六話:決闘
「喰らえ!火炎剣!」
いかにも火を纏いそうな剣技名を高らかに叫ぶとマルクが担ぐように持っている木剣の刀身が燃え盛る。
「いっ…!?」
いきなりの魔術攻撃に驚くものの、横方向に跳んで回避し大きく距離をとる。
振り下ろした剣の炎はフッと消え失せ、一切焦げた様子の無い刀身があらわれる。
「いきなり攻撃するなよ!」
「ハッ!決闘なんだから攻撃して当然じゃないか?何言ってるんだ?」
そう言うと今度は剣を持っていない手の平を突き出して
「これならどうだ?魔力が扱えないなら避けるしかないぞ!」
そういうと笑みを浮かべながら火球を飛ばしてくる
「くっ…!」
避ける様に動くが、球は追尾するように動いてくる。
「おいおい、それは避けているつもりか?」
完全に弄ぶような口調で、確実に火球は距離を縮めて襲いかかってくる。
「そら、燃えろ!!」
マルクがそう言うと、すぐ近く、避けられない距離まで飛んできていた火球が…
徐々に勢いを無くして消失した。
「「あれ…?」」
自分とマルクの素っ頓狂な声が響く。
「貴様!何をした!」
「知らねぇよ!聞くんじゃねぇ!」
しかし一体何が起きたんだ?
決闘だから周りは手を出さないとしても、実際誰かが魔法を無効化したのは間違いない。しかし誰が…と思ったところで先程の魔導士と王の会話を思い出す。
「もしかして…妨害魔法って奴か?」
マルクもその考えに至ったようだが…その可能性は絶対に無いはずだ。
恐らくだが、魔法は使うとMPを消費するはず。
だが自分にはその消費できるMPが1も存在しない。
もし仮に、別のステータスを消費するならば、今度はステータス魔法が使えなかった理由が思いつかなくなってしまう。
『妨害魔法に似た何か』は確かに発現しているのだが…
そんな思考はやたら滅多に打ってくるマルクの火球により遮られる。
「チッ…!やはり魔法は全て無効化される魔法を使ってるな!」
「そんなにバカスカ打ってくる前に気付けよ。」
しっかし最初の一撃は無効化出来なかったな…何故だ?
「何だと!?じゃあこれならどうだ!火炎剣!」
いやそれ、さっきも使っただろ…避けたけどさ。
あれか?魔力を武器に宿せば無効化されないと思ってるのか?
…思ってるんだろうなきっと。
まぁわざわざ当たる理由も受ける理由もないから回避するんだけどさ。
「かかったな!風向剣!」
さっきと変わらない振り下ろしの軌道を今度は離れない様に側面に回り込んだのを確認したマルクが獰猛な笑みを浮かべて剣の軌道を……
変えられずに剣を床に叩きつけた。
「…何やってるんだ。」
「馬鹿な!?魔力が使えない……!?その魔法は魔法を無効化するんじゃないのか!?」
「いや、知らねえよ。」
お前が勝手に言っただけなんだがな、それも。
しかし良いことを聞いたな、魔力が使えないのか。
多分魔力そのものに作用するんだろうな、これ。
距離は大体…2メートル無いくらいだろうか?
「それなら純粋な剣技で勝つのみだ!」
くっ…そうなると分が悪いな……
学校の授業で習うようなお遊びの体術なら使えても剣技なんか知らないんだ!
打ち合いになったら間違いなく負けるじゃないか!
しかも向こうはもう魔法を使う気はないのだろう。
ただひたすらに剣を振り回してくる。
振り回し、振り回して、振り回す。
「そら!おら!どうしたぁ?反撃して来ないのか?」
振り下ろし、振り回したら、振り上げる。
振り下ろし、振り回して、逆に振り戻してからまた振り下ろし…
振り下ろし
振り回し
振り上げ
そして振り出しに戻る。
……………………あれ?
……………いやいや、冗談だろう?
………いや、間違いないな。
…こいつ、そんなに強くないぞ!
なんとゆうか…一振り一振りは強力なんだが…軌道は縦か横しかなくて単調だし、攻撃と攻撃の間が長くて隙だらけだし、おまけにもうバテ始めて来てないか?
「はぁ…ちょこまかと動き回ってるだけじゃ……はぁ……俺は倒せないぞ………」
あともうちょっと待てば勝手に自滅する気がするがするな。
やられっぱなしは気に入らないから一撃は与えてやろうとは思うけどさ…
よく見たらあいつの木剣、こっちのより一回り長くないか?
くそ、正々堂々とか言わなかった訳で最初からアンフェアな勝負じゃねぇかよ。
誰もかもいい性格してるよな、この城の連中は。
そんな事を考えながら振り回しを軽々と避ける。
「この際剣じゃなくて斧でも振り回したらどうだ?そっちの方が破壊力はあるだろ。」
「なんだと!このおぉぉぉ!」
持ち上げるのもしんどそうにしていたマルクだが挑発したら単純に怒りにまかせて全力で木剣を振り下ろしてくる。
「それを待ってた!」
疲れてきたら振り下ろしから振り回しを軸にし始めたからな、ここ一番で力が入る振り下ろしをさせたかったのだ。
まともに切り結べば経験も力も体重も、武器のリーチさえない自分が間違いなく不利なはずだが、まともに切り結ばなければ経験は機転で、力と体重は狙う位置や手数で、短いリーチは扱いやすさと言う点である程度カバーが利くはずなのだ。
「ハッ!戯れ言を!」
お互いに利き手側の肩に背負う様に構えて、距離を詰め振り下ろす。
マルクは鍔迫り合いを予想したのか勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
…しかしその刃が交わる事にはならなかった。
………ギリギリまで、マルクが振り下ろした軌道を変えられなくなるタイミングまで引き付けてからこっちはそこから一歩踏み出したのだ 。
そうして振り下ろしたこっちの刃は相手の剣のその先、相手の腕を狙ったのだ。
吸い込まれるようにあいての手首付近に届くとなんとも耳障りな嫌な音が人体から響く。
「ぐ!うぅうぁぁあ゛あ゛あ゛!」
あらぬ方向に曲がり、肉が浅く切れた腕をもう片手で押さえながら涙声で絶叫を上げ始めるマルク。
剣は近くに落としたみたいだ。
だがな…まだ俺の反撃は終了してないぜ!
振り下ろした剣をそのままもう一歩踏み出し、今度はもう片手に向けて切り上げる。
それにしてもあれだ、このままこいつをボコボコにしたらあらぬ難癖つけてくるに違いない。
なぜだかは知らないがラル以外のここの連中は何故か冷たいというか…見下されるというか……
………理由を付ければきっと大丈夫だよな?大丈夫だろ。
「最初のはラルを馬鹿にした分!」
片手を打ち上げ、よろけたのか後ずさるマルクに向けてもう一歩踏み込む。
「ひぃ…!」
「さっきのは人の事を偽物呼ばわりした分!」
勢いそのまま持ち上がる木剣は近くに放り捨てる。
このまま頭上に叩きつけるのも良いが、そこまで情け容赦なくやる気はない。
そんな事したらこいつと同じだからな、同類にはなりたくない。
…まぁ勇者って意味だと同類だが。
「そして最後は…」
木剣を投げ捨てた手を固く握りしめ拳をつくり、
「勇者らしからぬ…てめぇの分だ!」
相手の顔面に叩きこむ。
綺麗に顔面に入った拳はマルクはそのまま吹き飛び仰向けに倒れた。
テツの能力一つ目。