死を迎える。ただ、私の場合、刻印が自らの意志で離れてくれたから消滅せずに済んだというわけ」



 刻印と自分を交互に見つつ、少女――ルルーシアは淡々とそう告げてくる。


 かつて、邪神と呼ばれていた人間が、『神なんてものはいない』と、聖職者であるジェノンと一応、ラウネーの前で口にするのはいかがなものかと思うが、二人も咎める様子は無い。

 ラウネーはともかく、ジェノンは神官長として信心深い人間だと思っていたので以外ではある。

 ただ、ルルーシアが口にした『人間』と言う言葉が引っかかるが、今はこれ以上話してくれそうになかった。


 それよりも、彼女が口にした最後の言葉の方が重要な意味を持ちそうである。



「刻印が俺を選んだと?」


「ええ。だから、私はここにいる」


「俺に、どうしろと?」


「別に何も? 私が女神なんて持ち上げられていたのだって、刻印の力で好き勝手やっているうちに仲間たちが色々と手を回していたから。それでも、期待に応えるべく頑張ってきたけどね。結果として、貴方たちに迷惑をかけてしまったから……」



 そんな自分の問い掛けに、ルルーシアは淡々と答える。


 女神の力を移譲された形になったとはいえ、その使命までを背負わせるつもりはないという。

 借りに背負えを言われても、正気を失い、ボロボロになるまでそれを果たそうとしたルルーシアのような真似は出来そうもない。

 それ故に、使命までを背負わされることが無さそうなのは救いであったし、彼女自身、使命の引き継ぎ等々より、自分やヒュプノイアに襲いかかったことを気にしている様子だった。



「ですが、女神様は誰も害しておられない。神殿と致しましても、逃走した邪神が消滅としたとなれば、これ以上の追求はありますまい」



 そして、そんなルルーシアに対して、ジェノンは優しく語りかける。“邪神”と呼ばれる以上、神殿とは敵対関係にある神であったが、その役目を終え、邪神そのものが消滅した形になっている。


 神殿も、一介の少女となった彼女を害する事は出来ないだろう。



「これ以上の重きを背負わせるつもりはないけどね。ただ、注意が必要なことはいくつかあるわ。時間はあまりないけど、出立までの間に私とこの子で貴方に教えておいてあげるわ」


「よろしくお願いします」


 そんなヒュプノイアの言は、多少引っ掛かりを覚えたものの、今は必要な知識でもあった。







 ……それから数年。


 あの日から数日後、ヒュプノイアはルルーシアを連れて中央へと去り、オルフェノも隠居の身から軍籍へと復帰。南方諸国との国境紛争を勝利に導く。

 その間、自身はジェノンの下で、これまでと変わらぬ日々を過ごしていった。

 田舎の神殿。権力争いとは無縁とも言える地。

 だが、自身を取り巻く数奇な運命は、この先もさらに動きを増していこうとしていた。

序章はこれで終わりになり、次章から本格的に内政、国盗りなどには行って来たいと思います。

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