五話:不愉快な謁見
…現在メイドを先頭にラル、自分と並び、周囲はラルと自分を兵士たちが囲んで歩いている。
あの後部屋を出てしばし歩き、いくつかの角を曲がり、目の前に大きな扉が見えてきた。
恐らくあそこが謁見の間とかだろう、しかしそれにしても、だ
(ちょっと警戒しすぎじゃないか?城の中だろ?ここ。)
因みに兵士といってもイメージしていたような金属製の重装備ではなく木製や石製の簡素な防具やら武器を身につけている。
杖を持ったいわゆる魔導士が多く、残りは警備兵って感じだ。
(魔導士以外は訓練兵か何かかな?)
それともこれから冒険をする仲間候補だろうか?などと考えていると、後ろから似た格好の、ただボロボロになった兵士が走ってきた。
「何事です!?」
明らかに切羽詰まった様子の兵士にラルは問いかけるも
「ええぃ、邪魔だ暴走姫め!貴様に構ってはおれぬのだ!」
「きゃっ!」
なにやら不敬罪があれば即座に処刑されそうな物言いと行動、ラルを突き飛ばした。
俺?避けたよ?おっさんのタックルなんて食らいたくないし。
そしてこちらには目もくれずに目の前の扉を勢いよく開きおっさんはそのまま中へ入っていった。
俺も立ち上がるラルに手を貸して一緒に謁見の間に入っていった。
色々聞きたい事はあるが、この状況で我関せずを貫いた周りの奴らは気に入らないな。
もし冒険に出るときに一緒についてきたいとかいっても城に置いていこう。
間違っても役に立つとは思えなくなったし。
それに暴走姫ってのも気になるがまずはあのおっさんの急いでいた理由を聞きたいところだ。
一応は王女を突き飛ばすくらいなんだし。
入ってすぐ見えたのは、視界の前方で背中を見せて跪くさっきのおっさんとそれを高みの玉座に腰掛けてそれを見おろす金髪のじいさん。
このじいさん、恐らく国王はこちらを一瞥すると、すぐにさっきのおっさんに視線を戻す。
「陛下!報告します!先ほどスラム街の住民が反乱軍の残党に触発され一部地域で暴動を起こし始めた模様です!」
「すぐに討伐隊を編成、直ちに術不能者共を掃除せよ!」
「討伐隊の編成はいかが致しましょう?」
「警備隊のお主に一任する。」
「ハッ!!」
うん、とりあえず言いたい事はあるよね、言わないけど。
人の命を掃除って………ないわぁ……
教会の話を聞いてから薄々そうじゃないかとは思ってたけど、間違いはないみたいだ。
…この世界は、魔力至上主義とでもいうべき世界だ。
魔力を扱えなきゃ人じゃない、を体現してますって感じだな。
恐らく人並みに魔法が扱えないものは少なからず存在して、彼らは虐げられる立場にいるのだ。
まぁ召喚された俺にはその立場は分からないけどな。
だが人を人として考えない辺りの思想は危険だな。
ってかそんな事の報告を優先して、国の王女に無礼を働くかね?
異世界はまだまだ理解出来ないな、二日目だけど。
などと考えているとさっきのおっさんの用は済んで退出していった。
ただこちら、主に自分を睨むようにしていたのは非常に気になるところだな…
「お父様、先程のお話は?」
「お主には関係ない話だ。」
ラルが聞くが国王はまともに取り合うつもりはないみたいだな。
「お主がラルに召喚された者か?」
「えぇ、そうですが?」
「ふむ…」
勇者とは言わないんだな…とか言うつもりはない。
ってか普通にこっちの言語で語りかけてきたけど既に喋れる事は伝わってるみたいだな。
「お主、名前は?もうしてみよ。」
「…鉄信だ。」
何か明らかに上から目線で語りかけてくるのは何故なんだ?
舐められてるのかは知らないが、何かこう…『なめんじゃねぇ』って感じの雰囲気は出しておこう。
「ではテッシン、お主のステータスを。」
「ステータス?」
ちょっと訳が分からず首を傾げていると、王様はさっきまで周囲を囲んで歩いてきた魔導士っぽい奴らが一歩前にでて跪き…
「陛下、報告します。彼にはここまで鑑定魔法をかけ続けましたが、何一つ調べることは出来ませんでした。」
「なるほど、妨害魔法持ちか…」
何やら不穏な会話をし始めたぞ、おい。
ってかそこのお前、かけ続けたって何だよ!
ちらちら見てくるなぁとは思ってたけどそういう裏が有ったわけね。
と言うか調べてたら報告するつもりだったのかよ!プライバシーの侵害だぞ!
などとさっきからの一連の行動に苛立ちを覚えていると。
「ではテッシン、心の中で『ステータス』と念じてみるがよい、そしてその内容を報告するのだ!」
するのだ!じゃねぇよ!偉そうにベラベラ喋っているのにキレそうになるが、ここは我慢だ!とグッと堪え
「はいはい」適当に返事をする。まぁステータスといっても魔法で自身の能力を可視化したものだろうと思い
(ステータス…っと、………あれ?)
そう…確かにステータスと心の中で願ったのだが、何やら出て来たのはやけにボロボロで擦り切れた様な雰囲気の蒼い半透明な板だ。
文字はかすれて途中から読めなくなっている。
具体的に読める所は上部のほんの一部だ。
Name:テッシン・ニジ(男)
Lv1
HP:300/300
MP:0/0
STR…
いや…力すら満足に見れないってどういうことなのさ。
思わず二度見しちまったよ。
「テッシンよ、早くステータスを言うのだ!」
言うのだ!じゃねぇよ!言えねぇよ、あんな出来事の後にMPが0です…なんてさ!
「あ…あの……」
どうせステータスが見えないから内容にはボロが出るんだ
ならここは一か八か……
「何か困った事でもあるのか?」
「王様…ステータスって……HPだけなんでしょうか?」
「「「…は?」」」
………この場にいるほぼ全ての人の声が綺麗にハモりました、はい…。
うん…みんなが言いたいことは分かるよ、知ってるもん、他にも色々ありって。何故かラルが泣きそうになってる…うん、何かごめんな。
だけど…現状でこれしか思い付かなかったんだ。
言えないなら言わないってくらいしか、さ。
「お主…………正気か?今までに召喚された勇者たちはおろか人であれば皆が皆、ステータス魔法くらいはすぐに使いこなせるのだぞ?」
うるせぇよ国王、正気か聞きたいのはこっちだ、偉そうにしやがって!こちとらMPが一切無いんだ、しょうがないだろうが!
それよりもやはりステータスをみるのも魔法だったか、なるほどな…
でもそれだとなんでMPがないのにステータスが開けるんだ?ボロボロだったけどさ。
だが本当…無性に腹が立つ言い方だなこいつ……
ポロッと毒の一つでも吐いてやろうか。
「知らねぇよ、元の世界には魔力や魔法なんて無かったんだ、いきなりやれって言われて出来るか!」
そう言い放つと王の奴、目を白黒させ始めたぞ?どうしたんだ?
…もしや、そんな世界からは召喚されないとでも思っていて面食らったのだろうか?
それだったらなんとも間抜けだな。
そんな事を考えていたら突然、端にいた、これまた金髪の男が笑い出し始めた。
「ハハハッ!これは愉快な事だ!こんなのが同じ勇者などとは、暴走姫はふざけているのか?まぁあの姫にはお前がお似合いだ!フハハハハ!」
とか小物じみた言葉をいいつつ近づいてきて、木刀を一本足元に投げてくる。
「誰だお前は?」
質問に答えるよりも先に鼻につくキザったらしいポーズを決めたあと、勇者語で
「貴様のような偽物とは違う本物の勇者たる者、マルク様だ!」
「は?勇者?」
召喚されたのは俺だけのはずだろ?何でこいつも召喚されました的な事を言ってるんだ?
「知らないのか?世界には今、沢山の勇者が召喚されているのだぞ?」
「いや…初耳だわ……うん。」
「じゃあ教えてやろう!世界には今、沢山の勇者が神々に導かれ召喚されているのだ!勇者達は召喚者の願いに応え、日々王様や貴族の下で来たるべき時の為に努力し、下々の民に英雄と崇められるべく戦うのである!」
あまり理解したくはないが…こいつの言ったことを整理すると、だ。
この世界に関わる神様に、女神の時みたいにつれてこられて力をもらった後は勇者召喚をしてた奴の所へ飛ばして、いつ来るか分からない世界の危機を救うために訓練し続ける、という訳か?
……馬鹿馬鹿しい、只の貴族共のステータスの一種じゃないか…それじゃあ。
女神は本当に世界を救う気が有ったのか?
神々の流行に乗りたいから〜とかいってそうだな。
と言うかそんな事よりもそんな大事な事くらいくる前に教えろよ…。
完全に情報不足じゃないか!あの駄女神!
「さぁ!その剣を取れ!」
「ただの木刀だろ?」
木刀を剣に見立てるとは何とも痛いお人だことで。
そんな事を考えながら地面に投げられた木刀を拾う。
…丁度片手で持つのに適した大きさと重さの木刀だな。
両刃でしっかりと…って刃がついてる…?
本当に剣だな…木剣だ。
「お父様…いえ、陛下。マルクが彼の実力を確かめたいと申しております。」
木刀を調べていたら、一人の女性がそう言い、国王に恭しく頭をさげる。
「そうか、では…」
そういうと俯いているラルを一瞥し
「決闘を許可する!」
「そんな…無茶です!」
「そうだそうだ!無茶言うな!このジジイ!」
咄嗟に顔を上げ、異議を唱えるラルに便乗して文句をいう。
そろそろ何故だかは知らないが、いつまでもこいつがわがままな態度をとっているのが気に入らなくなってきたし。
「なんだと!?これは王たる儂の命令だ!決闘を行え!」
くそぅ…やっぱり最後の一言は余計だったか?
しかしこの王、沸点低いな…プライドの塊みたいな奴だ。
などと考えていたら部屋にいた複数人の兵士やら魔導士達がこちらを円を描くようにで囲み始めた。
「ありがとう、クレア!」
マルクはさっきの女性に向かってそう告げると
「さぁ決闘開始だ、勇者として偽物に格の違いを見せてやる!」
…木刀を振りかぶり襲ってきた。
1/8 誤字修正しました。
1/16ステータスについて若干変更しました。