八話:明日から
その後は王から心からは言っていないであろう世辞を聞き、マルクとは表面上和解、まぁ向こうは嫌々というか復讐心を燃やしている様子だったけどな。
そして謁見が終わり部屋に戻るとまた呼び出され、待ちに待った夕食の時間がやってきた。
気になるメニューは洋食だったな、ナイフとフォークに苦戦したが普通に美味しかった。
ナイフやフォークも黒曜石っぽい材質だったので聞いたが、どうやら食器でさえも金属は使わないらしい。
最初は切れるのか不安だったが流石、難なく扱うことができた。
ただ終始マルクから睨むような視線を送られ続けるのは気になったな。
そんなこんなで今日はやるべき事も無くなり、最初寝ていた部屋にラルと戻ってきて話をしていた。
窓が開けっ放しだったのをすっかり忘れていたが別に虫も入ってこないし暑さも風が気持ちよかったので放置している。
ちなみに明日は国民に勇者召喚をし、新たな勇者が誕生した事を周知させるらしい。
俺は居なくていいのか聞いたら『黒髪では術不能者と間違われるから居ない方がいい。』との事。
言い方は気に入らないが明日からは自由に行動出来るのだ、文句はない。
なので、ラルと明日からの予定を練っていると言うわけだ。
ちなみにラル自身は別に城に居たいなどというわけでもないらしく、旅に出るという案に快く賛成してくれた。体力的な方向では問題が有るがそれよりも長いこと城に居続けるのは得策では無い、まぁ妨害魔法モドキとMPについて隠したいとラルを説得したのも理由だが。
あぁ、今後行動するにあたってラルには自分がMPが無いこと、ステータスを満足に見ることが出来ない事、妨害魔法モドキについての考察を伝えておいた。
だがMPが無いってラルには話した時はさして驚きはしなかったな、むしろ凹んでた。
何でも自分に問題があるからそれが影響したかもって。
それとなく女神のせいだと言っておいたが何故喜んでたんだか…
…話を戻そう。
そういう訳でお互いに案を出し合いながらどうするかを決めていった。
その中でも真っ先に決まったのが冒険者になって旅をするというものだった。
やはりこの世界にもあるらしい冒険者ギルド、そこで冒険者になり世界各地へと冒険の旅に出る。とここまでは共通の考えだったのだが、ラルは人の為に依頼を、俺は金と情報と人脈の為にと意見が分かれ、ラルからは『勇者らしい発言をして下さい』と注意されてしまった。
だが「金が無ければ装備は買い揃えられないし、情報が無ければ近々くるらしい世界の危機に田舎の村のカビの生えた様な伝承にしか出て来ない、正しく弱点をつかなきゃ倒せない敵との対面した場合に非常に困る訳だし、ましてや自分とラルの二人だけで世界を救うなんて到底思えない。賞賛はされたいがそれ以上にやらなければならない事はある。」
と説明した後で
「建前としてそう言うつもりではある。」
と言うと怒られた。だが反省はしない。
……これは推測だが、妨害魔法モドキの性質上自分には回復魔法は効かないはずだ。
そうなると必然的に自身が負傷した場合、薬を使った自然治癒に頼ることになる。
加えて回復魔法がある世界だ、薬学などろくに発展などしてないだろうと予想できる。
最悪の場合、薬すら無い可能性すらある。
ついでに魔法が使えないのだから撤退しようにも足止めの手段にどうしても乏しくなる。
何が言いたいのかというとだ、未知の敵に対して逃げられない状況に追い込まれて戦い、薬で治らない傷を作るのだけは絶対に避けなければいけない。
そのために知識、具体的には魔物と地形についての情報や怪我をしにくい頑丈な防具、または戦いの時に頼れる仲間が必要になってくる。
黒髪というだけで避けられる世界だ、仲間は集まらない可能性はあるがそれ以外は意地でも集めなければいけない。
現状ではこの魔法ありきの世界でいかに魔法に頼らない力を手に入れるかにかかっている。
金属装備についても考えなければならないだろう。
ラルのブレスレットを見る限り、この世界の多種多様な種族の中に金属加工が出来る種族がいるのは間違いない。
知識はないが金属が柔らかいという問題は合金やら鋼である程度解決するのではないかと踏んでいる。
更にいうと先のマルクとの決闘で使ったのはいくら刃があるといっても木刀だ、一般兵士の装備も木や石が素材なのを見るにあれも悪くない装備だったのだろう。
しかしそれは魔力を使っての話だ。
他人と比較して自分にとっては重く、切れ味が悪く、壊れやすい鈍器のようなものでしかない。
自分的な最優先事項として魔力無しでも軽く、切れ味が良く、そしてなにより頑丈な武器の調達は挙がるだろう。頑丈なのは術が使えないなら武器を破壊されると攻撃手段が無くなるからだ。
自分は何かオーラを纏ったラルに床に正座させられている。
「わ…悪かったって!冗談だよ!」
本当に冗談で言ったつもりなのだが、先程から続く勇者らしからぬ発言がどうやら怒りを買ったらしい。
ただ自分にもそう言いたくなる理由はある。
いつまでも傲慢で嫌な態度をとる王を快く思う訳がない。自分自信は異世界に行きたいと女神には言ったが、別にここに来たかった、と言う訳でもないのに一々周囲からは黒髪への偏見で嫌な気分にさせられる。更に勇者が勇者に絡んで決闘をするのを認めるのも絡まれる側としては面白くない。
今日一日、ラル以外の一挙一動が自分を不快な思いをし、ストレスが溜まる奴らに旅立つと報告してどうなるか?
最悪の場合『じゃあとっとと出ていけ。』と無一文で放り出されるのが少し考えれば分かるはずだ。
その意見はラルとも一致したから……だからほんの冗談で口走ってしまったのだ。
「まったく…不満があるのも分かりますが、発言がただの犯罪者ですわ。」
「それは認めるよ」
「そこは否定して欲しいですわ…」
「だがな、ラルだってまさかそんなドレス姿で冒険者をやるつもりじゃないだろ?」
半ば呆れ気味な様子のラルに真剣な態度で返す。
今まで暴走姫と呼ばれていただけあり城に軟禁状態だったため、お忍びで城下町探索…等ということもなく過ごしてきたため変装どころかよそ行きの服さえ無いそうだ。
今から何かお忍び用の服を仕立てて貰うよりも遥かに適当な物を買った方が早い。
更にいうなら高い安いに関わらず現物支給よりもお金の方が使い勝手が良く金銭感覚も養えるからな。
「まぁ…ですがまずは父上にかけ合ってみてからでもいいはずですわ。」
「だな。」
そんな意図を理解してか知らずかラルはひとまずおちついたみたいだ。
それをチャンスと見て正座から立ち上がり、起きてから開け放たれ続けていた窓から外を眺める。
「そうなってくるとやはり明日旅立つのは厳しくなるよなぁ…」
入りこんでくる風は穏やかだが窓の外では強い風が吹き雲が勢い良く流れていく。
「明日…雨でなければ良いのですが……」
「そうだな、一刻も早く冒険の旅に出たいしな。」
「そういう意味ではないですわ!」
「まぁ、何にしても」
一呼吸置いて、ラルに向き直り
「まずはお互いに戦える力を身につけなきゃいけない。俺には魔力が無いから魔力に頼らない力を。」
「私はこの暴走する魔力をしっかりと操れる力を、ですね。」
「そう言う事だ。お互い頑張っていこう。」
そう…明日晴れる事を祈りつつこれからの目標を誓った。
そしてこの時
まさかあんな事態になるとは微塵も考えてはいなかった………