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魔法がある異世界を魔力無しで生きるには  作者: リケル
序章 魔法のある異世界
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十三話:受け入れる村




さて、そんな感じにシュルツ村に入った訳なのだが…

最初の関門だと思われた自警団の詰め所だったが、アンナの顔パス(半ば脅しだった)もあり難なく通過する事が出来た。

ただ何故か自警団員の目が…差別的なものではなく、珍しいものを視る風な、まじまじと自分を穴があくくらい見つめられている感じがするので団員の視線を通過し終わったらフードを目が隠れない程度に被る事にした。


この世界(ロスク)に来てから他人の視線に異常に敏感になったと思う。

日本じゃ黒髪黒瞳で中性的な顔立ちなんてそう珍しくも無かったしな。



しかしフードを被った事に何か言いたげなアンナだったが察してくれたのか、特に何も言っては来なかった。


そして目的地に着くまでの間、あそこは〜とかこっちは〜とか色々と説明してくれたがその都度村の人に出くわしては会話、出くわしては…を繰り返してあまり進まない。

だが道行く人にしっかり挨拶し返されている辺り、ご近所付き合いは良いみたいだな。

一応自分にも声を掛けられたら会釈を返しておいた。


そんなこんなで村を進んでいたのだが……この村、やけに広い。

話しているせいもあるだろうが一向に目的地に着かない…と言うか一体どこに向かっているんだ?

既に門からかなり歩いた様な気はするんだ、もう見えないくらいだし。

ってか少なくとも村の規模じゃないぞこれ、町だろ。


とかを考えて周囲を見渡していると目の前で猫耳をつけた獣人のおっさんと会話しているアンナがそれに気づき



「何か落ち着かない様子ね?」



「この大きさで何で村なんだ、と思ってね。」


「あぁ、ギルドが無いからねここは。」



「ギルドがあると町なのか?」



「そうよ!そしてその代わりにこの村にある商店を管轄して、ギルドの代わりを経営しているのがこっちのザンギさん!」


そういって話していた猫耳の獣人を紹介する。

黄と茶の縞模様の毛並みで身体は服にその形が浮かび上がるくらいに筋肉のついた壮年の男性である。

近くにいると分かる…なんか威圧感が半端じゃない人だ、気後れしそうだ。



「よう、紹介にあずかったザンギだ!」


なんて言うかドドドドドッ!って音が彼からは聞こえてきそうだ



「……テツです、よろしく。」



「ちょっと!ザンギさん!」



「あぁ…すまんすまん、ちょっと癖でな。」



アンナがザンギさんを注意すると気圧されそうだった威圧感が何事もなかったかのように消失した。



「今のは?」



「魔圧って奴かな、大概の奴はこれでびびって腰を抜かすんだが…何もないとはやるなぁおめぇさん。」



「そんな技があるんですか…」



そんな会話をしつつ近付いてくるのでその分後ずさる。

下手に近付かれたらまた何をされるか分からないからな。



「だから癖みたいなもんなんだって、教えてやるから警戒するなよ!」



「いや、教えて貰わなくても…」



「今のはザンギさんが悪いわ。」


そう言って間に入ってくるアンナ。


「色々あってこの村に逃げて来たらしくてね、気が張ってるのよ。」


「そうか、それは申し訳無い事をしたな!」


ガハハと笑いそれ以上距離を詰めてくる気配は無くなった。

まぁそれでも何か有っても良いように警戒は解かないけどな。



「それで?嬢ちゃん達は何の用だ?」


「そうよ!あのさ、怪しい奴にこの子の事聞かれても答えないように村のみんなに伝えて欲しいの!」


この子って…確かに背もアンナよりは高くないし、幼く見えるかも知れないけどさ……


ってかアンナの身長高いんだよな。俺、一応160くらいなんだが…並んで歩くとアンナに負けてるんだよな。

よくよく考えたらアンナが高いんじゃなくて俺が低いのか?

城の奴らも自警団も村人も俺以上だしな、ラルくらいじゃないか?身長が勝っているのは。日本人の身長が低いという話が身にしみるなぁ…。




「あぁ、分かった。」



「ありがとうザンギさん!」



「ありがとうございます。」


そういってしっかりと頭を下げる。

親切にはしてくれてるみたいだし一応は礼儀正しく行かないとな。

まぁまだ警戒はしてるけどさ…


「なぁに、礼には及ばねえさ。それより…」



そこで一瞬言葉を区切り、さっきまでの陽気な雰囲気から一変し真面目な声色で



「魔圧を受けた辺りからずっと張ってる…この魔力を出せなくなる妨害魔法はおめぇさんのだな?」


一瞬ヒヤリとした感覚が身体を突き抜ける。

無意識で…というか発動する条件が分からないが…霊力の魔力妨害は今も発動しているのか?

だがこれについて説明を求められても『はい、これは霊力で…』なんて口に出来る訳もないしな…どうしたものか……



「…それは答えなきゃ駄目ですか?」


少なくともこの村に妨害魔法が出来る人間がいるならそいつが近くにいる可能性を疑うはずだ。

しかももし村に人間がいても今この状況で使う奴なんか居るはずがない。

つまりもう向こうは俺だとは思っていて聞いているはずだから、この質問自体には大した意味はない…はずだ。



「それもそうだな。じゃあ質問を変えよう、…それが理由か?」


あ…なるほど分かったぞ。

つまり協力する代わりにどうして狙われているか聞きたかった訳ね。

そんで可能性の一つとしてこの魔法妨害を考えた、と。

じゃああれか?この真剣さは親身になって相談に乗りますよって意思表示だったのか?

…紛らわしい!

なんだよ!霊力について聞かれるかとハラハラしたのが馬鹿みたいじゃないか!



「教えてから『はい、さようなら。』は御免ですよ?」



「するかよそんな事。」



「……分かりました。」


そういってフードに手をかける。

アンナが大丈夫だとは言っていたが昨日の事はこうやって見せる事への警戒心を生み出すのに俺の中では十分すぎるんだよな。

少し、緊張する。

「これが理由…か?」



「はい、そうです。」


まじまじと黒髪を見つめるザンギさん、それをやや見上げる形で見つめ返す俺。

ごく短い時間がまるですごく長い時が過ぎているかのように感じる。



「…綺麗じゃないか。」


「ありがとうございます、自分にとっては自慢の黒髪なので。」



やはり嫌悪感を抱かれないって嬉しいな、自然に笑みがこぼれる。



「あ…あぁ…この村じゃ髪の色なんて気にしないからフードなんか被らなくても大丈夫だと思うぜ、俺が保証する。」


おぉ…大物の保証を頂きました。

まぁアンナも貴族っぽいから大物の保証は二人目だな。




でも…こういう風に視線が集まる感じは俺の中の日本人的感覚からすれば気分が良くないし、やっぱり隠しておこう。



「あぁ…俺としてはフードをとってくれていた方が……」



「ザンギさん!」



おっと?ザンギさん黒髪に食いつきすぎだろ?

まぁでも分かるよ?これでも日本に居たときは一応髪の毛には気を使ってたんだから。

ちゃんと洗って丁寧に手入れはしてたしな。


学校の規則と鬱陶しくなるから長くし過ぎるのは避けたが短髪も嫌だったからこそのこのセミロング!


とまぁそんな事を黒髪愛好家(ザンギさん)がアンナに色々と言われている中考えていたわけだった…。










結局ザンギさん(黒髪愛好家)


「ちゃんと村のみんなに伝えておくから、近々うちの酒場(みせ)に顔を出してくれよ!テツみたいな…」


と最後まで言い切らない内に青筋を浮かべて指をバキバキ鳴らすアンナの迫力に負けて酒場に戻っていった。

あれは怖かった、傍からみてる俺でも。

ザンギさんは俺みたいな奴でも歓迎するって言いたかったのだろうか?

しかし何でアンナはあんなに怒っているんだ?

何か理由があるのかも知れないな…





それから再び歩き出したのだがザンギさん以降は軽い挨拶を済ませるくらいで特に長く立ち止まる事は無かった。



そしてようやくたどり着いた目的地は…なんとも大きなお屋敷です。

どうやらアンナの…つまりロッド家のお屋敷みたいだ。



相変わらずどこにも金属部品は見当たら無いが石と木だけで出来ているとは思えないなこれは。これ絶対鉄筋つかってますわぁ…。

…と冷静に考えたら金属は柔らかいって聞いてるからそれはないか?いや、黒髪愛好家が居たくらいだ!きっと使っているに違いない!


とか下らない事を考えてたら呆けてたと間違われたっぽい。



「なにボーっと突っ立ってるのよ、さっさと行くわよ!」



「…あ…は〜い。」



そういってお屋敷にはいるとメイドさん達がお出迎えしてくれました。

丈の長いスカートにフリルなんて無いエプロンに長袖、実用性一点張りだ。



「お帰りなさいませ、お嬢様。」


「ご苦労様、今日は客人を連れてきたから。」


「了解です。」



そう返事をするとメイドさん方、こちらに向かってきて


「お荷物、お預かりしますよ。」



その一言で何が起こるか察して、一瞬だけ身体を震わせる。

流石にもう三回目だ、黒髪を見せる事は大丈夫だって思えたさ。ただの条件反射だ。


メイドさんは気づかなかったがアンナは身体を震わせたのに素早く反応し



「大丈夫よ、安心しなさいテツ。」


「分かってるよ、大丈夫だって。」


半ば自分に言い聞かせるように言い、風呂敷を外しマントを脱ぐ。


「それではお預かりしますね。」


半ば自分に言い聞かせるように言い、風呂敷を外しマントを脱ぐ。


「それではお預かりしますね。」


黒髪を見ても嫌悪感と無縁の、本当に何事も無かったかのようにそう言った。



そういって丁寧にマントと風呂敷、ついでに木の棒を受け取ったのだが…



「あの…この中身って……?」


あぁ…やっぱり触ったら解るよな。

外から見てもかなりゴツゴツしてるしな、風呂敷シーツ。


「……森で拾った木の枝と皮です………」



「なるほど。分かりました。」



あれ?何故納得した様子ですんなり運ばれていかれるんだ?

てっきり苦い顔されて捨てられるんじゃないかって不安だったんだが、予想の斜め上をいったな。



「…なんか納得いかなさそうな様子ね?」


「だってただの枝と皮だし、燃料くらいにしか…」



とそこまで口にして思い出した。

魔力が使えないから失念していたが…木は魔力を通すのだからわざわざ燃料としてそのまま使うのは勿体無いのでは無いだろうか?

木の皮も同様に役に立つのだろう、思わぬ収穫だったなこりゃ。


…ってか今ので魔法が使えないってバレたんじゃ…?


やはり何か納得がいったって表情をしてるな…




「…今の発言は聞かなかった事にしてほしいな。」


一応ダメ元で交渉はしてみる。


「無理ね。」


考えるまでも無いと言わんばかりの即答である。

下手にじらされるよりはマシだけどさ…



「それはそうと…捕まりかけて逃げ出して、それから森を通って一夜中歩いてるんだから埃まみれでしょ?」



「……水浴びか?」



「普通に風呂があるのに水浴びなんて、あんた何処の奴隷よ!全く!」



「あ…はい……ごめんなさい。」



激しい剣幕で怒鳴られてしまった、やっぱり怒ると怖いな。

ってか城じゃあ風呂のふの字も言われなかったからな…てっきり無いかと思ってたんだが普通にあるのな。



「もういいわ!さっさと行くわよ!」


そんな光景をメイドさん達に微笑ましいと言った感じで見守られながら風呂場へ連れて行かれた。






「ふぅ…温まるわぁ……」



とりあえず風呂場についた後、大小二枚のタオルを渡されて、何故か風呂の使い方の簡単な説明を受けた後、

「着替えは用意して上げるからさっさと入りなさい!」

と言って脱衣場から出て行った。



ちなみに使い方は日本のそれと殆ど変わらなかった。

ただシャワーが無いので湧水口から桶にお湯をためて髪や体を洗うようだ。

それが終わり今は湯船に浸かっている状態である。風呂場自体も浴槽も大きく、浴槽は身体をどう広げても端から端に届くことはない。


この世界でもやはりお風呂はいい、癒される。


そして髪を蒸すように頭にタオルを置き、湧水口から流れるお湯の音に耳を傾けて、リラックスした反動か襲ってきた眠気と格闘していると……入り口の方が開いた音と共に




「テツ〜湯加減はどう?」










……一瞬で眠気が吹き飛んだ。

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