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友人

 浅野慶介の少ない友人の中に、幼少期から関係が続いている人間が一人だけいた。高井弘樹といい、二軒隣に住んでいる同い年の青年である。兄弟の居なかった浅野慶介にとってこの高井弘樹という人間は兄であり弟でありそして親友でもあった。小学生時分、母親の居ないことをはやし立てられたとき、守ってくれたのは高井弘樹だった。浅野慶介が暗い人格にならなかったのはこの親友の存在が大きいだろう。父親をも、この高井弘樹には感謝の念を抱いている。

 進んだ大学は異なったが、高井弘樹もハンターアプリをインストールしていたので、休日になると一緒になって町中に繰り出しては「条例違反」を探していた。貰える報酬なんてすずめの涙ほどもないが、彼らはあくまで「正義感」によって行動しているに他ならない。何事にもきっかけが必要なだけで、彼らにしても「見過ごしていた違反事項」を「指摘できるきっかけ」がそこにあったから利用したに過ぎない。

 浅野慶介も高井弘樹も、あっという間に一級ハンターになった。いくら条例違反や軽犯罪が減ったとは言え、こういったものは絶対にゼロにはならない。それが人間というもので、社会というものだからだ。

 高井弘樹は初段への認定試験を受けようと浅野慶介を促した。ここまで順調に試験をパスしてきた二人だし、やってやれないことはないとそう思っていた。

 浅野慶介はしかしこれを断る。

「自分の正義はあくまでも自分の身の安全の上に存在している。これ以上を求めて自滅することは望ましくない」

 それが彼の意見だった。

 先に述べたように、初段以上は「殺人」などの重罪を「ハンティング」することが「求められる」ようになる。これまでのように町中でふらふらとして違反を見つけて報告するというだけでは済まなくなるわけである。

 それはもはや自警団と言って変わりないレベルなのだ。

「それに、犯罪者はいくら捕まえても湧いて出てくるが、僕は一人しかいない。僕の変わりは存在しない」

 浅野慶介の頭には、ここまで自分を育ててくれた父親の顔が浮かんだ。自分がこんな「警察もどき」のことをこれ以上続けて行って、もし死んでしまったとき、父親がどんな想いになるのか、大学生にもなれば理解できないはずもなかった。母親の無念を理由に据え置いて勝手を許してもらっていたが、ここから先はそんなことも通用しないと思っても居た。だが、高井弘樹は首を振る。

「世の中に、ヒーローは必要だ。俺はそうなりたい」

 

 浅野慶介の父親が殺害されたのは、それから間もなくであった。犯人は職場の同僚で、

「ずっと憎かった」

 の一言ばかりの動機が、報道された。

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