五十七話:工房と理由
親方を寝付かせて部屋を出る頃にはすっかり時刻はお昼時だ。
ここに来たのが昼ちょい前だったからな。
そろそろだとは思っていたけど…
グゥ~…
だけど最近、移動ばかりでほぼ携帯食ばかり放り込まれていた自分の胃袋が空腹を訴え、ついサイレンを鳴らしてしまったのは予想外だった。
それで皆の視線が集まり少々気まずい。
「あ~…昼だしな、親方の件もあるし折角だから何か食ってけよ。」
「ど…どうも。」
飯を催促するつもりでは無かったので、こちらとしては非常に申し訳ない。
お礼だと言われたら断ることも出来ないしな。
「ふふ…」
その自分とダダンさんのやり取りを見てジーニャさんが微笑むように笑う。
「ジーニャさん?」
「あぁごめんなさい、悪気は無かったんだけど何だか…」
「何だか?」
「子供みたいだなぁ…って思って。」
「…子供?」
「そう、子供。」
「えぇ~…」
確かにやらかした感じだったけど、その言い方はなぁ…
俺の心がシャベルで掘り返した地面の様に抉られた気分だ。
明らかにその言い方には悪気が含まれてると思うんだが…
自分がそんな反応をする傍ら、ダダンさんともう一人の男性は吹き出すようにして笑い始める。
「そんなに笑わなくても…」
「いやぁ悪い、何だかさっきまでと比べてつい…な。」
「こっちの方が年相応でいいとは思うがな。」
「あはは…」
一応周りを警戒してたし、何より親方の説得は上手くいくか緊張してたしな。
確かに自分らしくないは無かったと思うけど…
別に今が自分らしいって訳でもないんだけどな。
まぁそれは置いておいて…
「ちなみに今日のメニューは?」
「お、そうだな…」
「久々の来客でもあるんだしちょっと豪華で良いんじゃないか?」
「それなら私も手伝うわ!」
「そりゃ助かる、じゃあ…」
とかなんとか、結局爺さんを除いた四人でワイワイと話しながら食事の準備に取り掛かった。
そんで普段より豪勢な食事とやらを満喫し、ここ最近不満ばかりだった俺の胃袋も満足したみたいだ。
あと、名も知らない男性はどうやら親方の一番弟子だったみたいだ。
飯を食いながら聞いていたので危うく聞き流す所だった。
食事を済ませた後爺さんは親方の治療の為に残り、やることが無くなった自分は他の三人に連れられて親方の工房に来ていた。
とは言ってもただ内装を見に来ただけなんだけどな。
でも地球ではこういった施設ってあまり見たことがないから、ちょっとワクワクしているのは内緒だ。
「さて、ここが親方の工房だ。」
「やっぱり近くで見ると迫力があるなぁ。」
「中の光景も相当に迫力があるぜ!」
そう言って入口の扉に掛けられている閂を外し、ダダンさんと………一番弟子の方が二人がかりで開ける。
「おじゃましま~す。」
それで開いた扉から中に入ったのは良いのだが…窓からの光量だけでは薄暗い。
一応中央には大きなシャンデリアみたいなものが吊るされているが…そこに灯りが灯ってないからな。
というか誰も居ない。
一番弟子や二番弟子が工房に居ない時点でもしやとは思ってたが…やっぱ休みか?
「あら、暗いじゃない。」
そう言いながらジーニャさんが魔法で小さな火を飛ばして明かりを灯す。
「おぉ!お?」
照らされた明かりで見えたのは作業用の大きな台に石で出来た枠が並べられている光景だった。
ジーニャさんが明かりをつけてくれたおかげで全体を見渡せるようになったが、部屋の端にぐるっと作業台がただ並んでいるだけで他には特に何かあるわけではない。
他に特徴を挙げるなら丁度明かりの真下、部屋の中央に大きな空間が空いているくらいだな。
なんかこう…想像していたのと違う。
完全に作業所だろ…これ。
もっと煤っぽく、黒く、汚れてる雰囲気とかおっきな炉とか、むわっと来る熱気なんかを予想していたんだが…
「どうだ!すごいだろ!」
「これがイロンの工房だ。」
「これより大きな所は他には東にも一つしかないのよ?」
この工房?を見せつけて三人とも自慢げにしている。
想像と違う、ダサっ!…なんて感想を言える雰囲気じゃないな。
職人って仕事場にこだわるって聞いたことあるし…ここで下手に親方の機嫌を損ねるのもあれだしな。
「とにかく凄いって言うのは伝わってくるね!」
「そうだろそうだろ!やっぱ見る目があるな!」
「あはは…それほどでも…」
どうやら俺の選択は間違ってなかったみたいだ。
「今は親方が怪我で出来ないけど、ここで仕事をしてる風景は凄いんだからな!」
「そうねぇ、鉱石に皆で土魔法を使ってる時の魔力の光は綺麗なんだから!」
「最初は驚くよな、綺麗に橙色に光ってさ!」
三人とも上機嫌で、ここでの仕事の光景とかまで語っている。
本当に、素直に感想を言わなくて良かった。
言ってたら今頃皆不機嫌になってそうだ。
ってそんな事は置いておいて…
さらっと今、重要な事を言わなかったか!?
「鉱石に…魔法を使う?」
「えぇ、そうよ。」
ポロリと口からこぼれた質問に即答される。
…金属は魔力を吸収するんだから…鉱石に魔法って効果が無いんじゃないのか?
「そりゃ金属に魔法は効かないけどよ、土になら効くだろ?」
「うん、そうだろうけど…」
「だったら金属に吸収されちまっても土を分けられる程度に魔法が使えたらいいだろ?」
「あぁ、うん…」
なんというか…聞いて呆れる話だった。
(一人で)押してダメなら(皆で)押してみろって感じだ。
しかも親方が居ないと駄目な理由って、魔力が足りないからだろ?
…お前ら脳筋かよ。
思わずそう言いたくなってしまう。
というかこの世界、なんかそういう思考が多くないか?
魔物と戦うのだって各々が一撃必殺とかとにかくデカイ攻撃を叩き込むのが定石みたいだったし、それがイコールで強者の証になってた。
そのせいか武器も次第にデカくて一撃に長けた物を使っていくみたいだ。
ザンギさんが使ってた石の剣なんか…俺の身体とイコールくらいだったしな。
まぁそれは置いておいて…
とにかく、1という力で得られる効果が0に限りなく近くても0じゃないならなんとかなるよね…?を地でやってる感じだ。
少しでも楽になるような、違うやり方を模索せずにこれで出来るから必要ない…と。
それだから元から力のある人材が居ないとやっていけないんじゃないのか?
魔力しかり、この金属加工しかり…
なんだかもやっとする考えだな…
「というかお前さん、金属がどう作られてるのか知らなかったのか?」
「一応は知ってたけど、知ってた事と違ってただけだよ。」
「なんだ?誰かにホラを吹かれたのか?」
「多分、そうなんだろうね。」
きっと俺が予想していた近・現代の金属加工の知識やイメージとこの世界で行われている金属加工は大きく違うってのが違和感になって心に引っかかってるだけだろう。
まずはそれを納得しないとな。
そもそも金属がこの世界での文明の発達にほぼ関係がなかったんだ。
当然、詳しく研究される訳もないって事だ。
むしろこういった形で加工の手段が考えられている時点で凄い事なのかもしれない。
まぁそれをここで言う事はしないけど。
その後も上機嫌な一番弟子さんとダダンさんは鉱石から分けた金属をどう加工するかなんていうことを実際に使う道具なんかを使って説明してくれたけど、あまり頭に入って来なかった。




