十話:泉と再会
いつの間にか1000PVと250くらいユニークユーザーいってました!ありがとうございます!
さて…あれからしばらく…一時間は経ってないくらい空中に居て、だ。
ある程度流されるまま空中を漂っていると進路に山が見えてきた。
ノーブル王国と北西部の国とを分断する山脈、名前は忘れたが…とりあえず山脈に向かっているみたいだ。
ノーブル王国は内陸に位置していたはずなので城下町周辺にはこの山脈しかなかったはずだ。
ここから王国に向かって大きな川が流れている。
っと知っている事はここまででどんな魔物が出てくるか、それは強いか弱いかとかは一切わからない。
情報収集が大事だと言っていた過去の自分に今している事がそれと真逆な理由は不可抗力だと言い訳しつつもどうしようもなく流されていく。
つい先程急な風の流れからは抜け出していて風が無い状態なので、高度を落としながら一定の速度で進んでいる。
わずかに進路は変えられるが焼け石に水、山脈の麓の樹海にダイブは避けられないだろう。
というかそろそろ手が痛い、早めに着陸したい。手を緩めたらズボンが股下に食い込んでもっと痛いから離すに離せないんだよな…
そんなどうでもいい考えを浮かべていると遂に足下の視界が森に変わった。
まだ落下までは高度があるのでせめて開けた場所の近場にでも、と必死に進路を変えて森の中、そこだけぽつんと開けている場所に向かった。ガサガサと音を立てて森に突っ込み、樹を蹴りながら勢いを殺しつつやや目的地を越えてなんとか止まったが…木の枝にシーツが引っかかり宙ぶらりんの状態だ。しょうがないので反動をつけて木にしがみつき、よじ登ろうとして枝が折れシーツが落ちた。
やるせない気持ちになりながら木から降り、ベルトに結んでいたシーツの結び目をほどく。
四隅がよれて伸び、所々に小枝や葉がくっついているが目立った損傷は無いようだ。
邪魔になる小枝や葉は取り除き、細長く畳み学ランの上から襷のように肩からかけて端を結ぶ。
その上からマフラー代わりにしていたマントを羽織る。
このマント…地味にいい素材なのか落下時に枝からしっかり首を守ってくれた。マントをマフラーにしてたからかなりごわごわしたけどさ。
ついでにフードつきなので髪も隠せる!お得な機能だな!
とまぁここに青と緑の斑模様のマントを羽織り、白い襷をかけた黒服黒髪の男が誕生したわけだ。
先程の開けた場所はどうやら…泉だったらしい。
石造り泉の中心には一体の彫像があり、その開いた両の掌からは疲れた旅人に慈悲を与えるように止め処なく水が溢れている。
曇っているせいで遠くからはよく見えないがもし満月の日ならばその神々しさはより一層増すことだろう。
芸術品には欠片の興味も無かったが、これはただ、ただ美しいと思う…
そして吸い込まれる様に近づいてその流れる水をその像と同じような手の形にして水を受け止めようとして、ふと気付く。
…いや、気付いてしまったが正しいのか?
自分はこの像の人物を知っているし会っているし話した事もある。
…なんでお前なんだよ!女神!
いやさ…絶対お前こんなキャラじゃないだろ?
渇きに苦しむ旅人を助けるならこんな回りくどいやり方よりコップに水出すようなキャラだろ?
泉を作るキャラじゃないのだけは短いつきあいだけど分かるんだ。
しかも本人はこんな神々しいとか堅苦しいのは嫌がってたし…もしかしたらこの像の作者は精一杯の悪意を込めて作ったんじゃないか?
でもってここにあるのは女神にも壊すに壊せない理由がある…とかだろうな、きっとそうに違いない。
そんな事を考えながらちゃっかり湧き水は飲みました。
ちなみにとても美味しかった。心なしか疲れがとれた気がする。
さて、これからどうしようか…と泉の石垣に腰掛け頭を悩ませていると
「…………………ぃ」
とりあえず最短で森を抜けることが先決だろうか?
「…………い!」
はたまた道があれば山を越えてみるのもありだろうか?
「……ぉ〜い!」
いくら一人で身軽とはいっても辛いだろうな、まずは食料の確保が先だ。
「……お〜い!」
でも何をするにも遅いし…今日は休もうかな。
「お〜い!」
「…さっきから何だ?」
「良かった!通じてた!周波数はこれで良いみたいね!」
「無線会話かよ!」
思わず声のする方に振り返ると先程の女神像が淡く光っている。
「それよりも聞こえてるなら早く応えてよね!」
「いまさっき普通に聞き取れる様になったんだ。」
「あら、じゃあさっきまでは別の地域に飛ばしてたって事かしら?」
「聞かれても分かる訳ないだろ。」
「まぁ…そうカリカリしないで!スマイルは大事よ!」
「悪いけどこの状況で笑える程楽観的な性格じゃないんだ。」
「まぁそうでしょうね。」
くっそ…さらっと言いやがって……
「でもね…私も流石に魔力が無いっていうのは予想外だったわけよ。」
「ん…予想外?」
つまり極々僅かにでも魔力を持ってると思っていたわけか?
「今回は数多の失敗を重ねた私だけど、過去に何人か勇者は召喚してるわけよ。」
「そいつらは例外なく魔力を扱えた訳か?」
「勿論この世界の理だもの!ってか貴方が例外中の例外なのよ!なんで使えないのよ!」
「知らんわそんなん。」
特別なのは有り難いがもう少し違う方向で特別でありたかったな。
「大体ステータスを開く魔力も無いせいで貴方は本来有り得ない霊力だだ漏れの状態なのよ!わかる?」
ん…今聞いたことがない単語が……
「なぁ…」
「なによ!謝ったってどうしようもないんだからね!」
「…霊力って何だ?」
「えっ………あっ!」
しまった!と言わんばかりの声を上げるなよ……
「やっぱり……知りたい?」
「知りたい、教えてくれ。」
「……どうしても?」
「はやく教えてくれ。」
「分かったわよ、教えるわよ。」
若干ふてくされているが普通に教えてくれるみたいだ。
「簡単にいうと霊力っていうのはね、魔力と対になる力よ。」
「対になる力?」
「そう、本来なら魔力は肉体から生まれるエネルギーの一種の備蓄分で霊力は精神から生まれるエネルギーの備蓄分なのよ。」
「ふむふむ。」
「魔力は備蓄出来る出来ないに関わらずに作られ続けて体に蓄えられたり漏れ出したりしているわ」
「つまり生きている限り人は魔力を生み出し続けるって事か?」
「人以外もほぼ全ての生物が該当するわね。そして霊力は肉体が一定の器の役割を担ってあって、その器以上に多く作られる事はまずないのよ。」
「…その理由は魔力か?」
「せいか〜い!魔力と霊力は相性が悪くて反発するからね。身体の内側に魔力が霊力を閉じ込めちゃうのよ!そしてそれが貴方には無い…」
「つまり妨害魔法モドキの正体は霊力だったのか…。」
「正解ね、だけどこっちの言いたい事は少し違うわ。」
さっきまでの軽い雰囲気とは違い真剣な話をするであろう重々しい空気が伝わってくる。
「ストッパーがないって事は含めて容易に霊力を体外に出せるということ、それは分かるわよね?」
「ああ。」
「そして魔力と霊力の一番の違いは過剰な供給が出来ない事よ、魔力は使うときに足りなくても肉体の寿命をいくらか支払えば不足分は供給出来るわ…肉体に多大な負担も強いられるけど。でも霊力は違う、霊力の不足分の供給は精神の寿命や負担だけじゃ絶対に済まないわ。感情の欠落や理性の崩壊を引き起こす。最悪廃人ね。」
マルクとの戦いで霊力を知らず知らずの内に使ってた訳で…最悪あの場で枯渇してたらと思うと恐ろしいな……
「……そうはなりたくないな。」
「だから警告はしておくのよ。幸い貴方はSPは多いのだからそうそう無くならないだろうし。…昼間の勇者との戦いでも使ったのは溜めておけなかった霊力だけだしね。」
「なんだ、そうだったのか…」
「あれ?驚かないの?」
「なんか見られてるような気はしてたからな。」
ほくそ笑んだりとかしてる気がしたしな。
「何それ!?貴方色々と恐ろしいわ!」
「そりゃあこっちのセリフだ!」
どうやら俺にはこの世界でプライバシーは無いらしい。
「まぁいいわ、それよりも…」
そう言うと淡く光り輝いていた女神像が一際強く輝き、一筋の光が飛んでくる。
咄嗟に避けようとしたが見事にカーブし胸元に吸い込まれる様に命中した。
「…何で避けたのよ、当てたけど。」
「前回の気絶はこれが原因だろう?忘れたとは言わせないぞ!」
「今回は大丈夫よ、多分。ステータスを開いてみなさい。」
いったい何なんだ?と思いながらもステータスと念じ、開き、驚愕する。
昼間に見たときのステータスとは違いあの蒼い色じゃなく、オレンジっぽい色でステータスが出現した。
しかも掠れて見えなかった部分もはっきりと映っている。
「私からのプレゼントよ。」
「…ありがとう。」
ここに来てからはろくな事が起こってないが、それでもこうしてフォローしてくれる人が…いや女神か、がいるのだ。せめて女神の期待には応えたいな。
「どう致しまして、…そういえば森の出口は像の右手側よ、行くならさっさと行きなさいな。」
「どうしたんだ急に?」
「あまりこの森も安全じゃないからね、早めに行って欲しいだけよ。」
「本音は…自分と同じ姿の像が手から水を出して旅人の渇きを潤すとか…そんな救いの神みたいに見られたくないから…だろ?」
「……正確すぎてぐうの音も出ないわね。本気で怖くなってくるわ…」
本気で当たってるとは…謙遜する女神だな……
「まぁ…それじゃあそろそろ出発するわ。」
「あぁ…それとこの泉の効能は火傷、切り傷、擦り傷、四十肩に疲労回復に……」
「じゃあな〜」
「あ…ちょっ……」
泉じゃなくて温泉にしろよ、と思う効能を聞き流しつつ森を抜ける方角へ歩いていくことにした。
Nameテッシン・ニジ(男)
Lv1
HP300/300
MP0/0
SP500/500
STR:85
VIT:50
AGI:55
DEX:65
SEN:80
WIL:100
アビリティ〈取得順〉
・異世界人の成長ⅩⅩ
・文字言語理解
・真理理解Ⅰ
・女神の加護
・ステータス霊法
アビリティについての説明は次回以降しようかと思います。