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蒼の守り人

『守り人よ』

 声が、した。

 荘厳な雰囲気を漂わせた、低めのよく通る声。

『深青の力を秘めし、我が守護者よ』

(貴方は、誰だ…?)

 口に出したつもりが、しかし声にはならなかった。

『世に託された予言は、其方に重くのしかかるだろう』

 声は続く。

『しかし、私は其方に力を授けなければならない』

 淡々としたその声に、僅かに苦々しさが混じった気がした。

『心を定めよ。立ち位置を見誤るな。其方は、其方が信じる道を進めばいい』

 段々と聞こえる声が小さくなっていく。

 最後に聞こえたのは、

『其方に重荷を背負わせることしか出来ない私を、許してくれ…』

 そんな、酷く悲しみを帯びた声だった。

 ーーー

 ふっ…、と水の底から浮かび上がるように、意識が覚醒した。

 まず目に入ったのは、青々と生い茂る木の葉とその隙間から差し込む木漏れ日だった。眩しくて目の前に手を翳し、束の間ボーッとする。そして、ゆっくりと起き上がった。

「ここは…」

 何処だ、という言葉は音にはならなかった。

 何処まで続いているか分からない、深い森。風に揺れる木々は、爽やかな音を立てている。木漏れ日や照らされた森は明るく、地面にも丈の短い草が生えていた。

 そんな中に倒れていた少年ー黒崎流依(くろさきるい)は、置かれた状況に暫く思考を停止させる。

「俺、何でこんな所に…」

 眠る前、否、この場合は意識を失う前というべきか。兎も角、それを思い出そうとするとズキリと頭が痛んだ。それでも少しずつ記憶を辿っていくと、最後に残っていたのは兄と友人の三人でいたところだった。そこから先は、真っ黒な絵の具で塗り潰されたかのように思い出せない。

 ここは、何処なのか。そもそも自分のいた世界なのか。そう考えている時点で、そうではないと直感的に感じているのかもしれない。

「…ったく、漫画かって」

 困ったように呟いて、流依は立ち上がる。そして、行く宛てもなく歩き出した。人気のないここで、ジッとしていても仕方がないと思ったからだ。

 しかし、歩いても歩いてもひたすら森の中。出口は見えない。

 そのとき。

 頭上から、音がした。何事かと思って立ち止まれば、目の前にボトリと形容するに相応しい落ち方で、何かが落ちてきた。それが何かを認めて、流依は予感が当たっていたことを知る。

 それは、可愛らしいフォルムの小さな竜だった。薄く青味を帯びた白銀の体躯に、丸く大きな空色の瞳。大きさは、流依の肩に乗るのに丁度良いくらいか。

 こんなもの、流依の世界にはいない。

 ジッと見つめてくる瞳を困ったように見返していた流依は、その竜の翼が傷付いていることに気付いた。

「お前、怪我してるじゃないか」

 言いながら竜の傍に片膝をついた時、

『俺の声が聞こえますか?』

と、若い男の声が頭に響き、流依はぎょっとした表情になる。

「喋った⁈」

『あぁ…、良かった。聞こえるんですね』

 予想斜め上を行く事態に流依が呆然としていると、竜が言葉を続けた。

『驚かせてしまって、申し訳ない。聞こえるついでに、頼みを聞いていただきたい』

「頼み…?」

『はい。ここを真っ直ぐ行った先にある神殿へ、俺を連れて行ってほしいのです』

 竜の言葉に暫し逡巡し、それから頷いて流依は竜を抱き上げた。

「ここを真っ直ぐでいいんだな?」

『はい』

 竜を腕に抱え、流依は再び歩き出した。

 時間にして十分ほど、急に森が切れて視界が開けた。そして、

「うわぁ…」

 目の前に広がった光景に、流依は思わず感嘆の声を漏らした。

 そこには確かに神殿があった。大きな湖の中央に、荘厳で神秘的な古い遺跡のような神殿。神殿上部から流れ出す水が、真っ直ぐ湖に注ぎ込まれている。

「すご…、底が見える」

 湖を見て、流依が呟く。

 湖の水は驚くほどに澄んでおり、差し込む日差しに水中が美しく輝いていた。

「あの神殿が水源なのか」

『そうです。ここは、世界を守護する四神の一柱セイリュウ様の神殿。そこから生まれ出る水は、どのような不浄も含まない浄化された神聖な水なのです』

 四神。セイリュウ。聞き慣れない言葉に、流依は軽く首を傾げる。しかし、その意味を問う前に、竜が言った。

『さぁ、入りましょう』

「…あぁ」

 頷いて、流依は神殿の入り口へと続く石の上に足を踏み出した。歩ける程度の間隔で配置された石の上を彼は軽快に歩いて行く。

 入り口までやって来た流依は、閉ざされた扉の前に立ち尽くした。見上げるようなそれは、簡単に開きそうもない。

「これ、どうするんだ…?」

『扉に手を当ててください』

 言われた通り、片手を扉に当てる。

『では、これから俺の言う言葉を復唱していただきます』

 そう言って、竜は流依へ言葉を告げた。それを聞いて流依は、そんなもので大丈夫なのか、と内心首を傾げながら口を開く。

「我、資格を持ちし者。今、我が言葉により、我が前に蒼き王へと続く道を開け」

 言い終えると同時に、石で出来た扉に蒼い紋章のようなものが浮かび上がった。それはまるで、天へと昇る龍のよう。

 そして、重く腹に響く音を立てながら、扉が開いた。

「…えーと、入って、いいんだよな?」

 思わず、確認してしまう。

『勿論です』

「だよな。じゃあ、失礼します」

 恐る恐る、神殿内へ足を踏み入れる。

 神殿は広く、奥までずっと続いていた。天井は高く、左右からは滝が流れ込み、湖と同じ水が下に溜まっていた。

『奥の祭壇へ』

 促され、奥へと歩き出す。中ほどまで進んだ所で、不意に背後から声がした。

「へぇ、そういう仕組みになってた訳ね。道理で、何やっても開かない訳だ」

 気配が、全くなかった。驚いて振り向けば、入り口に一人の男がいた。

 燃えるような紅の髪。鋭いワインレッドの瞳。着ているのは、漫画出てきそうな見慣れない服。

 服装に違和感を覚えたのはお互い様のようで、男は流依の服を上から下まで不躾に眺める。そして、ニヤリと笑った。

「お前、見慣れねぇ服着てんな。異世界人って奴か?」

「…⁈」

 言い当てられ、再度驚いた。目を丸くする流依に、青年が笑みを深くする。

「なるほど、そーいうことね」

『貴様、何故ここに…』

 男の意味深な言葉に被せるように、竜は低く唸る。

「あの程度で俺を撒けたとでも?舐めてもらっちゃあ困るな」

「…あなたが、この竜に傷を?」

 今まで黙っていた流依が、不意に口を開いた。硬い声と険しい瞳で、警戒心を露わにする。

「まぁな」

「何故」

「命令だからな」

 誰の、とは聞かなかった。普通は答えないし、聞いたところで流依にな分からないだろう。今は、この状況を何とかしなければいけない。

 とはいえ、打開策が思いついている訳でもないのだが。

 どうしたものか、と考えていると、腕の中の竜が言った。

『ここは俺に任せて、貴方は祭壇へ向かってください』

「任せてって…、お前、怪我してるじゃないか」

『心配御無用』

 短く竜が言ったかと思うと、その体が眩い光を放った。腕の中から重みが消えたことに気付かず、流依は反射的に腕で目を庇う。やがて光が収まり、ゆっくり目を開けると。

 目の前に、巨大な竜がいた。

 先ほどまで腕の中にいた竜と全く同じ色彩を持った、美しい銀竜。唖然として見上げていると、銀竜の声が聞こえた。

『さぁ、早く祭壇へ』

「あ、うん」

 促されるままに、祭壇へと走り出す。一連の流れを見ていた男が、漸く動いた。

「それは、ちょっと困るんだよなぁ」

 言って、男が地面を蹴る。流依を追おうとした彼は、しかし途中で立ち止まった。直後、その上に鋭い氷塊が降り注ぐ。それらは、男の周りで半透明の薄い深紅の壁に阻まれ、粉々に砕け散った。

「怪我したくなきゃ、邪魔すんな」

『それは、こちらの台詞だ』

 男と銀竜が睨み合う。その間に、流依は祭壇の上へと辿り着いていた。

 そこには、深青色の水晶(クリスタル)があった。そしてそれには、扉に浮かび上がったものと同じ、龍の姿が彫り込まれていた。

 どうしろ、とは言われていない。しかし流依は、引かれるように水晶に触れた。

 瞬間、水晶が蒼い光を放ち、世界が一変した。

 足場や水晶が消え、周囲が深青色に塗り潰された。そして、水に包まれる感覚が流依を襲う。反射的に息を止めようとして、流依はそれが普通の水とは違うことに気付いた。

(この水…、息が出来る)

 地上にいるのと同じ感覚で、呼吸が出来る。更に言えば、服が濡れて肌に張り付くこともない。それでいて水に包まれた、奇妙な浮遊感。不思議な感覚だった。

 首を傾げていると、声が聞こえてきた。

『初めてここに来て、それでも動じないとは…。さてこそ、だからこその其方ということか』

 聞き覚えのある声。だが、それが何処でだったのかを思い出す前に、流依の前へ声の主が姿を現した。

 それは、水晶に刻まれていたものと同じ姿。

 蛇のような細長い体躯。それを彩るのは深青色だが、角度によっては紺にも青にも見える。瞳孔の細い金の瞳。目から鼻先、頤は長く、口からは鋭い牙が覗き、また長い髭が左右から一本ずつ生えている。爬虫類のように節のある手足の先には、鋭い爪があった。

 その姿は、全身が淡く光に包まれている。

「貴方、は…?」

『私は、セイリュウ。この世界ーリーディアスを守護する四神の一柱。水と氷を司る蒼の王、と呼ばれることもある』

「この神殿の、主」

 そう呟いて、流依は唐突にその声を思い出した。

「そうか、貴方は、夢の…」

『こうして直接会うのは、初めてか』

 そう言い、それから蒼き龍は言葉を続けた。

『待っていたぞ、我が守護者よ』

「守護者、とは?」

『我ら四神は、世界を守る役目を担っている。しかし、我らが直接動けば、世界に与える影響は多大なものとなる。それ故に、我らは特別な資格を持つ者に我らの力を授け、我ら自身の、そして世界の守護者とするのだ』

 何と壮大な話か。だが、信じないという訳にもいかない。

「つまり、その守護者というのが俺…?」

『そうだ』

「なるほど、拒否権は…なさそうだな」

『残念ながら、な。すまない』

 謝られ、流依は慌てて首を横に振る。

「いや、謝る必要は…。貴方が俺を選んだ訳じゃないんだろ?」

『あぁ。守護者を選ぶのは、この世界の主神。我ら四神の王、コウリュウだ』

 蒼龍の言葉に、流依は暫し腕を組んで考え込む。そんな彼をジッと見つめ、蒼龍はただ言葉を待っている。数分後、おもむろに流依が口を開いた。

「…俺にしか、出来ないことなんだな?」

『あぁ、そうだ。この世界で唯一、其方だけが資格を持つ』

「そっか…。うん、分かった。その役目、引き受けるよ」

 笑顔になって、流依は言った。

『感謝する。では、目を閉じてくれ。力を授けよう』

 言われて、目を閉じた。蒼龍の放つ力が強くなり、そして流依の周りに深青色の光が集まっていく。

 何かが流れ込んでくるような感覚。冷たく、それでいて何処か暖かく懐かしい力。欠けていた欠片が埋まるかのように、その力は流依へと馴染んでいった。

 光が消え、流依が瞼を上げる。

 その瞳は元々の漆黒ではなく、海のような深い蒼色へと色を変えていた。

『其方の色は、唯一無二のもの。その色こそが、其方を守護者だと示す何よりの証拠となるだろう』

「あぁ」

 真っ直ぐに蒼龍を見据え、流依はしっかりと頷いた。

『では、元の場所へ戻そう。力の継承が済んだと分かれば、今アルトが戦っている者も素直に引くはずだ』

「アルト…。あの竜のことか?」

『あぁ。彼はこの神殿を守る役目を担っている聖獣だ。これからは、其方に付くことになるだろう』

 蒼龍が言ったと同時に、流依の足元に深青色の円形の紋様が広がる。輝くそれは、まさに漫画に出てくるような魔法陣。

『それでは、またいずれ会おう。我が守護者よ』

「あぁ、またな」

 流依が言い、彼は光に包まれた。閉じていた目を開くと、目の前では壮絶な戦いが繰り広げられていた。流依は深く息を吐き、それから短く息を吸って声を上げた。

「そこまでだ!」

 無理して張り上げた訳でもなく、しかしよく通る凛とした声が神殿内に響いた。流依の存在に気付いていなかった一人と一匹は、動きを止めて流依の方を見た。

 そんな彼ら、主に男の方を見据えて流依は言う。

「力は継承された。その阻止が目的だったなら、戦いを止めて引け」

 その言葉に、男はジッと流依を見つめた。

「ふーん…、本当らしいな。けど、それで簡単に引くとでも?」

「出来れば引いてほしいな。人を傷付けるのは、あまり好きじゃないんだ」

「甘ぇな。そんなんじゃ、この先やって行けねぇぜ?」

 にっと笑って、男は言う。それに対して、流依も笑みを浮かべて答えた。

「そうだな。だけどー」

 瞬間、一条の蒼い光が流依と男の間を駆け抜けた。その光は男の頬を掠め、背後の石片に当たってそれが砕け散る。そして、男の頬から一筋の血が流れた。

 男の瞳に、僅かな驚きが過る。一方、流依は口許に笑みを浮かべたまま。

「ー傷付けられない、って言うほど善人でもないんだ」

 流依の手には、いつの間にか一丁の銃が握られていた。

 銃身は長く、色は白銀。グリップの下からは、先に鉤の付いた蒼色の長い紐が付いている。その銃口は、真っ直ぐ男に向けられていた。

 銃口を向けられた青年は、ニヤリと笑う。

「へぇ…、意外にガキって訳じゃあないらしい。まぁ、いいや。ここはお前に免じて引くとしよう」

「助かるよ」

「そういや、お前、名前は?」

 ふと思いついたように、男が流依に聞いてくる。

「…流依だ」

「ルイ、か。俺は、レン。よろしくな」

「よろしくってのも、変だけどな」

「まぁ、細かいことは気にすんな。んじゃ、またどっかで会うだろうよ、蒼の守護者さん」

 軽い調子で言い、男ーレンは開いたままの扉からさっさと出て行った。先ほどまで戦っていたとは思えないほど、あっさりしている。

 そう考えながら銃を消し、流依は祭壇に降りて行く。口を挟まずジッとしていて銀竜の許まで行き、彼を見上げた。

「アルト、だよな?」

『はい。セイリュウ様に聞きましたか』

「まぁな。…とりあえず、怪我しているからまた小さくなってくれないか?」

 流依が言うと、瞬き一つの間に銀竜の姿は元の小さな竜の姿になっていた。

『湖に俺を浸けてください。水の中の魔力で、傷を癒えますから』

「分かった。その間に、色々と教えてくれよ」

『そうですね、そうしましょう』

 同意する竜を抱き上げ、流依は神殿の外へ向かった。



『守護者が現れる前には、必ずコウリュウ様よりこの世界に神託が下されるようになっています』

 水に浸かっている竜の説明に、自身も靴を脱いで足を水に浸しながら流依は耳に傾ける。

『一年前、この世界に神託が下されました。内容は、“いずれこの世界には、選ばれし守護者が現れる。その内の幾人かは、異世界より来たりし者である”というものです』

「異世界から人間が来るのは、よくあることなのか?」

『珍しくはあります。しかし、全くないというほどではありません』

 ふーん、と気のない相槌を打ちながら思い浮かぶのは、兄と幼馴染みのこと。彼らも此方側に来ているのだろうか。

「とりあえず、俺はこれからどうすればいいんだ?」

『それは、俺の決めることではありませんが…。ただ歴代の蒼の守護者たちは世界を旅し、他の四神の神殿を巡ったそうです』

「じゃあ、俺もとりあえずそうするかな。他の守護者にも会ってみたいし」

『貴方がそう望むなら。しかし、注意しなければならないことが幾つか』

 相変わらず淡々とした調子で、竜は言う。

「何?」

『一つは、魔族の存在です』

「魔族?」

『人間を苦しめる要因の一つである存在です。人間の持つ魔力とは少し違った魔力を操る人外の存在。神殿に現れたレンという男も魔族です』

「え、そうだったのか」

 竜の言葉に、流依は驚く。

 流依は人間だと思っていたのだが、まさか違っていたとは。よく大人しく引いてくれたものだ。

 竜は頷いて、言葉を続ける。

『そうです。そうでなければ、俺たち聖獣と同等に渡り合うことは難しいですよ』

「聖獣っていうのは?」

『この世界には、普通の動物と違う存在が二種類います。一つが、魔獣。魔力を持っていて、人を襲うこともある異形です。そして、もう一つが聖獣。四神の神殿や四神の創った特殊な道具ー神器の守り手を担っています』

 何も知らない流依の問いに、竜は嫌がることなく答えてくれる。尤も、表情が読み取れないので、本当のところは分からないが。

「なるほど。話の腰を折って悪かったな。で、他に注意することって?」

『人々です』

 簡潔に返って来た答えに、流依が目を丸くする。助けるべき人々に注意しろ、とは一体どういうことか。そんな疑問を察したのだろう。流依が問う前に、竜は口を開く。

『助けてくれる守護者というのは、良い意味でも悪い意味でも影響を与えます。良い影響は色々とありますが、悪い影響は分かりますか?』

「んー…、人々が守護者に頼りすぎること?」

 問いかけられ、少し首を傾げながら流依は答えた。

『正解です。守護者に頼りきりになるあまり、自らで大きな問題に立ち向かおうとしなくなる。または、守護者の力を独占しようと無謀にも刺客を送ってくるなどの行為が増えて来ます』

「つまり、なるべく正体は隠した方がいいんだな?」

『そうですね、その方が賢明かと』

 竜の言葉に、ふむ、と流依は腕を組む。

「そこら辺は、まだ実感がないからなぁ…。まぁ、いいや。それより、俺の力のことだ」

『貴方の力、ですか…?』

「力を継承したと言っても、まだ上手く使えない」

『ですが、先ほど銃を出しておられたではありませんか』

「あれは、セイリュウの力じゃない。誰でも出来ることだろ?」

『まぁ、それはそうですが…』

 きっぱりと言い切る流依とは対照的に、竜は言葉を濁した。

「力を手に入れる前と後では、見える景色が違う。多分、お前の言う魔力って奴が見えているんだろうな。けど、何て言うのかな…、自分の中にある力?そういうのが、不明瞭で上手く掴めない」

『そう、なんですか…。俺は守護者に付くのは初めてなので、歴代の守護者がどうであったかは分かりませんが』

「…何で、俺なんだろう」

 何気なく、流依が呟いた。読めない色の瞳で湖を見つめる彼を、困ったように竜が見上げる。その視線に気付いて、流依は笑った。

「なんて、そんなこと気にしたって仕方ないよな。任されたことを放り出すなんてカッコ悪いし、どうせこの世界で他にやることなんてないんだ」

 よし、と言いながら立ち上がり、流依はパッと立ち上がる。

「とりあえず、森を出よう。まずはそこからだ」

 年相応の少年らしい表情で言い切る流依を、竜は感情の読めない目で見つめる。

 生みの親の力を継いだ、異世界の少年。何故彼なのか、それは分からない。けれど、一目見た瞬間に、分かった。

 この少年がセイリュウの守護者、蒼の守り人なのだと。

 だからセイリュウを信じ、この少年を信じてみようと思った。信じて、ついて行こうと思った。

 この少年の歩む道を、見届けるのだ。

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