十一話:天敵兼ライバル
九話のサブタイトル忘れてたんで今更ですがつけました。
さてしばらく歩き、森を抜けたのは良いが当然行く当てもなく、どうしようかと悩み空を見上げて雲の流れる方向に行こうと閃いた。
風に流されてきたのだから風の方向に沿っていけば城からは遠ざかる筈だ…と。
そうして森に沿って雲の流れる方向に歩いていくことに決めた。
森に沿っていけば風が変わってもひとまず安心だし。
ついでに落ちている枝やら木の皮はシーツを風呂敷代わりにして持って行くことにする。後々使うかも知れないしな。
ついでに手頃な棒も発見し気分は子供の頃の探検ごっこだな。
薪拾いも兼ねて休憩を入れつつ歩き続け、その合間にステータスを開いてみる。
各種ステータスは何となくわかる。力、体力、速さ、器用さ、感覚、意志って所だろう。
力と感覚と意志が高めで魔力が無くて気のようなものを扱える…多分拳闘士だな、役割は。あれだ、相手に掌底を当てて練気掌とかやるやつだきっと。霊力は魔力を弾くみたいだから魔力を奪ったり出来るかも知れないな、夢が広がる。
とまぁそっちはいいんだ別に。問題はアビリティの方だ、なんだよこれ。
・異世界人の成長ⅩⅩ
・文字言語理解
・真理理解Ⅰ
・女神の加護
・ステータス霊法
ステータス霊法は分かるな、魔力を使う方法を魔法として…霊力だから霊法って所だろうな。
文字言語理解もまんまだ。女神の加護は…女神に監視されているのと何か関係が有りそうだな、困ったら力をくれたし。
真理理解Ⅰは…数字が増えていくと色々と世の中の事について分かるとかそのあたりだろうか?
……そのたびにささくれていくとかは無いんだろうか、心配だ。
異世界人の成長ⅩⅩ…初期から高い数値があるのはかえって嬉しさよりも警戒したくなるな。
レベルが上がると強くなるはずだし、超速レベルアップを望むばかりだ。
さて、そんなこんなで夜更けも越えてもうそろそろ明け始めるのではないだろうかといった頃合い。
遂に魔物とのエンカウントを果たしてしまった。
RPGには欠かせない、この生物は必ずどの世界にも居ると噂される伝説の軟体生物、…スライムである。
ゼリー状態だったり液体だったりするがここでの奴は…透明なゼリー状の中に青っぽい小さな塊が入った弱点丸見え君だった。
恐らくあの塊を潰せば倒せるのだろうが向こうもこちらに気付いて警戒しているようだ。
別に好んで倒すほど戦いには飢えていないが進行方向にいるのだ、避けては通れないだろう。
そうなったら大人しく初戦闘の獲物になってもらおうじゃないか。
…マルク?知らんな。
距離はそれなり、数は一匹…いや一体の方が正しいのか?なにはともあれ近くにまだ居ないかだけ確認しつつ慎重に距離を縮める。
ベチ……バチャ…
暗くて気付かなかったが足元を見ると草から水が染み出している。恐らくスライムに気を取られていつの間にか湿地と草原の境界に居たようだ。
スニーカーに水が染み込んできそうだ…なんて気を逸らした瞬間、スライムがこちらに飛びかかってきた!
「わ…危なっ!」
持っていた棒で咄嗟に叩き落としたがビチャっと水を叩く音がしただけで特に大したダメージにはなっていないみたいだ。
追撃で突き刺そうとしてみたがスライム自体に高い弾力があったり棒自体が尖ってないせいもありツルンと受け流されてしまう。
受け流されて隙だらけの所を再度スライムは体当たりしてくるが…
ベチ……
盾代わりにしたマント越しから伝わる衝撃は泥をぶつけられたような…纏わりつくような不快な感じはあったがかなり柔らかいものだった。
だが直接触りたくはない感触なのでマントの裏から殴り飛ばす。
そして再度スライムを弾き飛ばし棒で殴りつける。
そんな戦闘をしばらく繰り返してから……あることを悟った。
お互いに決定打がない、と。
殴っても蹴っても踏みつけても棒で突いてもあのプルプルなボディには一向に傷なんか付きはしない。
向こうも体当たりを仕掛けたり纏わりついてくるがこっちには全くダメージはない。
こっちも向こうも最後の手段として、かじったり捕食するというのがあるがあんな風に地面を転がってるゼリーをそのまま口に入れたくはないし、向こうも纏わりつくときに溶かしてこないのだから食べるつもりは無いのだろう。
じゃあなぜ戦っているのか?
戦うタイミングが湿地に足を突っ込んだあたりからだから…
「よし、逃げよう。」
すっかり水浸しになったスニーカーに気持ち悪さを感じながら地面がぬかるんでいない草原の方へ逃げる。
勝てないならこれ以上争う意味はない、素直に迂回するだけだ。
完全に草原まで下がるとスライムは追っては来なかった。どうやら湿地からは出てこないらしい。
試しに再び湿地に突っ込むとまた襲ってきたからまた逃げ出した。
とりあえず湿地に沿って迂回しようと歩き出したらさっきので警戒されたみたいだ。湿地から出ないようにしながらこっちについて来る。
そんな風にスライムに監視されながらも湿地周辺を探索し、少しずつ明るくなり始める。しかし曇っているから太陽は見えずに暗いからやや暗い程度になっているだけなのだが…今までは森と区別がつかなかったがどうやらこの先には柵に囲まれた場所……恐らくは村があるみたいだ。
目的地が見つかったのでもう森に沿っていく必要はなくなった、後はあそこで情報を集めて次の目的地を決めればいい。
そしてちらりと後ろを振り返り先ほどから付いて来るスライムを視界に捉える。
……最後に決着がつかずに尾行されっぱなしは癪なので再度スライムに近づく。
案の定飛びかかってきたのをかわして、タイミングよく両手で握り込んだ木の棒をフルスイング。
綺麗に真芯にあたり数十メートルほど吹き飛ばしたが…ホームランには飛距離が足りなかったな。
どうせあれだけやっても生きているだろ、スライムだしな。
そんな軽いノリで決着を付けながら湿地を離れ、遠くにぼんやりと見える村に向かって歩いていくことにした。
休みなく歩いたせいか濡れていたスニーカーも気にならなくなり気付けばすっかり乾いてしまっていた。
そうして大分明るくなってきた頃、ようやく村の前に到着した。意外に大きい村である。
念の為…というか間違い無く黒髪は厄介な事になるだろうとフードで隠す。
しかし村に入ろうと思ったがまだ朝早いどころの話じゃない。ギリギリ夜の部類に入るだろうな。
まぁ湿地からここまで歩き詰めだった訳で…少し休もうと風呂敷シーツを地面に下ろし門の近くの柵にもたれ掛かる。
辺りを見回しても来た方角に森と山があり、見渡す限り平原が続いている。
城からどのくらい離れたのかは分からないがここなら恐らくは追っ手が来るにしても1日くらいは時間があるはずだ。
「門が開くまで、少し寝るか。」
そう呟き目を閉じるとやはり気付かない内に疲れていたんだろう。
すぐに感覚が薄れていくのを感じ、意識を手放した。
スライム「何だったんだアイツ?」