五十五話:いざ親方!
隔日投稿は無理だったよ…
結局向かうことになったのは大体…二、三十分後かな?
やる事はやったし爺さん達とやや急ぎ足で親方の所に向かった。
親方はこの町で一番大きな建物…の隣に住んでいるらしい。
ちなみにこの町で一番大きな建物は親方の工房だ。
なんでも工房と自宅が隣にある環境が好きでそこに住んでるんだとか。
その工房は弟子達が一緒に作業する場所と、採掘所から持ってきた鉱石を保管する倉庫として使用してる為にも使っているのでとにかく広いらしい。
「ほれ、ここじゃわい。」
「おぉ~…」
実際にその工房を見てみると本当に広い。
石造りのその工房は、学校の体育館が横に二つか三つ分は入る大きさだ。
なんかこういう建物を見ると何で同じように町を囲ってないのか不思議でならない。
…やればいいのに。
というかこれ…もう工房じゃなくて作業所だろ。
そんな感想を胸に抱きながら歩いてると、隣の建物の入口でさっきの二番弟子の…ダダンさんだったっけ?…が外で待っていた。
「そろそろ来ると思ってたが…遅かったな。」
「ちとこやつの準備に付き合わされてての…」
「色々と手こずって大変だったよ。」
「…準備?その割には荷物も置いてきてないようだが?」
そう言ってダダンさんはいくつか容量が減った俺のリュックに目をやる。
そもそもこの荷物は必要なもんだしな、持ってくるだろ。
今使わないものは向こうに置いてきたし。
服とか、携帯食とか。
必要になったものだけをリュックと懐に持ってきてるんだけど、やっぱり結構な量になってしまった。
「それはええんじゃよ。とにかく入るぞ。」
「…あぁ、分かった。」
爺さんが軽く流してダダンさんと親方の家に入っていく。
自分もそれに続いてお邪魔させて貰う。
家の内装はどれも一般的なものなのだが…とにかくでかい。
親方の家自体も隣の工房に比べれば霞むが、それ自体でかいし特に家具とかその類いがとにかく大きい。
置いてある椅子なんか自分くらいのサイズなら二人背中合わせに座れるぞ…
しかもそれが四人用のテーブルの一角にポツンと収まってるもんだから違和感が半端じゃない。
というか親方は…巨人か何かか?
爺さんがずっと親方に一目置いている理由が分かる気がする。
おちょくったりしたら握りつぶされるんじゃないか?
「さて、ここだ。」
「親方殿、入るぞい。」
そんな事を考えてる内にどうやら目的地まで歩いていたようだ。
とある部屋の前に案内され、爺さんとダダンさんが入っていく。
「失礼します。」
そう言って俺も爺さん、ジーニャさんに続く。
何だか俺も緊張してきた。
部屋に入るとまずベッドの横に椅子を置いて誰かが座っているのが目に入った。
それから視線を奥にやると案の定、ベッドには大柄の男性が横たわってるのが見える。
腹には包帯が巻かれ、腕や足は棒状の物で固定されている。
あれが親方で間違いないだろうな。
「おう…遅かっ…たじゃねぇか…」
「色々ありましての、ほれ挨拶。」
「どうも、ここで暫く厄介になります、テッシンと申します。」
爺さんに促されたので前に出てしっかりと自己紹介をする。
俺が前に出て自己紹介をしている時、親方さんはベッドからこっちをずっと見ていた。
鋭く、薄く開いた双眸はまるで人の善悪を見定められるかのような…そんな眼力がある。
で、暫くジロジロと見られ…しばしの沈黙の後…
「おめぇ…厄介に…なるつったが…目的は…?」
そう、言葉を繋ぎ聞いてきた。
ここは隠さずにきちんと言ったほうがいいか…?
爺さんも気難しいって言ってたし、嘘やごまかしは逆効果だろう。
「作っていただきたい物があります。」
「…金属でか?」
「はい。」
聞き返す親方の視線が険しいものになる。
そりゃ何を作りたいんだ?って話だよな。
「具体的には…こういった物を。」
「武器…か?」
「そうです。」
そう言って取り出したのは白尖の短剣。
まぁ…これで自分の言いたい事は伝わるだろう。
だがを取り出した所、爺さんにダダンさんを始め此処に居るほぼ全ての者が驚いていた。
俺と…親方を除いて。
「そりゃ…どういう事か…分かってるのか?」
「昔、同じ事が行われていたとは聞いています。
そして駄目だったと。」
「分かって…るのに…頼むのか?」
「勿論、でもこういう物もあるんですよ?」
そう言って出発前に懐に入れておいたあるものを見せる。
半球状のそれの表面には意味深な模様が凹凸によって描かれていて、裏にはU字の突起が付いている。
これは…俺と共にこの世界にやってきた真鍮のボタンだ。
学ランの一番下についてた奴を一つ持ってきていたんだ。
それを親方が見える所に置く。
「なんだ…こりゃあ…?」
「自分が住んでいた場所で使われていたボタンです。」
周りが小さくざわつくが気にしない。
どうせバレるだろうし、早めに言ってもいいだろ。
親方は真鍮のボタンをまじまじと見つめ、目を見開いて驚く。
「こりゃ…金属…だよな?」
「えぇ、真鍮という…とある金属同士を混ぜて作られた合金と言われる物の一種です。
これ以外にも自分が住んでいた所には色々と合金、そして金属製品がありました。
そしてその中には武器も。」
「ほう…?」
そう呟く親方の眦が上がる。
「でも自分の住んでいた所は、今の自分では戻れない所です。
それに今はやらなきゃ事があります。
魔法が使えない自分が頼れるものはそう多くありません。」
語りながら手に持っている白尖の短剣を構える。
「これは魔力を通さなければ、切れ味の良くない石でしかありません。
これで魔物と殺りあって、生き残るには心許ない。
自分はどんな時も頼れる、そんな武器が必要なんです。」
「・・・」
「そんな武器を作るのに…力を貸してくれませんか?」
辺りを重苦しい沈黙が支配する。
自分の思いは、説明したい事は伝わるだろうか…
そんな考えがよぎりながらも、取り出した短剣を仕舞い様子を伺う。
親方は自分から視線を外しじっと天井を見て、目をグッと閉じた後…
「待ちきれんな…」
「えっ?」
「さっさと…この傷、直さなきゃな。我慢が…出来なくなっち…まう。」
「じゃあ…!」
「あぁ…」
親方はすぅ…と息を吸いこみ…
「協力…してやらぁ!」
「ありがとうございます…!」
そういって深々と頭を下げる。
なんとか無事に、金属で武器を作る為の大きな関門を一つ越えられた。
頭を上げると丁度親方さんは目を鋭く、睨む様な感じで爺さんを見ていた。
「エド、あと三日だ。」
「なにがですかの?」
「三日で…傷を治せ!」
「え~っと?」
思わずそう声に出してしまう。
爺さんも、冷や汗かいてるし。
というか随分と無茶を言ってるよな~…これ。
腕や足に固定具が巻かれてる辺り、まだ骨も折れてるんじゃないのか?
それをあと三日って…流石に治らんだろ。
そう思っていると、爺さんがこっちをみてニヤリと笑う。
…嫌な予感がするな。
「儂だけでは難しいですじゃが…」
「いいから…やれ!」
「まぁまぁ…話には続きがあるんですじゃ。
儂一人ではそうだと言う話だという訳で、テッシンの助けがあれば三日で動くことも出来ましょうな!
いや、儂など居なくても明日には動ける程度には回復できるかも知れませぬなぁ!アッハッハ!」
「ほう…?」
くそっ!あの爺さん…俺を売り込むついでに逃げるつもりだ!
色々と準備してきたのも知ってるし、確かに爺さんにだけ任せるつもりも無かったけど…ちょっと酷いんじゃないのか?
確かに準備中に悲惨な目に遭ってたけどさ…
「それに今はヒールを使う魔力が…」
で、爺さんは止める間もなく口上を続けて逃げようとして…
「お爺ちゃん?魔力の問題ならさっき解決したでしょ?」
「う…ジーニャ…」
逃げることを察したジーニャさんにしっかりと肩を掴まれていた。
肩を掴むその手には逃がさないと決意を込めてるのか腕に筋がいくつも浮かび上がっている。
さっきから思ってたけどジーニャさん…結構バイオレンスだよな。
確か…石斧持って爺さんを追い回したあたりから。
爺さんも色々とやってたみたいだし、そのツケだと信じたい。
とりあえずこの人と親方は怒らせないようにしとこうか。
「さて、そういう訳だから爺さん、親方さんの治療を始めようか。
親方さんもいいですよね?」
「あぁ、早く治るなら…何でも…いい。」
親方さんに確認をとって見た所、一応オッケーサインが出た。
しかも何でもいいとの回答まで…
「分かりました。」
とりあえずそう返事を返して足元のリュックを降ろす。
何でもいいとの事だから遠慮はしない、ちょっと親方さんには…我慢して貰おう。
そして俺はリュックの中から色々な瓶を取り出した。
ちなみに親方からエドと言われてましたが、爺さんの名前はエドガーです。
誰からも親しまれるお爺さんだから親方からも愛称で呼ばれてます…多分。
親方は…もう親方でいいんじゃないかな?
あと、今後は不定期投稿に戻りそうです。
隔日投稿は暫くは出来そうにないです…




