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魔法がある異世界を魔力無しで生きるには  作者: リケル
序章 魔法のある異世界
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十六話:強くなるには

   




窓から爽やかな風が頬を撫で、暖かな光が重い目蓋を軽く持ち上げ、柔らかなベッドから身体を起こす気力を与えてくれる。


気がつけば見知らぬ、中世的な内装の一室でベッドに寝かされていた。

もちろん見知らぬ訳だから何故ここで寝てるのか?と聞かれても…いや、答えられるな。

城の時とは違うのだよ!城の時とは!


まぁ…お風呂でのぼせたから寝かされているのだろう、おでこにひんやりとしている濡れタオルが乗せられている。

衣類は着けておらず、薄い肌掛が一枚掛けられているだけだ。

既に体温は下がっており、平常時とほぼ変わらな…ちょっと寒いな。


「ん…」


けれども脱水気味で目眩がするな。

そして重く気だるい体を起こそうとするが頭上から伸びてきた手にタオルを回収される…ついでに額を押さえつけられ、抵抗虚しく再び寝かしつけられてから声が掛かる。


「大人しく寝てなさい全く、油断も隙も無いわね。」


「…ここは?」


「屋敷の一室よ、もう暫く待ってなさい。」


覗き込むような形でアンナが視界に映る。

しかし待っていろとはどういう意味だろうか?…と考えたところで倒れる前の出来事を思い出す。

確かうっかり口を滑らせて勇者だって言ってしまったんだっけか?

つまり待っていろって…迎えが来るまでか!?


「城に引き渡すなら…抵抗するぞ?」


そういって起き上がろうとして、今度は額に手刀をもらう。地味にけっこうな痛みだ。

そして再び寝転されたところに替えのタオルを乗せられる。

懲りずにもう一度やろうとするが…何やらバチバチと嫌な音が聞こえ始めたので今は諦めることにする。

仮に今アンナから逃げたとしてもこの体調じゃあろくに動けずに電撃の餌食だ。

と言うか魔法を封じられてない時点で逃げようがない、麻痺にでもされたら終わりだ。

なぜか喋らずこちらをじっと睨むアンナとそんな彼女の様子を窺いながら無言で休む俺…時間にして1、2分程度だろうけれどものすごくその時間は長く感じた。

…ってかだるいな、また意識が少し遠いてきた気がする。


そしてその沈黙をドアの開く音が打ち破る。

入ってきたのはメイドさん、それなりの大きさのポットをワゴンで運んできたみたいだ。

そしてそれをメイドから受け取ったアンナは中に入っていた液体を透明なコップに移し…自分で飲んだ!?

くそ!こっちは脱水で辛いのに…わざわざ見せびらかして飲むとは意地悪な奴だ!

見てみろ!そこのメイドさんだって驚いてるじゃないか!

ゴクゴクと音を立てて美味しそうに飲むアンナに恨めしげな視線を送っているとそれに気づいたのかもう一つ用意していたコップにそれを入れ、こちらに渡してくる。

ようやく起き上がれてそれを受け取り、勢いよく口に流し込む。

うん、ただの冷たい水だなこれ、でも美味い!意識が戻ってくるような感覚だ。やっぱり脱水だったみたいだな。


「美味い!もう一杯!」


「はいはい。」


コップを差し出すと気前よくアンナが再びを入れてくれるのでまた飲み干す。


「もう一杯!」

「もう一杯!」

「もう腹一杯…」


「そんなに飲むんじゃないわよ…まったく。」


コップを返すと呆れた様子でメイドに渡し、退室させる。

そして再びアンナと二人の沈黙の時間が過ぎるのかと思っていたら


「とりあえずあんたを城に連れて行く様な真似はしないわ。」


「なんだか予想とはずれたな…」


「ここにも色々と事情があるのよ。」


「そこらへん具体的に教えて欲しいな。」


城から一日で着く距離なのにどんな事情があるんだ?

そう思って聞いたら意外な事実、ここと城とは早馬なら頑張れば一日で往復可能な草原地帯らしいがこの時期はとある魔獣が繁殖の為に縄張りを作り外敵を群れで排除してこようとするらしく、大きく遠回りしなくてはならないらしい。

そうした場合は一週間以上かかるそうだ。


「なるほど、説明ありがとう。」


どんな魔獣か知らないがこっちにはありがたいな、頑張って縄張りを作り続けてくれ。

そして簡単に話し終えたアンナにお礼を言うとちょっと小悪魔っぽい笑顔を浮かべながら


「じゃあ…代わりにシュルツ村に来るまでの経緯、話しなさい。」


「別にいいけどな…んで今更なんだ?」


「さっきまでは少し様子が落ち着いたら聞こうかと思ってたけど…その必要はないでしょ?」


「そうだな、ずっと聞かれなかった理由も分かったしな。」



そしてひと呼吸置いてからここに来るまでの経緯を語り始めた。

まずこの世界(ロスク)の神に導かれてノーブル王国第二王女、ラル・ノーブルにこの世界に召喚された事。

王様と謁見し、そこでステータスを確認したらMPが無く、実質HPしか分からなかったこと。

兵士たちから下らない理由で蔑まれていたこと。

そして謁見の間でマルクとか言う勇者(雑魚)と無理やり決闘させられ、勝利したこと。

その後敗北したマルクが逆恨みを兼ねて兵士を連れて夜襲を仕掛けてきたため城の窓から逃亡したこと。

ついでにその時にMPがないってラルに話をしていたのを盗み聞きされていた事を知った。

んで山脈の麓の森にある泉までフライトして森と湿地に沿って歩いてたらこの村にたどり着いたこと。



ちなみに神様が女神だったって事は伏せておいた。

なにせこの世界が召喚ブームになってから女神は俺だけをこの世界に案内したと言っていたからな。

恐らくだが…他にも神様がいてそいつがポンポンと勇者を導いているのだろう。

俺だけ違うと言って面倒な事になるのは避けたいしな。


と簡潔に今までの出来事を語り終わるとアンナはふむ…と何か考えていた事が納得した様子である。


「テツのステータスの高さはそういう事だったのね。その体の割に凄まじい怪力よ。」


「そうなのか?」


「本当は人に無闇に見せちゃいけないんだけど…っと。」


そう言うとアンナの目の前に蒼い半透明な板…ステータスウインドウが現れる。


「可視化って念じると周りにも見えるように出来るのよ。」


そして肩が当たるくらいの距離でウインドウを見せてくれる。

ちょっとドキッとしながらアンナのステータスを確認してみると


Nameアンナ・ロッド(女)

Lv16

EXP:436/700


HP144/144

MP107/107




STR:77

VIT:48

AGI:69

DEX:78

SEN:83

WIL:90






アビリティ〈取得順〉

・貴族の心得

・風撃理解Ⅱ

・雷撃理解Ⅳ

・交渉術Ⅱ

・格闘術Ⅲ




「…思ったより高くないな。」


思わずそう口にしてしまった。


「え…?」


「MPは置いておくとして…そこまでステータスに俺と差がないぞ?HPは半分以下だがな。」


「これでもかなり高い方…ってあんたステータス見れないんじゃないの!?」


「泉で何故かまた神様に会って…って言い忘れてたな、ごめん!」


「ごめんじゃないわよ!」


「ふぐぅ…!?」


頭に手刀を落とされた、結構痛い…。


「参考までに見せてあげたのに…まったく!」


「悪かったよ…っと」


ステータス、可視化、ととりあえず念じてあのオレンジ色のステータスウインドウを開く。

シュワっといい音がしてウインドウが開く。

…そういえばアンナに本名を名乗ってなかったな。開いてからちょっと後悔した。

と言うかさっきアンナのEXPが見れたけどどうやるんだ?後で聞こう。


「あら?また一風変わってるわね。」


また何か言われるんだろうな…と思いながら一緒にステータスを眺める。




Nameテッシン・ニジ(男)

Lv1



HP63/345

MP0/0

SP120/560



STR:86

VIT:65

AGI:55

DEX:65

SEN:83

WIL:120






アビリティ〈取得順〉

・異世界人の成長ⅩⅩ

・文字言語理解

・真理理解Ⅰ

・女神の加護

・ステータス霊法

・根性Ⅰ


のぼせただけでHPとSPがガッツリ減ってるってことは結構危なかったんだな。

それよりも前に見たときと比べて違和感が…


「…あれ?色々とステータスが上がってるな。」


全体的にステータス、特にHPとSPが上がってるし…新しいアビリティも増えてるな。

んで俺のステータスを食い入るように見ているアンナはと言うとまず名前を見てこっちをちらっと見た後再び視線を戻して…どんどん顔が引き攣っていっていくな、なんか面白いな。

そして再びウインドウの上部を見た後、ため息をつきつつ


「はぁ…これでレベル1のステータスって……恐ろしいわね。」


「よく考えたらステータスが近いアンナも強いんだよな。一応レベル20あった勇者(マルク)には勝ってアンナに負けた訳だから…」


俺も鍛えないとな、せめて魔法ありの相手に対等に戦えないと…。

霊力じゃ魔力の代わりには使えないだろうしな。

ってかなんかアンナが固まってしまった、何でだ?


「…………………ごめん…もっかい言って?」


「アンナもなかなか強いんだねって言ったんだけど?褒められたからって照れなくても…」


「照れてない!強いとはよく言われるし知ってるわ、その後よ!マルクって奴のレベル!」


「…20?」


「ちょっと弱すぎじゃないのそいつ。」


「やっぱりそう思うよな。」


一般人からも雑魚扱いされるマルク、もう哀れだな。

んでそれからステータスについて色々と詰問された。

主にSPとアビリティについてだな、面倒だからSPに関してはMPの代わりに女神から貰ったって事にしておいた。

ってかアビリティを見られた時点で女神について隠す事が無くなった。普通に女神の加護って書いてあるし。

そんでそのアビリティに関して聞かれたけど…名前の通りだろうけどよく分からないって言うとアビリティの内容を知る方法を教えてもらった。

流石アンナさん、まじパネェっす。

単純に知りたいアビリティをタッチすれば良かっただけなんだが…ちょっとゲームっぽいって思ってしまったのは内緒だ。

そんな事よりもアビリティの内容がまた癖のあるというか…色々と問題あるだろ、これ!



文字言語理解とステータス霊法は予想通りだった。それ以上の能力は無いみたいで普通だ。

根性Ⅰも若干WILとHPが上がったりやら心身の異常は気合で少しだけ耐性または症状の軽減ができるとの事。レベルが上がるともっと効果が上がるらしいから普通に便利なアビリティだ。


本題は残り三つ、真理理解Ⅰと女神の加護と…異世界人の成長ⅩⅩだ。


まずはこれだな、真理。

・真理理解Ⅰ

<ロスクにおける現象や自然物について対象を意識すればその本質を知識として吸収、理解することが出来る。Ⅰでは理解出来る対象は少なく、また得られる知識もごく少ない。>


文章的にはレベルが上がれば役立ちますって雰囲気を出してるけど、俺は文字言語理解を女神から貰った時の事を忘れないぞ?下手に上がると絶対後悔する奴じゃないか?

間違っても乱用しようと考えちゃいけない奴だな。理解する度に昏倒していたら話にならない。



お次は女神の加護、ちょっとステータスウインドウを叩きたくなってしまった。

・女神の加護

()()()()()()()()()()()()()()()()()()女神から授かった加護。女神の力に比例して様々な恩恵を受ける。でも私の力の一つの信仰が他の神に比べて圧倒的に低いから…今は特に何も出来ないわ、頑張って上げてね!>


上げてね!じゃねえよ!何さらっと女神信仰を勧めろって言ってんだよ!

ってかこれ書いたの絶対お前だろ!誰が絶対の忠誠を誓った!変な事書くんじゃない、まったく…

これ見てアンナがすげー微妙な顔してる…まぁこんな事をさらっと書く神様は流石に信仰できないわな。



そして一番の問題児、俺に軽い絶望感を与えたこいつ。

・異世界人の成長ⅩⅩ

<レベルアップによるステータス上昇と必要なEXPがロスクでの一般的な値と大きく異なる。尚このアビリティのレベルは変動することはない。また元々いた世界でのステータスを上昇させる方法はロスクにおいても適用され、効果が上昇する。ⅩⅩのステータス上昇はとても高いが途方も無いEXPが必要になる。>


これを見て…まず内容を理解するのに時間を要してしまった。アンナも固まってる。

理解してからも暫く受け入れるのに時間が掛かった、と言うか受け入れたくなかった。主に途方も無いEXPって辺りを。

そしてその隙にアンナは徐ろに俺の腕を掴み、ステータスウインドウのLvをタッチさせる。

するとLvの下にEXPが表示される様になった、ご丁寧に次のレベルまで必要な値も。

具体的にはEXP:17/3000…ってさ。


「ふ…あははは!」


と横で大爆笑を始めたアンナの四倍以上という絶望的な数値が目の前に示された。

理解を促す現実を目の前に突きつけられ、ふとアビリティの説明文の一節が脳裏によぎる。

『元々いた世界でのステータスを上昇させる方法はロスクにおいても適用され、効果が上昇する。』

根性Ⅰの効果だろうか?ここで現実に打ちひしがれるよりも、諦めずにすこしでも強くなる道を探すほうがいいはずだと襲い来る絶望感を跳ね除けようと心が働く。

この村は協力してくれるだろうけれど、単身旅をして戦っていかなければいけない状況、しかもレベルアップは絶望的でその恩恵は受けられそうにない。

だったらやれることはただ一つ、体を鍛えることしかない。


「あははは!ははは!」


腹を抱え、足をばたつかせて笑うアンナをみてちょっと泣きそうになりながらも心で強く誓った。



そうだ、筋トレをしよう、と。




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