六級ハンター
浅野慶介はどこにでも居る大学生の一人で、周囲の友人たちと同じようになんとなくハンターアプリに登録をしている人間だった。当然、登録しただけの人間には何の報酬もない。勇気に値段はつかないし、本人にしてみても他のSNSなどと同様に「流行だからやっている」という程度の認識でしかなかった。
彼は生まれてすぐに母親を亡くし、高校教師である父親の些細な給料で育てられた。兄弟はなく、友人も多くはなかったが、この片親からの多大な愛情によって、何ら問題を抱えずに大学生にまでなった。
母親は交通事故によって死亡した。そのときのことを浅野慶介はあまり覚えていないが、どうやら現場には自分も居たのだと、十八になったときに父親から知らされた。彼はこの事実に関して衝撃を受けなかった。知ったところで居たような気もするし居なかったような気もする、そんな曖昧な記憶しか持ち合わせていなかったからだ。どうせ覚えていない、ということが彼にとっては防波堤となって、仔細な過去を追及しないようセーブしていた。それは「自分が事故の原因であったかもしれない」という不安を押さえ込むためのものだった。知らなければ何とでも誤魔化せる。
ハンターとしての自覚は乏しかったが、それでも元来正義感のあるほうだった浅野慶介は、「ハンター制度」樹立以前は見過ごしていた数々の「条例違反」を報告するようになった。運転中の携帯操作や自転車の二人乗り。違反者自体がその自覚に乏しいことを自分が指摘している、その事実に対して、次第に快楽を覚えるようになる。優越と言っても良い。父親の教えによって彼は間違いなく「狩る側」の人間であったし、母親の死によって「悪に対する悪意」は十分に備えていた。
彼は彼自身の思惑を抜きとして、次第に位を上げていった。




