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悪人

 一文字源次郎にとって、殺人は快楽だった。

 他人を支配するということはこの上のない「蜜の味」を与えてくれる。首を絞め、助けを乞い泣き叫ぶ人間をいたぶるのは、彼にとってセックスをするのと変わらなかった。全身に電撃が走り、脳髄が痺れる。犯行の際射精することもままあった。

 彼はこれまでに十三件の殺人を行い、警察によって全国指名手配されている身である。しかし彼が一向に捕まらないのは、何も隠れる手段に優れているからではない。

 自分に歯向かう人間を見ると、彼は堪らなく嬉しくなった。多勢でかかってこようと、制圧することができる自分のパワーが誇らしかった。

 特殊能力を備えているわけではない。飛び道具を使うわけでもない。ただ一文字源次郎の「存在」が「重い」というだけの話である。硬直させるのに足る「重圧」を相手に与えることが出来るだけの話だった。「恐怖」の前に人類は無力である。精神を破壊されれば、どんな力自慢の人間でさえも、赤子と同様であった。

 一文字源次郎を「ハンティング」することは、警視庁によって禁止されていた。あまりにも「危険すぎる」からである。書面上「死亡に関して責任を取らない」と言い張ったとしても、遺族にしてみれば関係ない。警視庁は悲しみや憎しみの矛先がこちらに向くのを恐れた。ハンター制度の早期廃止を行うための調整に追われる日々である。

 そういった「裏側」のことを、ハンターたちが深く考えるわけもなかった。禁止事項とは言え一文字源次郎を「ハンティング」すれば間違いなく多大な賞金を得られると踏んで、果敢にも挑む人間は少なくなかった。一文字源次郎と遭遇するをよし、自分の肩書きを過信して、逆に殺害されるという事件が相次いだ。これらは主に初段から三段のハンターが多かった。五段ハンターともなれば「嗅覚」が過敏になり、危険なものを避ける習性を持っていたからだ。

 一文字源次郎はこの現象を疎んじた。あくまでも自分の快楽のための所業を、ハンターなどという下らない人間に邪魔されることが耐えられなかった。もとより女子どもを陵辱するのが好きだった一文字源次郎は、まずこの「邪魔者」を排除することに、専念し始める。

 彼の「ハンター排除運動」に賛同する「悪人」は多く、いつしか悪人も「組織化」するようになった。

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