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魔法がある異世界を魔力無しで生きるには  作者: リケル
序章 魔法のある異世界
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七話:黒髪と白髪

 「……そ…そこまでだ!」



(ジジイ)は唖然とした声色で、決闘終了を告げる。

周りの奴らも何が起こったんだ?って不思議そうな感じの顔だな。



「そんな…この一月、修業し続けてある程度の実力を手に入れたマルク様がこんな黒髪野郎に……」

と兵士の一人が呟く。



たかが一月修業してある程度実力手に入れただけでこんなに威張ってたのか、こいつ。

勇者ってこんなのばかりなのか…?

そうじゃないことを願いたいな。

それよりもなんだ?こいつ、黒髪野郎って。



「なぁ、黒髪がどうかしたのか?」


そう言って長すぎず短すぎない、自分の艶々の黒髪を弄る。



「テッシン様!」

決闘が終わって真っ先にラルこちらに歩み寄ってきた。

しかし何故嬉しそうにしてるんだ?



「あの…テッシン様。この世界では…髪はその人の魔力の才覚に反応し色が発現するのです。」


「それは知らなかったな。」



「それで…黒髪は……」


「おおかた全てに適性がないってところなんだろう?」



「……はい。」



なるほどなぁ、何となくおっさんに睨まれたのも(ジジイ)共が見下す視線だったりしたのもこれが理由だったのか。

魔導士共がステータスを見ようとしたのもMP辺りを見ようとしてたんだろうな、明らかに術不能者の特徴丸出しだったし…

ってかあれかよ!MP0だとは思われて無さそうだけど明らかに魔法が使えないって感づかれてるじゃん!

そういえばラルは綺麗な白髪だよな、艶もあって銀に見えないこともないし。

やっぱり黒と違って魔法適性ありそうだな。




「所でテッシン様、先程の決闘なんですが…。」



「なんであいつの魔法が消え去ったか、だろ?」


そういって涙や鼻血やらを出しながら床を這っている所を魔導士共に取り囲まれているマルクを見る。



「はい。あれは本当に妨害魔法なんですか?」


「いや、分からん。使いたくて使ってる感覚じゃないからな。」


そもそも魔法は扱えないはずなのだ。

まさかMPが無いのと何か関係あるのか?




「あと…あの………」


「ん?」


「私の為に剣を振るって下さって…ありがとうございます!」




…あれ、何かしたっけ?

もしかしてあれか?ラルの分って…手を叩き折った一撃のことか?

理由が無くて適当に言ったんだがな…

本来なら自分(ひと)を偽物呼ばわりしてきた分と、周りからの待遇が悪かった分と……な訳であって

…あれ、二つしかないな。

じゃあやっぱり三つ目の理由だな、ラルの分は。

しかし他人の為にって少し気恥ずかしいな



「……どう致しまして。」



ちょっと顔が熱いが戦いの緊張がほぐれたせいだろう、うん。


「しっかしなぁ………」


先程の戦闘をして思ったのだが…


「この世界に来てから……身体能力が上がった…?」



今の今まで一切実感がなかったのだが…

少なくとも自分が日本(元の世界)で剣を振ったとしてはたして容易に他人の骨など折れるだろうか?殴っただけで人を吹き飛ばせるだろうか?そして殴った手に大した痛みも無いなどあるだろうか?

相手の動きも見えるから回避も難しくはなかったしな。




「勇者様方は皆さま全員他の方々よりステータスが高いとのことですわよ?テッシン様。」



その声の方向に振り向くと先程(ジジイ)に決闘を申し込んだ女性が立っていた。

赤紫の髪を靡かせ、見事なスタイル、ドレス、笑顔を台無しにする、こちらを見下す鋭い目つき。

…気に入らないな。



「あら、そんなに警戒しなくてもいいのよ?」



「そりゃ、警戒するだろ?人にこんな決闘(下らない事)をするように仕向けたんだから。」



「あら、酷い言われようね…」


一瞬、眉がピクリと動いたな。

(ジジイ)に頭を下げて、思い通りにいかない上に、下らない事扱いしたからか?

いや…もしかしてこいつがマルクの召喚者かもしれないな?

…ちょっと確認(挑発)してみるか。



「それで?あっちのボロ雑巾に見切りをつけて、こっちに乗り換える(媚びでも売る)つもり?」



「あら、随分な自信ね?……でもマルクはあなたより余程素敵よ?」



「素敵な美的センスをお持ちな事で。」


そういって起き上がり魔導士たちに何か魔法をかけられてるマルクを一瞥する。


あれ、回復魔法じゃないか?普通に両手とも動く様になってるしな。


こっちにはかける気もなさそうだなあの魔導士(ジジイの犬)共は。

まぁ掠る事も無かったしな、ただ動いて疲れたくらいだし。



「この一月しっかり修業したみたいですね。プライドを磨く修業を、ね。」


女性…確かクレアだっけ?のこめかみに青筋が浮かび始めたな。

その仮面じみた笑顔よりきっと怒り顔の方がお似合いだろうさ。



「何を仰いますの?マルクは召喚から一月、私と一緒に毎日休まず鍛錬や魔物狩りを続けて、今ではレベル25ですわよ!」



「…ちなみに最高はいくつまでなので?」



「100と言われてますわ、まぁ一日目から寝ていたあなたには到底たどり着けないでしょうけど!」










…なんでこの女はこんなに上機嫌なんだ?

今さらっと一番言っちゃいけない事を言ったんじゃないか?

いかにも言ってやったり!みたいにしてるけどさ…

あれか?こっちが呆れてるのを驚愕したか何かと勘違いしてるんじゃないか?





「それは凄いですね!」



「あら?意外に素直ね?」



クレアはこっちの様子を見て訝しむ様な表情に変わるが…遅いな、手遅れだ。



「えぇ、自分と25倍のレベルの方と戦えるなんて!次は50倍でしょうかね?」


「!?…えぇ……えぇ、そうね。」


ようやく驚愕というか、あの嫌な笑みが消えたな。

というかそんなに高レベルだったなら多分最初の一撃で切られてるだろうな。

…挑発した分、俺も少しは頑張らないとな。




「では引き続きレベル上げ頑張って下さいね!俺も近々ラルとレベル上げですかね、きっと。」


「…えっ!?あ、あの……私は………」




……いや…ラルは何故驚いて口ごもってるんだ?


普通この流れなら少なくても「お役に立てる様に頑張ります!」とか「一緒に頑張りましょう!」くらいは言う流れだし、それ位は言うと思ってたんだが?



そんなラルの様子をクレアは鼻で笑い


「あらラル?まだあなた言ってなかったの?」


「…何をだ?」


「ラルが暴走姫(ぼうそうき)って呼ばれてるのは知ってるわよねぇ?」


「それはさっきからちょくちょく耳にするが…どういう理由(わけ)があるんだ?」



まぁ何かやらかしてるのぐらいは察しがつくけどさ。

周りから疎ましがられるのにも繋がって来そうだな。


「ラルはね、自分の魔力を制御出来ないのよ。火球を作らせれば辺り一帯を火の海に変える猛火を、水を生み出させれば大洪水を、風を吹かせれば大竜巻を、土を操れば局地的な大地震を起こすのよ?本人は軽く火、水、風、土をイメージしただけでね。」


「それは逆に凄いことなんじゃないか?」


主に軍事兵器的な意味で。



「それだけじゃないわ。制御出来ないのに魔力量が桁違いに高いから、身体から溢れる微量な魔力でさえ魔法が発現する程に多いのよ。」



なるほど、つまりは自身の魔法を使えば意識した以上の規模になり、意識しなくてもふとした瞬間に魔法が発現するのか。


だが…さっきまで部屋で雑談してた時はそんな様子はなかったぞ?


「今はまだこのブレスレットのおかげで抑えられてるけど、今度はいつ暴走するのかしら?」



クレアはそう言い放つと、強引にラルの手を引っ張る。

今まで袖に隠れて見えてなかったけど、ラルの手には簡素な金属製のブレスレットが嵌っている。


「や…やめてください、姉上…。」


そう言ってラルは手を振り払い腕を隠す。


どうでもいいがクレアってラルの姉なのか、意外だな。



「こんな金属の腕輪が?本当かねぇ…。」



「金属は基本的に魔力と相性がとても悪いの。身に着けていれば常人なら魔力は一切使えなくなるくらいにね。



その上、衝撃で簡単に曲がる程柔らかくて熱や冷気をよく通すものだから…使い道が殆ど無いのよ?」



なるほど、今の今まで金属製品を一切見なかったのはそういう理由か。

武器には強度が足りなくて、防具には重くて強度と熱変化に問題があると。

それに魔力を阻害されたらさっきのマルクの火炎剣みたいなものは使えないんだろうな。

ってかあの技、武器に火をつけて一体何がやりたかったんだ?

ただ武器の持ち手が火傷する可能性があるだけじゃないか。

魔力を使えるのをアピールしたかったとかならただのアホだが。





そう考えながら学ランの袖に付いている真鍮のボタンを片手で弄くる。



「それじゃ、外で戦うなら背後からの魔法にはくれぐれも気をつけてね。テッシン様。」



そんな捨て台詞を残しマルクの所へクレアは逃げる様に去っていった。


…ただただ気まずい雰囲気残して。

俺が関係無いこと考えて喋らなかったのも原因でなんだけどさ。



…ただ、何か言い出そうとしては口を噤むラル。

懸命に言葉を探しては、自分では口に出来ないのだろう。


ただそれを繰り返してる。








……あぁもう!じれったい!



「ラル、そこまで心配しなくていいだろ。」


「……えっ?」


「俺にはさっきの力がある、だから一緒に強くなって扱える様になればいいさ。」


あまりくよくよされても困るからな、一緒に居る俺が。

今後本当にそうするかは分からないが……、でもこの力(妨害魔法もどき)は間違いなくラルの為に使う事にはなりそうだな。




「……はい!」



さっきまで暗く曇っていた沈鬱な表情を吹き飛ばし、瞳に薄く光るものを溜め、頬を紅く染め、優しい笑顔を浮かべるラルを見て心から不思議な感情がこみ上げてくるとともに、そう思った。















……なんとな〜く女神がほくそ笑んでいる気がするのは何故だろうな?

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