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魔法がある異世界を魔力無しで生きるには  作者: リケル
序章 魔法のある異世界
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十二話:受け入れられる






不思議な夢をみた。



暗い……何もない空間

格好は寝る前と全く変わらない。

ただぽつん…とその空間に自分は存在していた。






「…………………」






いつまでそうしていたのだろうか?

そう思わなかったらいつまでもそうしていたのだろう。





「…………………!」





しかし身体は動くことは出来ない。

必死に動こうとするが何かが腕に絡みつく感覚に視線を向ける。

暗い空間だがそれでもはっきりとわかる黒い人型が両手の動きを邪魔をする。




「………!…………!」




視線を前に向けるといつの間にか白い光が徐々に大きく…近付いてくるように感じる。

光は人の形を成していく。

だがその横から……



「………!」



………黒い…影が…



「…………と!」



何かに身体を揺らされる感覚に夢の映像が揺らいで消えてゆく。



「ちょっと!起きなさい!」



「ん……んん………?」



聞き覚えのない声だ。

声から察するに年の近い女の子だろうか?

肩を揺すっているのは彼女だろうか?

顔は見えないがいかにも動きやすそうな格好に最低限の防具を身に着けている。


「ようやく起きた!大丈夫かしら?」



「ん…大丈夫……ありがと……!?」



そういって寝ぼけながらフードを下ろそうとして半分ほど持ち上げて…黒髪の事を思い出して引っ張るようにフードを深く被り直す。危ない…この村で情報収集出来なくなる失態はしちゃいけない。…と冷や汗つきだが一瞬で目が覚めた。

だが事情を知らない目の前の女性は当然疑惑の目を持つだけであって



「…なんで顔を隠すのよ?」



「顔を隠した訳じゃない。」



「さっさとそれ(フード)をとらないと自警団に突き出すわよ?」


なんとまぁ気の早い事で。


これ(フード)をとるとここ()に居られなくなる。」



「じゃあこのまま自警団行きね。」



そういってフードを取られない様に抑えている手を掴まれる。



「待って、別に犯罪者じゃないから!」



「続きは詰め所で聞きますよ〜…旅人さん!」


と引っ張られるがこのまま連れて行かれる理由はないのでもう片手でフードの端をつまみつつその場に踏みとどまり抵抗の意志を示す。



ぐぅ…意外に力強いな……



「なによ?抵抗しない方がいいわよ?」



「…抵抗しないと危ないと思うんだ。」



「最近物騒だからね、盗賊とかゴブリンとかオークとか!だから痛い目に会ってもしょうがないと思うのよ。」

そういって掴んでいる手とは反対の手にバチバチと電気を帯びさせ始めた。

あれを喰らったら動けなくなりそうだな…


何とか霊力を使って阻止できないだろうか…






とりあえずなんかオーラやら威圧感をだす要領で出ないかな…?



「…ん?あれ?………何で!?」

…成功したっぽいな。

あのビリビリした電気っぽいものが出せなくなって困惑してるみたいだ。


と思った瞬間、いきなりその手で殴りかかってきた。油断も遠慮も無いな!

咄嗟にフードにかけていた手で拳を受け止める。


「へぇ〜…手で何かやってた訳じゃないのね。」


「そういうそっちはやってたな…まったく羨ましい限りだよ。」

「……何はともあれ詰め所には突き出させて貰うわ、実力行使よ!」


「ちょっとそれは早く言うべきだな。」



そんな言葉のやりとりをしながら力の掛け合いを…左手は相手に掴まれて、右手は向こうの拳を抑えているのをそれぞれが押し込もう、押し返そうとしている。

こっちは両腕とも上手く押し返せはしないが割と余裕で持ちこたえている状況、向こうはこれでもかと歯を食いしばるくらい力を込めているみたいなんだが…。



「あんた…な…かなかやるじゃない!」



「まぁね。」



その発言や態度はまるで勝利を疑ってない様子だ。



「これなら…どう!?」




そう言うと先程と比べて不自然なまでに腕の力が上がり、押し込まれそうになる。



「う…ぐ……!」



こっちも負けじと全力で押し返すがそれでようやく拮抗を保てるくらいまでが限界だ。

いや、僅かに負けているな…少しずつ押し込まれている。



「魔力も使わずにそんな細い身体で…良くここまで頑張ったんじゃない?」


じりじりと押し込まれた勢いで後ろに下がろうとするがさっきまでもたれ掛かって寝ていた木の柵が壁となっていて下がれないのに気付いた時には遅かった。



「ハアァ!」



下がる為に重心が浮いたのを見逃さず掛け声と共に一気に押し込み、背中から柵にぶつかり肺から空気が溢れる。



そうして両手の力が緩んだ所を呆気なく振りほどかれ、鋭い一撃を………





――――――バサッ――




貰う事は無くそのまま地面に腰を下ろす形になる。

背中からの強い衝撃に頭が上手く回らずただただ咳き込む。

咳が止み気付いた時には勢い良くフードを剥ぎ取られてしまった後であったことに気付く。






恐る恐る顔をあげると先程まではフードのせいで見られなかった女性の顔をまじまじと目で捉える。

短髪でもその存在を強く主張する明るく濃い緑の髪、健康的に焼けた小麦色の肌、そしてキリっとした口と鼻、そして極めつけは睨みつけてるんじゃないか?ってくらいに鋭い…いや、鋭すぎる目つきだな。可愛げのある瞳ではあると思うんだが目尻と目頭、眉毛などが刺々しいと言うよりすこぶる気が強い印象を与えている。

ぶっちゃけ最後に一撃入れられていたら恐怖で気絶くらいはしていたかもしれないな、今も結構怖いもん…主に目が。

…とりあえずどうなるんだろうな、俺。

せめてこのまま逃がしてくれないかなぁ…



そんな事を目の前の女性を見つめながら考えていると



「あら、綺麗な黒髪じゃないの。」



そう、特に何でもないように言った。



「へっ…?」




僅か一日だけの事だったが、それまでとは全く別の反応をされてしまった事に…この世界の常識だと思っていた事と違う状況に理解が追いつかない。


「あんた…何て顔をしてんのよ。」



「いやだって…黒髪ってだけで周りから蔑む目で見られるし…今まで色々あって大変だったし…」



城の奴らはあからさまだったしラルでさえも黒髪については魔力の資質の説明以外では一切触れようとはしなかった。

髪の色は生まれつきだから恐らく同情されていたのだろう。




「それを…綺麗だって言われたら流石に困惑するさ。」



「なるほど、でも私は綺麗だと思ったから言っただけよ?」



「格好いい台詞(セリフ)だな、惚れちゃいそうだ。」


「あぁ…私にそういう趣味は無いから止めて、…であんたは何でこんな所で一人寝てたわけ?」

そういう趣味って…どういう趣味だ?

人のコンプレックスにつけ込んでその気にさせる趣味か?

別に格好いいなぁとは思ったが半分以上は冗談だ、こんなにコロッと落とされる程攻略され易くはないはずだ。

ただ…何となく目の前の女性になら色々と打ち明けていいような気がする。




「黒髪だから魔力が扱えないだろうって理由だけで、危うく捕まりそうになって、…まぁそんな状況から命からがら逃げてきたんだ。」



「ふーん、大変だったわね。」



「全くだ。一夜中寝ずに移動し続けて夜明けの明るくなってきた頃にここを見つけて門が開くまで軽く休むつもりだった…って訳だ。」


「まだ日の上がり始めよ?殆ど休んで無いんじゃない?」


「寝不足は美容の敵だからもう少し寝ていたいけどさぁ…、追っ手が来そうだからな、ゆっくり休んでは居られないさ。」

美容の敵は冗談だから置いておくとしても、少ない睡眠時間じゃ体力も判断力も鈍るからな。起きてすぐの力比べがなかったら今頃は眠気も覚めていたんだがな、また疲れて眠くなってきた。

と言うか冗談を言える程余裕なんか無いはずなんだが…何でだろうな、気を許したせいか?



「…その黒髪も美容には入るのかしら?」



「美容じゃなくてもせめて艶くらいは保ちたいとは思ってる。」



髪の色(それ)で大変な目に会ってるのに?」



自慢の黒髪(生まれつき)だからな。何て言われようとも愛着は湧くさ。」


そう言って中途半端に長い髪の毛をくるくると弄ると目の前の女性はクスクスと笑い出し



「面白いわね、気に入ったわ!あなた名前は?」


そうすればこの世界じゃ…名字は貴族だけなのだろうか?

分からない以上、迂闊にフルネームは言えないな…




「………テツって呼んでくれ。」



「そうテツね、私はアンナ、アンナ・ロッドよ。」


名字持ち…貴族なのか?




そう言って差し出された手を借りて立ち上がる。



「さて、じゃあ行きましょ。」



「村に入って大丈夫なのか?」



「犯罪者や盗賊じゃないなら詰め所に突き出す理由も無いし歓迎するわ。」


「近いうちに追っ手は来そうだけどな。」



そして置いていた風呂敷を取り、門をくぐる直前にマントのフードを下ろそうとして



「あぁ、別にそのままでも問題ないわ。何たってここじゃそんなもの(髪の色)も人種も関係無いもの。」



「………えっ?」



思わずフードにかけていた手を話してしまう。



そしてアンナは立ち止まった俺に振り返り



「ようこそ、シュルツ村へ!」




溌剌として声でそう言った。





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