九十八話:そして彼らは進む
で、試行錯誤してみた結果…
本当に何も変わった気がしない。
ちょっとその場でジャンプしたり、物を持ち上げてみたりしたが…
普段より高く飛べたりや軽く感じる事は無かった。
霊力の操作についても殆ど同様だ。
てっきり自然の力を身に宿すんだから身体能力が…なんて思ったり、巡っている感覚からしてもそれっぽかったんだが…
今試せる範囲だと、特に『変化無し』だ。
今も微量に体を巡るこの感覚は…本当に何が起こってるんだろうか?
(もしくは力が微量だから?)
それはあるかもな。
まぁ、今は力を蓄えるまでは使わないって事でいいだろ。
(じゃあ次はできる限り、全力で)
いやいやいや…
徐々にギアは上げていこうか?
ぶっつけ本番は危険だし…な?
(そう…)
なんで残念そうなんだか…
つーかまだこの力、身体を巡ったままなんだけど…
(何とかして)
…え?
(だから…自分で何とかして?)
もしかして…あれか?
これ、自分で制御しないといけない奴?
俺に分けて与えた力だから、ノームの管轄下には無いと?
(そう)
そこは先に説明して欲しかったなぁ…
(今からやればいい)
ですよね~…
つーわけで、三分くらい奮闘してみたのだが…
結論から言うと上手くいかなかった。
霊力とほぼ同じような感覚で流れの制御は出来るのだが、これを一つの力として行使するには何かが足りていないみたいだ。
俺の制御から外れた分が少しずつ何処かに消え、最終的に全て無くなってしまった。
(もったいない…)
初めての事だった訳だし、勘弁してくれ。
次は扱えるように頑張るからさ。
(で、もう食事も終わったし?)
あぁ…そろそろ行くか。
ついさっき、動きを確かめる少し前からもう飯は食い終わってる。
食事中に動き回るのも行儀が悪かったしな。
(そういう所、律儀)
ん?そうか?
って別に今その話はしなくていいだろ。
それよりも、今は元来た道だ。
…どの方向だっけかな?
(方向音痴…?)
そういう訳では無いと思うんだけどな。
戦闘があって、辺り一帯の地面が割れたり岩になって転がって、尚且つ薄暗い状況だ。
ここに来た当初の綺麗だと思った光景も跡形もないし…大抵は迷うもんだろ?
(今向いている方向から…10時の方向)
…って分かるのか?
(この洞窟の地形は把握してる)
流石、土人形の人海戦術は伊達じゃないな。
こんなだだっ広そうな洞窟も探索しきるとは…
それに案外ノームの記憶力も侮れないな。
(記憶喪失相手に…嫌味…)
そういえばそうだ、記憶喪失だったな。
(適当…)
そもそも記憶喪失だって言ってるけど、それはどこまでの記憶が無くなってるんだ?
って聞き方が悪いな、答えられないか…
どういう状況がノームの記憶喪失の始まりだったんだ?
こうして話してる限りでも、数日単位って訳じゃないのは分かるけど…
(それよりも早く22時の方向を向く)
お、おう。
なんだかやんわりと拒否された感じだが、まぁいいか。
そっちが元来た道のある方向だよな…っと。
…って22時?
そこは普通に10時でいいだろ。
態々一回転するのに意味があるのか…?
(ふふっ…見事に引っ掛かった)
くそ、やられたかぁ!
(…なんて白々しい)
…方向は嘘じゃないよな?
(方向は本当)
それは良かった。
流石に方向から嘘だったらどうしようかと思ったけど…
(そこまではやらない)
やって困るのは俺もだが、自分にも返ってくる訳だしな。
程度の酷い事はやらないか。
(それよりも…)
はいはい分かってるよ。
そろそろ本当に行こうか。
んじゃ改めてよろしく、ノーム。
(うん、任せて)
という訳で、ノームの示した方向に向かって歩いていく。
気持ち、足取りは重くない。
何て言うか色々あったからだけど…一番は異心同体の相棒が出来たからだろうな。
(相棒…)
人の事を引っ掛けて笑うちょっといたずら好きの相棒だけどさ…
(人聞き悪い…)
でも本当の事だろ?
(笑って、ない)
いや、ふふっ…って言ってたぞ?
(確かに…そうだけど)
それ、笑ってんじゃん。
(笑って…ない?)
いや、そこまで言ったら認めろよ…
(だって…)
なんていう感じに不毛なやり取りやら雑談をしながら、俺達はこの道を進んでいった。
少し短くキリが良くなかったので急いで続きを書いて投稿。
結局こっちも短くなってしまった…