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ハンター制度

 二○十五年七月。警視庁により「ハンター制度」の樹立が発表される。

 環境省の発令した「ギルドキャンペーン」を大元とし、歩き煙草やポイ捨てと云った条例違反をスマートフォン専用のアプリにて報告することにより「位置情報」「犯人の様相」と引き換えに微細ながら報酬を獲得できる制度で、数年前に流行したハンターゲームの主な客層である若者を中心に波及。各種報告内容に対してランク付けが行われており、これらによって報酬が異なる。「ゲーム脳」を刺激する画期的な制度だと話題になった。

 二○十五年十月。報道各局により「ハンター制度」の如何を問う特集番組が組まれ、これにより幅広い年齢層がこの制度をより深く認知することとなる。専門家の一人は「これは一般市民を危険に晒すことになりかねない」と言及するが、番組に参加した芸能人は「軽犯罪の軽減は事実である」と反論。不法投棄が再三行われていた山間地区のVTRが流されるなど、「ハンター制度は良いものである」というイメージ付けがなされる。

 二○十六年一月。警視庁により「ハンター制度」の改変が発表される。

 これまでとは違い「条例違反」のみに関わらず万引きや引ったくりと云った「犯罪」に対しても、対応した市民に報酬を払うことを約束する。ただしこの場合「資格」が必要となり、「資格」を持たない人間が報酬目当てに危険を冒した場合は結果を問わず却って厳罰を下すと注意を促す。

 資格は国家試験によって得られるとし、その階級は最上位を一級として以下六級までと設定される。二級以上が「犯罪」を指摘できる立場となる。関連本が広く出回り、書店に行けば必ず何種類かの「問題集」が平積みされる状況となった。

 二○十六年五月。一級ハンターたちの署名活動により新たに五段までの五つの「段位」が追加される。これらにより「殺人」や「強盗」を「ハンティング」することが可能となった。初段以上の人間は「銃刀法違反」を免除され、ナイフや銃の携帯を許可された。ただし、犯罪に巻き込まれ怪我、あるいは死亡した場合に関して警視庁は一切の責任を負わないという書面にサインをすることが義務付けられた。

 この時期になると「つい」「魔が差して」と云った動機が報道されることは一切と言って良いほどなくなっていた。「正義」がより「正義」を求めるのと比例して、「悪」はより「悪」に染まっていったと言って間違いではない。

 この件に関しては非常に多くの批判が飛び交った。それらの批判を受け、「ハンター制度により確かに軽犯罪は減ったが、それは決して『日本社会の浄化』には結びつかず、却って生粋の『悪人』を生み出している」との考えが一般的となった。

 日本には「ヒーロー気取り」の人間が増え、より強大な「敵」に殺害される、という事件が相次いだ。「職業ハンター」という肩書きが、報道番組で死亡者として伝えられることが少なくなかった。

 二○十六年八月。「ハンター」の遺族たちの署名活動により、「ハンター制度」の年内廃止が確定。

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