百九話:予知者からの予言
「特にテッシン君には、相当な対価が必要になるでしょうね」
「そりゃあ色々とやったしな…」
「えぇ、色々と…ね?」
なんでだろうな、あまりいい予感がしないのは。
まぁでも、今はとにかく話を進めるしかないけど…
「何か裏のありそうな言い方ですね」
「まぁ何にしても、お互いに最高の結果をもたらせる様に尽力した事には違いありません。
それは同じく勇者として召喚された者として、私は評価されるべき事だと思っています。」
「勇者、ねぇ…」
勇者って言葉にどうにも良い印象を描かなくなってきた。
ああいった連中と一括りにされるのかと思うと、どうしてもなぁ…
まぁ…それはいい。
「おや、不満ですか?勇者と呼ばれる事に?」
「勇者って呼ばれる奴らにどうにも悩まされてきたからな」
「パラスケヴィもノーブル王国のもう一人の召喚者も、そう呼ばれる資質が欠けてますからね。
彼らを勇者と呼ぶには今ひとつ以上に足りないでしょう」
「確かにそれには同意だな」
「サヴァトも、人見知りさえ直せれば良いのですが…」
しかしこのおっさん、どうにもこっちの事は調査済みっぽいな。
色々と知りすぎてるレベルで知ってるし。
…まぁいい、話を戻そう。
「それで具体的に、対価ってのには何を考えてるんだ?」
「そうですねぇ…」
キリアキはそう言って少し考え込むようにし、ここに居る全員へと視線を配る。
その視線にはどんな意図が含まれているんだか…
「まずこの村を含めて近隣で被害に遭った方々への償いとして、相応の支援を約束しましょう。
消費した物資や人員の手当、人手不足で発生した被害も含めて負担させて頂きます。」
「…それだけか?」
やや間を置いて、少し暗めの口調でダダンさんが問いかける。
あまり大きくは出られない様だが、それでも不満があると言いたげな様子だ。
(不満は収まらない…)
下っ端が被害を出しました、その被害への支援をしましょう、それでさようなら…
今言った事だけだと、こういう事だしな。
いくら物で満たされたって、被害を出した張本人に対しての罰が言われてないんじゃあな…
まぁ現状、外でパラスケヴィ相手に投石やってるから何かしらあるだろうけど。
「いえいえ、まさか?
別途要求事項があるなら、内容が無茶苦茶で無いものは飲ませていただきますよ。」
「そうか…」
「えっと、それは具体的には…?」
それを聞いて、渋々って様子でダダンさんは引き下がってしまったが、そこをジーニャさんが補う。
彼女が聞かないなら俺が聞こうとは思っていたけど…
(でも、これは関係ないんじゃ?)
一応、どの程度が無理なのかは聞いておいて損はないだろ?
俺の要求にも関わってくるだろうし。
「そうですねぇ…国家予算に相当する金銭の要求や、数千人単位での人員要求はまず無理でしょう。
後は…パラスケヴィの処刑くらいですかねぇ…
一応、召喚者の一人ですし死んだら流石に不味いんですよ。」
「えっ?そうなのか…?」
思わずそう口に出してしまった。
俺、あの国で初っ端から殺されかけてるんだけど…?
あ…いや、それは俺の思い込みか。
殺されかけてたどうかは不確定事項だ。
それでも何かヤバイ自体になりそうだってのは間違い無かったがな。
「えっとテッシン?あなたはもしや?」
「確証は無いけど…恐らくな」
「成る程、だから…」
なんだか意味深にそう言って真剣な顔つきになる。
…何を納得したんだ?
「だからって?」
「あぁいえ、後で説明します」
「え、あぁ…」
そう言われちゃあ大人しく引き下がるしかないか。
それに脱線してるけど、今は村への補償の話だし。
「一応、勇者…もとい召喚された者は平和をもたらす象徴としても国力を示す存在としても、簡単に死なれたら不味いんですよ」
「それはパラスケヴィも例外では無いと?」
「えぇ勿論、どういった人物であれ例外は無いです。」
「へぇ…」
どういった人物かは一切関係が無い、か。
じゃあ俺のは完全に勘違い…なのか?
しかしそれだとキリアキのさっきの言葉が気になる。
「あぁ、でも死なないなら何しても構いませんよ?
今も罰として処理出来る範囲でやってる事ですし。」
「お、おう…」
「あなた方の親方様にも是非、参加して下されば幸いです」
「ええ…」
とか考えていたらキリアキがすっげーにこやかにそう言った。
…村長を含めた三人共、見事に引いてるな。
部下を痛めつける事を進んで提案する上司…
(ヘブドマス国はブラックだった…?)
まぁ口には出すまい。
よそはよそ、ウチはウチだ。
「と言うか、さりげなく親方の事も知ってたんだな」
「えぇ、まぁ私の予知の力です。
何かと制限の多いんで苦労はしますがね」
「へぇ~…」
何と言うか、特に予備動作とか儀式的な物は要らないのか?
(事前に使ってただけ…じゃない?)
成る程、そうかもしれないな。
「さて、これで村々への補償の内容は終わりですが…」
「先の言った内容程で無ければ要求しても飲むって事か?」
「そう思って貰って差し支えありません」
「そうか…」
「持ち帰って検討して頂いて結構ですよ。
私達は今暫らく滞在致しますので」
「えぇ、そうさせて頂きます」
という訳で、どうやらあっちの話は終わった様だ。
「さて、次にテッシン君に関してですが…まずは確認からさせて貰いましょうか?」
「…確認?」
という訳で俺の方に話題が移った訳だが…
いきなり確認って、何を確認するんだ?
「えぇ、確認です。
あなたが救った小人の土人形、その主の事を」
「…成る程」
どうやらお呼びのようだぞ、ノーム?
(ただいま留守にしております、御用の方は…)
居留守を使うんじゃない、全く…
しかし救った事もバレてるっぽいな。
これも予知って奴かね?
まぁバレたなら隠す必要も無くなるからいいんだけどさ。
「それで、何を聞きたいんだ?」
「その主は…今何処に?」
「此処だ」
そう言って自分の胸を軽く叩く。
そのジェスチャーを見て、少し驚いた様子を見せたが…
「そうですか、それは良かった…」
そう呟き、すぐに平然とした顔に戻った。
声色にはどこか安堵した様な気配が伺える。
なんだろう、それは予知出来なかったのか?
「えっと、テッシン?」
「それは、どういう事だ?」
「後で説明するよ、細かく話すと長くなるし」
二人がその意味を理解できずに問いかけてくるが、今は無理だ。
色々と面倒だしな。
(面倒って…)
実際、精霊だの契約だの、諸々の事情を話さなきゃいけなくなるんだ。
そんな事してたら今の話が終わらなくなるだろ。
「しかし…本当に素晴らしい。
迫る彼の驚異から人々を守り、その上で私達と交渉する手段として彼を生かし、更にはこの地で眠りながら消えゆく…宝とも言うべき存在を味方につけた。
私達の誰でも、ここまでの結果は辿れていないでしょう。」
「…えらく持ち上げるね」
ここからが本題…か。
しかし…一体全体なんだろうな?
先の言動と合わせて、どうにも嫌な予感がする…
「少し話は変わりますが、私は二つ名の通り…様々な事象を予知する事が出来ます。
明日の天気から自身に目の前に迫る危険、相手がどんな不幸に見舞われるか、果ては世界に迫る危機の内容まで。
まぁそこにははっきりと分かったり、かなり抽象的だったりと程度の差はありますが…」
「で、それが俺に何の関係が?」
「私は貴方への報酬の前に…とある一つの予知の結果をお伝えしたいと思っているのですが…」
「と言うと、それを聞いてから報酬を決めろと?」
「まぁ予知自体は貴方への私からの個人的なお節介と言う事で、聞いて頂かなくても結構ですが…
と言うより聞いてしまうと自ずと貴方が選ぶ報酬が決まると言いますか…」
「いいよ、それでも。
是非聞かせて欲しい。」
なんだろうな…
さっきから妙に胸が騒ぐんだ。
これは聞くべきだと俺の直感が全力で告げているって言うか…
(でも、私も賛成)
だからか、不思議と迷いは無かった。
「では、遠慮無く。
まず最初にですが…これは私の予知の能力をもって得られた、未来が辿り着くほぼ確定な事象です。」
「ほぼ確実?」
「まだ未定の出来事ですが、それをここで知ったとしても私達にはそれを変える事は出来ないという事です。」
「成る程」
つまり…知っていても今からじゃ俺達じゃあ間に合わない。
このままいけば間違い無くそうなるけど、だけど万が一何かの理由で変わるかも知れないからほぼ確定って事ね。
「嘘偽りで無く、しかし何らかの情報として得たものでも無い事は先に断っておきます。」
「はい、分かりました」
「それで、その内容ですが…」
次の言葉を待ってか、ここに居る全員が緊張している。
俺も背筋が凍りつくような不安な感覚に襲われながら、次の彼の言葉に身構えている。
それだけ、空気が重くなった感覚がこの場を支配している。
…そして
「これより九日の後に、ノーブル王国第二王女ラル・ノーブルの処刑が執り行われるでしょう。」
身構えた俺に、真剣な瞳をもってキリアキはそう答えた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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さて、これにて第二章は終わりです。
次からは第三章に入ると思います。
続きますよ…?