四十五話:新聞っぽいもの
冒険者ギルドから歩くこと数分、町の入口付近には厩舎が建っている。
その隣の建物、掲げられている大きな馬車の看板が目印になっているそこは馬車乗り場の発着場である事を周りに示している。
看板に縮尺無しで馬車の絵描かれているのは…些か存在を示しすぎな気はするんだけどな。
何はともあれ、ここに用が有る訳なので堂々と入って行く。
ぶっちゃけると大きな看板があるだけで他に特筆することは無い。
強いて言うなら厩舎の他に商人ギルドの隣でもある。
町の入口から順に厩舎、馬車、ギルドの順だ。
乗合と言っても普通に貨物の積み下ろしもここでやってるらしい。
効率を考えるとそれがいいんだろうな。なんて適当な事を考えながらとっとと受付に向かう。
「いらっしゃい!お客さんは…ってさっきの人か。」
「はい、えっと…」
「確か北へ行きたいだったね。」
「はい、一人分お願いします。」
「はいよ。」
今日ここに来るのは二回目だし、行き先は告げてあるのでとっとと精算を済ませる。
代金を払うと行き先の馬車主に渡す切符のような札を貰う。
改札とか券売機なんかはないけどこういう所は妙に現代の日本っぽい。
だいたいこう現代風なシステムは勇者がどこかに進言したりするからだろうし。
こっちとしても利用しやすいのは非常に有り難いからいいんだけど。
「ついでにあんた、ついさっき新刊が発刊されたんだがこれも買っていかないかい?」
目的の物も買ったしさっさと行こうかと思った所で売り子の人が受付の下から冊子の様なものを取り出す。
片側を紐で綴じられた十数枚の紙の一番上、表紙に書かれている「広報紙」という字を見て大体それがどういう物かを察した。
恐らく新聞みたいな代物だろう。
「ここ最近、各国ないし連盟機関が周囲に宣伝した情報を纏めたものだよ。
最近の物流から犯罪者の指名手配・捕縛・賞金額から…果ては召喚された勇者の動向まで!
大体知りたいことは揃ってるんじゃないかな?
しっかり裏も取ってある事が殆どだし大丈夫!商人ギルドの代物だよ。」
最後の台詞にちょっと不安を覚えるが勇者の事に関しても載ってるとは…ちょっと欲しいかも。
それにこの世界に来てから色々と学んできたとは思っているがまだまだ夢の一般市民レベルとは大きな差がある気がしてならない。
ここら辺でちょっと知識を蓄えておくのも悪くないだろう。
ただ…値段が気になる。
「ちなみにおいくら?」
「まぁ…2500チップなんだけど。」
「高っ!?」
値段的にはちょっと遠慮してしまうほど額だ。
しかもさっき貰った報酬とトントンとは…
いくら情報が欲しいと言ってもあまり買う人は多くないだろ。
ちなみにここから国境までの馬車代は2000チップとちょっとだ。
宿泊費用も考えたらもう少し高くなるだろうけど…それでも十分に高いと思ってたのに。
これははたして買うべきか迷う…どうしよう。
「はぁ…」
結局、目的の馬車に乗り込む時には片手に一つ荷物が増えていた。
自分以外にもまばらに何人か居る馬車の中、幌から吊るされた灯りで読もうとページを開きながら、ため息を一つ。
結局暫く悩んだ挙句、向こうもこの値段じゃあ売れない事は知っていたので割引という最終手段に出た。
というか最初からやってくれればいいのに、と思ったが向こうも利益を出さなきゃいけないしな。
それでも2000チップ持って行かれたのは痛いが、もう買ってしまったのだからしょうがない。
金額以上の成果をここから得られればいいんだ、得られれば。
そう気を取り直して読み始めたのだが…読み物としてこれが中々面白い。
何というか、報告書とかエッセイとか攻略本を足して三で割った感じだ。
第一面を見ただけだがその第一面の『ゲンマの鎧盗難!怪盗エモンの仕業か?』では半分程度が警備能力の低さを嘆く筆者の持論が書かれている。
面白おかしく『この事件が起こる前、盗まれる確率は0%と管理人は豪語していたが、犯行現場には実際には小数点以下の確率は言っておらず…』とか書かれてる辺りには俺に一時のささやかな笑いとこれを破り、投げ捨てたくなる衝動を与えてくれた。
もったいないのでそんな事はしないが…
内容が無いわけでは無いようなので程々に見る事にする、と心に決めてパラパラと見出しを眺めていくと気になる記事を見つけた。
『二度目の勇者召喚は失敗か?第二王女の勇者召喚の儀式、真相に迫る。』
一体誰のことか?なんてボケをかます気は無い。
確実にラルの事だろう。
失敗って…完全に俺の事を無かった事にしようとしてるよな。…なんて思って見ていたら、どうやら違うらしい。
どうやら俺が召喚され時の、あの儀式自体はかなり期待されていたらしい。
曰く、成功すれば暴走姫は一変してこの国には欠かせない魔導の王|(女だから女王か?)になるだろう!とか喧伝されたし、したそうな。
それがいつまで経っても周囲に何の報告も喧伝もされないまま、というのは国民のみならず周辺国家もかなり訝しんでるらしい。
勇者自体は召喚したが隠してるとか、病弱で死にかかっているとか、国家戦力として運用しようとしているとか、反対に本当に失敗していてその時に王女は魔力を暴走させて亡くなっているとか、実は召喚した勇者に逃げられたとか、勇者ではなく悪魔が召喚されて王族は洗脳されているとか…とにかく様々な噂が流れてるみたいだ。
最後のは置いておくとして色々と真面目に噂の真相をしたそうだけど…結局王女は生きているって事くらいしか分かってないらしい。
丁寧に一つ一つ検証し考察を述べてる辺り、明らかに力の入れどころを間違っていると言いたい。
その情熱をどうにかして違う方向に注げなかったものなのだろうか?
…とにかく、これに書かれている内容が事実だとしたなら俺の存在はまだ露見してないみたいだな。
これで人相書きでも書かれてて指名手配、なんて事になってたんだったら笑えないからな。
一応俺を探してる可能性もあるだろうけど、表立って動いている訳ではない事が分かっただけでも大きな収穫だ。
国さえ出れば追われる心配もなくなるだろうし。
「さて、次は…っと」
なんやかんや言ってこの文章に惹かれながら、次のページ、次のページへと読み進めていく。
最終的に馬車が目的地へと着いた時には何回か読み返してしまっていたのはどうでもいい話か。
そんな感じで特に何事も無く俺の馬車の旅は始まって、終わった。
源氏…盗み…うっ、頭が…
100超え嬉しすぎて勢いで書きました。
暫くこの勢いが続けばいいなぁ…
あと、何か問題ありそうだったら文章訂正するかもしれません。




