百話:それは誰の為
今回更新少し遅れてすいません。
それで…目を閉じて眠ったと思った矢先、夢を見た。
いや、見ているの方が正しいか。
現在進行形で夢を見ている。
視界の先にはまるで、三日三晩戦ったように抉られたってくらいにデコボコな岩場が広がっていた。
その中心に互いにお互いの命を奪いあった大小一対の影があった。
眉間に一振の剣が突き立てられ息絶えたであろう巨大な影。
そしてその傍で今まさに死を迎えようとしている、小さな影。
それに気付くと考える間も無く、反射的に駆け寄る様に動き出す体。
近づいていき…自分の接近に気付いた小さな影は一度、こちらに笑みを浮かべて…
「…はっ!はぁはぁ…」
「あ、おはようテッシン」
目が覚めると、ジーニャさんが顔を覗き込むような姿勢でこちらを見ていた。
すっげー心配そうな表情だ。
ってか何で荒い呼吸を繰り返してるんだ、俺は?
「大分うなされてたけど…」
「あぁうん、大丈夫…かな?」
そんなにうなされてたのか…
全く自覚は無いんだけどな。
(ふあぁ…)
で、随分と眠そうだなノーム。
(あ、おはよう)
あぁ、おはようさん。
ってノームも寝てたのか。
(おかげ様で、ぐっすり快眠)
そうか、それは良かった。
で、起こす約束はどうなったんだ?
まさか…忘れた訳じゃないよな?
(………ぁ)
………
(…ヤバイと思った…が、睡眠欲を…抑えられなかった)
おい…?
言いたい事は、それだけか?
ってか何処でそんな言葉を覚えたんだ?
「何を一人で百面相してるの?」
「えっ?」
と、ここでジーニャさんから横槍が入る。
絶妙なタイミングだ。
「さっきからニヤついたり厳しい顔つきになったり…」
「え~と…」
俺、そんな表情コロコロと変えてたか…?
殆ど自覚は無いんだが…
「これからの事をちょっとね」
まぁ取り敢えず、誤魔化しておくか。
(…嘘つき)
お前が言うな!
「これからの事ってやっぱり…」
「ほぼパラスケヴィの事かな」
「ですよね…」
まぁ実際どうしたらいいのかっていうのは問題でもある。
確実にアイツは俺を狙ってくるだろうし…
思いつく打開策はどれも行き当たりばったりだしな。
しかも逃げるだけだ。
本当、どうするかな…
(じゃあ戦って、勝てばいい)
…その案は?
(動きを封じて…火炙り?)
恐ろしいこと言うな!おい!
それ火力によっては死んじまうぞ?
(情け無用…)
流石にどうかと思うんだが…
(殺らなきゃ…殺られる…)
確かにそれはあるけど…
でもせめて半殺しだな。
ってかそれは出来る可能性があるのか?
(落とし穴にでも嵌めれば…)
まぁ…妥当な答えだよな。
アイツ馬鹿っぽいし、俺の前に仕掛けておければ嵌るか…?
「でも、どうしてそこまで…」
「うん?」
「そこまで一人で頑張れるんですか…?」
「へっ?」
ノームと議論していたが…なんだろうな?
急にジーニャさんが弱気になった。
全く理由が分からないし…
ってかイロンの町で親方が復讐に息巻いてただろ。
それと対して変わらないだろうに。
(…うん)
で、何でノームも歯切れが悪くなってるんだか…
「そりゃ生きたいとか何とかって…さして親方の理由とも変わらないでしょ?」
親方の復讐の目的だって、自分達の驚異を排除して生きる為だしな。
「そうですけど…」
「じゃあ…」
「でも親方が…ああしてるのは実は皆の為なんですよ?」
「…ゑ?」
なんだろう、変な声が出た。
あの…あれだけ怒りやら殺気やらがだだ漏れしていた親方が…演技か?
そりゃあ無いだろ。
あれだけの演技が出来るなら鍛冶屋じゃなくて劇団でもやって食っていけるぞ?
「ちょっと…いや少し?そこそこ本心だと思いますけど…」
「あぁ、うん」
良かった、親方劇団は避けられたか。
って考えが逸れたな。
「で、何で皆の為になるのさ?」
「それが、自分達の一部だけが動いても、皆…全員が戦う事を選べなきゃ駄目だとか…
この、大昔に人が押し込められた土地でこれ以上逃げられる場所ないからって。
それに戦う事を放棄するのは死と同じ…って。
またこんな事が起こったときに皆を引っ張っていくリーダーが必要だって…」
「う~ん…」
確かにそう言われると一理ある…のか?
まぁ他に移住できる土地が無いってのも確かだしな。
見渡す限り土地にも恵まれてないしな。
だから危機には何とかして対処するしかない、と。
(親方…意外に有能なリーダー?)
見た目は相当に脳筋っぽいけどな。
「…そんな事をお爺ちゃんが弱ってた親方の気を持たせる為に吹き込みまして…」
…訂正しようかな?
親方、脳筋かもしれない。
つーかそれ…どう考えても洗脳にしか聞こえないんだけど…
(犯人は…爺)
あの爺さん…本当何やってんだよ…
「でもそう言われて、実際に持ち直したし…ああしていると皆の気持ちもまとまって…」
「じゃあいいの…か?」
「…」
俺の呟きに答える様子はなく、何処か気まずそうな感じで顔ごと逸らされる。
まぁ生きていて欲しいけど、復讐の虜になるのは大変だもんな。
しかし、あれか…?
「だから、土人形にも割と過剰に反応していたのか…?」
「恐らく、そうだと思いますよ?」
普通に考えて正体の分からないものは驚異だし…
じっくり調べる様な感じではなく、こうして一気に調査に踏み込んだと。
なるほど、理にかなっているな。
と…そうこう話をしている間にガラガラと音を立てていた車輪が大人しく勢いを失い、馬車が止まった。
「夜も深くなってきたし、今日はもう無理だ」
「あ、ダダンさん」
「お…テッシン、起きたか」
下げている布を払い、御者台から顔を覗かせるダダンさんがそう告げる。
そういえばさっきから見ないなぁと思っていたけど…そっちに居たのか。
(そりゃ、馬を見なきゃ)
だよなぁ…
で…出発してから随分と長い間寝てたらしいな。
外は真っ暗だ。
本当に、少し休むだけだったんだがなぁ。
(回復したなら…いいでしょ?)
お陰で体調は万全だよ全く。
ってか月が雲に隠れているせいか、かなり視界が悪いな。
確かにこれじゃ進めないわ。
となるとここで夜を明かす訳か。
「そろそろ野営にしようと思ってたから、丁度いいな」
「おっけー、手伝うよ」
「あ、私も」
そんな感じで全員でテキパキと野営の準備を始めていく。
まぁ慣れたもんだから、随分と早く終わるんだがな。
で…結局、その日はそこで一夜を明かした。
気がついたら遂に本編が百話いきました。
ひとえにここまで頑張ってこられたのも皆様のおかげです。
これからも引き続きご視聴いただければ幸いです。
まぁ番外編も含めたらもう既に百話を超えていますが(気が付かなかったなんて言えない…)