ニート脱出を目論む加藤
三年間のニート生活から意を決し、就職活動を行う加藤。今日はIT企業に面接を受けにきた。
「参る」
会議室のドアの向こうから怒鳴り声が聞こえ、面接官は何事かと驚いて飛び出してきた。
ドアを開けると天を衝くかのような長身に広い肩幅、なんら手入れのしていない無精髭を提げたニコニコ顔が立っていた。
「あの~面接に~きましたっ加藤ですう」
今まで10数社を落ちてきた加藤はさすがに学習しており、所々に下に出て猫なで声でしゃべるようにしていたが、元来人付き合いの苦手な性であるのか、歪めすぎたその微笑は、かえって人を馬鹿にしているかのような風であり、その体格も相まって異様な威圧感があった。身なりも雑で、さすがにスーツ姿であるが、ネクタイはグチャグチャにねじまがり、胸元も空いていた。そして、少し酒臭かった。
「面接予定の加藤さんですね」
その場で追い返すわけにもいかないので、どうぞこちらへと面接官は誘導した。
席につく前に加藤が、
「我こそはあ」
と喚きはじめた。
「京より出でし、加藤某の嫡男なり。この度はぁ」
「はい、はいわかりました。それでははじめましょう」
地が割れるかのような喚き声で何を言ってるがわからなかったが、面接官が慌てて遮り、取り敢えず座らせた。
加藤にとっては全身が硬直し林檎のように真っ赤な顔をして自己紹介を行ったのに(彼なりに緊張していた)、それを中断させられた。
「野郎…」
「なんですか?」
「いや」
そんなやりとりをし、事務的な質問が始まった。
「何故この会社を受けようとー」
「この槍裁きをご覧じれば、自然わかるはず」
加藤はすっくと立ち上がり、スーツの背中の中から一本の槍を取り出した。
「ちょ」
「うぬあ」
力いっぱいに振り上げて天井の蛍光灯を突き刺した。
バリッ
という音がしてバラバラと落ちた。
「うわあっ」
面接官は咄嗟に机の下に潜ったが、その中で、即刻帰ってもらおうと決意した。
警察を呼ぶなりなんなりの手段はあるが、殺されるのではないかという程の鬼気を感じたので気を逸した。それに、大事になる前に返さないと自分に責任が及ぶのだ。あの半気違いの道連れはごめんこうむりたかった。
「この槍で、異人どもを、串刺しにする所存!」
加藤は怒気を放ち奇声をあげ身体を激しく動かすことによって自らを昂揚させた。この昂揚こそが加藤の一番気に入っている常態であった。
一般人から見るとまさに情緒不安定であった。
「てぃやってぃや」
大の男からは想像もできないような高い声を出し、面接官は畏怖した。
「た、大変申し訳ありませんが、今回はお時間が来ましたのでこれまでに、、委細は後日連絡いたします・・・」
「まぁそう急くでない。次は儂の趣味でも聞けい」
加藤は内ポケットからおもむろにタバコを取り出し、火を点けた。しかし、タバコと言うにはあまりに長く太かった。
しばらくすると、バチバチと破裂音を立て、加藤の口の中で小さな爆発が連続していることがわかった。
加藤は何事もなくスゥーーッと吸い込み、また吐き出した。
香りも明らかにタバコのそれではなく、火薬であった。そして何よりも口から出る煙は真っ黒である。
「儂は昔っからタバコが好きでな・・・」
それは明らかに市販の花火だ。
とは面接官は言えなかった。
「ちょっと!やめてください!警察呼びますよ!」
「なにぃっ」
バァンッ
机が二つに割られ首を掴まれ持ち上げられた。
「わしのあぴーるを愚弄するかっ」
加藤は唾をとばしながら絶叫した。
面接官は何か口をモゴモゴしていたが、鳩尾を拳で抉られ胃を掴み取られあっさりショック死した。
加藤はまたやっちまったと後悔しつつ、血まみれの右手を不振な目で他の社員に見られながら会社を後にした。
破竹の勢いで書きました。