地下5階
ナナシがそこに辿り着いた時には、もう“狩り”は終わっていた。
肺を満たす血臭。
数年前までのナナシであったなら、その光景に衝撃を覚え、立ち尽くしていたことだろう。辺りには、指、眼球、足……人間の、人間だったパーツが、そこいら中に喰い散らかされていた。
嗅ぎ慣れた臭いが鼻腔を突き刺す。このフロアに到着する間、鈍色が激しく反応していたことをナナシは思い出した。
犬狼族の血を引く鈍色は、外観に現れている犬耳や尻尾はもちろんだが、現れていない部分にもその特徴が色濃く出現している。
解りやすいものを挙げれば、人語の発生が出来ないその声帯や強靭な筋繊維であるが、もちろんそれだけではない。純粋な犬狼族に比べれば遠く及ばないが、鈍色の嗅神経は人間のおおよそ数倍以上もあった。
その鈍色の優れた嗅覚のセンサーに、何かが反応したらしい。言うまでもなく、死臭である。
可愛らしい小さな鼻をひくつかせた鈍色は、顔色を青ざめさせたかと思うと、ナナシを押し留めようとし始めたのだ。
その時に慌てたのはナナシだった。
急に引き返そうとする鈍色に訳を尋ねるも、首を振るばかり。
付き合いは長いと言えども、正直なところナナシには、鈍色の言わんとしている所が全て理解している訳ではない。
発語のない相手だ。感情豊かな尻尾や表情を見て、推察しているだけにすぎないのである。
今回も、鈍色が何かに怯えている、ということしか解らなかった。
だが、作成し直した地図からして、未探索部分はこちらの方角しかないのだから、進まない訳にはいかないのだ。クリブス達との合流も未だ果たせてはいない。単位の関係で、探索は半ば強制的なものであるため、途中放棄はありえない。
だが鈍色はといえば、ナナシの両手を引きずって、腰を落とそうとまでしている。
どうあっても行かなければならないというのに、まるで駄々っ子のような態度だ。ナナシには鈍色がここまで嫌がる理由がまるで解らなかった。
涙を浮かべながら、なおも手を引く鈍色を無視する形でナナシは進んだ。
そして、理解した。
鈍色が強靭な握力を持ってして、繋いだ手を圧迫する。籠手がみしりと音をたて軋んだ。
痛みを感じながら、それでもナナシが鈍色の手を離さなかったのは、その小さな手がぶるぶると緊張で震えていたから。
眼の焦点は合わず、歯の根は合わず、薄い唇からは不協和音が奏でられている。膝はがくがくと笑っていた。
防刃繊維が編みこまれたスパッツを濡らしていく染みは、直ぐに地面へと水滴を落としていく。学園指定のスカートまでも、べたりと濡れてしまっていた。
鈍色は恐怖に囚われていた。
だが怯える鈍色を気遣う余裕など、ナナシにもない。
視線の先に、化物に齧り付かれているクリブスを見付けてしまったのだから。
「何、を……やってやがる化け物ォ――――――ッ!」
激情に任せ飛び出したのは、浅慮が過ぎたと言う他ない。
「わうーっ!」
化け物へと向かって跳んだナナシへと、鈍色は振り払われた手を縋るように伸ばす。
この場で一番冷静だったのは鈍色だろう。
彼我の実力差を察知し、鈍色はずっとナナシへと逃走を促していたのだ。
血の臭いだけでなく敵の力量さえも嗅ぎ取ったのは、犬狼族の血がなせる技。野生の勘であったのだろうが、そのセンサーの正確さを、ナナシは知っていたはずだった。
知っていたのならば、ナナシはもっと真摯に鈍色の意見を聞くべきであった。仲間と早く合流しなければならないとの焦りが、ナナシから余裕を奪っていたのかもしれない。
だが、鈍色の意図を理解したからといって、引き返すことが出来るわけもなかったことも事実。
結局は、早いか遅いかの違いがあるだけだった。
こうして鈍色の恐怖、その実体を我が身に突き付けられる事が。
「その汚い足を退けやがれぇッ!」
飛びかかるナナシに、詰まらなさそうに化け物は視線を向けた。
――――――こいつッ!?
瞬間、ナナシに浮かんだのは屈辱であった。
化け物はナナシを見て、溜息を吐いたのだ。
まるで取るに足らない小物を見るような、そんな目で。
鬱陶し気にこちらへ向く化け物の姿は、おおよそ自然には存在し得ない姿をしていた。
獅子の頭、蛇のタテガミ、猛禽類の上半身に爬虫類の尻尾、そしてコウモリの羽。
化け物の名は、混成獣『キマイラ』。
いかにこの世界が神の影響下にあり、地球に比べ多様な生態系を誇っているとしても、ここまで醜悪な存在が生まれるだろうか。
醜い化け物の顔が吐き気を催す角度に釣り上がり、ナナシを嘲笑う。
右の腕に齧り付かれたままのクリブスが、飽きたとばかりに放り出される。
牙に引っ掛かっていたクリブスの右腕が引き千切れる瞬間を、ナナシは見た。
「おのれ――――――ッ!」
『撃発用意』
激情に任せ、鎧の機能を叩き起こす。
「喰らえぇぇえああああ!」
右腕チャンバー内に魔力が装填され、三本の杭が露出。
音声入力により即時射出。
圧搾空気により無色の魔力が迸る。
「フィスト・バンカァァアアアア!」
新米冒険者程度の実力を基準に管理された、学生向けの迷宮に住まう魔物では、避けられるはずもない一撃である。
ナナシの機関鎧は、推定レベルにして10台後半から20台前半のポテンシャルを保持している。それをどこまで引き出せるかは、装着者の技術次第だ。
平均レベルが15にも満たないはずのこの迷宮では、いかに迷宮の主といえど、仕留めるまでは至らずとも大ダメージを与えることは必至。
加速が加えられた拳撃は、キマイラの顎を粉砕する――――――はずだった。
「な、にいッ――――――!?」
だが、実際はどうだ。実に呆気ない交差ではないか。
キマイラの嘲りの眼が、雄弁に語っている。取るに足らぬ、と。
必倒の一撃は、蠢く蛇のタテガミによって絡め取られてしまっている。押しても、引いても、ぴくりとも動かない。
逃げ場の無い衝撃が、ナナシの体内を暴れ狂う。食いしばった歯の隙間から、ナナシは鮮血を噴き出した。
蛇髪を解かんと繰り出した左拳。キマイラがふいと首を傾げる。ただそれだけで、ナナシの拳は空を切る。
体を崩された。“釣られた”のだ。
そう理解した時にはもう遅い。
残されたのは、がら空きになった胴体。
「ガ、ァッ!」
死に体を曝していた身体に、前足の一撃。
キマイラは正に羽虫にそうするように、ナナシを地へと叩き落とした。
「ギ、ィッ! あ、あアッ、あぎッ、が、ぎぃアア――――――!」
踏み付けたまま、前足へとじわじわとした圧迫を掛けていくキマイラ。
胸部装甲が軋み、歪み、装甲板に挟まれた肋骨がゆっくりと折れていく音を、ナナシは聞いた。
壊れたラジオのノイズのように、断続的な絶叫が喉から飛び出す。これが自分の声だとはまるで信じられなかった。
自分が一瞬で敗北したなどと、信じたくはなかった。
活路を見出そうと視線を巡らせれば、目に映ったのは投げ出されたクリブス。そして何本もの巨大な針のような体毛で壁に縫い付けられた、アルマだった。
血を滴らせているアルマの足元に、偶然クリブスが転がっていったのか。自身の流血とアルマの血とが混ざり、クリブスの姿は酷いものだった。
幸いアルマは胸が上下していることから生きている事は解るが、しかし予断は許されないだろう。
ここで周囲の確認を怠ったことを、ナナシは今更ながら後悔する。
邪神の末裔たる天魔族のアルマは、その特殊な生まれと身体特徴から、爆発的な魔力を身に宿していた。
アルマはナナシ達パーティーメンバーの中では、最強の実力者だった。
そのアルマが仕留められるとは。そんな手合いに策なしで突っ込んで行っても、己程度が敵うはずがないではないか。
何とか拘束から抜け出そうと魔力噴射を試すも、虚しく杭が上下するのみ。死に掛けの虫のようにもがくしかない。
力を込めれば込めるほど、胸に掛けられる圧力が増していく。また一本、肋骨が圧し折れる音がした。
バイザー下に警告が表示される。バッテリーの残量が見る間に減り、通常行動にまで影響を及ぼしかねない領域に達したとレッドアラート。
抵抗は全く意味を為してはいない。
『魔力喰い』か――――――!
ナナシの学園で得た知識が、『魔力食い』というスキルを導き出す。
魔力喰いは空気中に放出された魔力を吸収するスキルだが、強力なものとなると物理現象――――――魔術にまで変換させられた魔力をも体表で分解、還元し、吸収してしまうという。
魔術師にとっては天敵とさえ言われるスキルだ。
クリブスが見たところ一方的に嬲られていたのは、このスキルのためか。
アルマにも同じことが言えるだろう。
アルマが誇る高い戦闘能力の正体は、全身からの魔力噴射にある。
ナナシのフィスト・バンカーを、魔力が尽きる瞬間まで、ノーリスクにて全身で行えるということだ。
しかし、クリブスの魔術を分解吸収するほどの高レベル『魔力食い』ともなれば、とことん相性が悪かったはず。
アルマは高機動によって敵を翻弄し一撃を叩きこむ、一撃離脱の戦法を得意としていた。
ナナシや鈍色のように根っからの前衛ではないアルマは、元来打たれ弱いのだ。その結果が磔にされた、あの姿というわけか。
そしてナナシの纏う鎧の動力源は、無色の魔力である。
それは、加護をろ過した魔力。即ち、汎用性が高められた代償に、あらゆるスキル、加護の影響を劇的に反映してしまうということだ。
急激な残存魔力値の減少は、この魔力喰いの影響が原因であった。
「ぐううぇぇぇッ……」
肺から空気が絞り出され、意図せず呻き声が漏れ出ていく。
しゅう、と顔面に腐臭のするキマイラの吐息を感じる。しかしキマイラは、ナナシを見てはいなかった。
こうしてナナシを一思いに殺さずいたぶっているのは、見せ付けるためだろう。
つまり、キマイラは“人質”を捕ったのだ。
手出しをさせないための人質ではない。これは、捕らえた者を痛めつけることで救出者を誘う、言わば“友釣り”だ。
キマイラは解っているのだ。
こうすれば、人間達は自ら自分の胃袋の中に飛び込んでくるということを。
恐ろしく、そしておぞましい、邪悪に歪んだ計算高い知能であった。
キマイラは、醜い欲望が込められた視線で、鈍色を舐めるように見回した。
「う、うううッ!」
鈍色が嫌悪の唸り声を上げる。
深く体を沈み込ませ臨戦態勢を執るも、恐怖に歪んだ顔は隠せない。
膝ががくがくと揺れていた。今にも逃げ出してしまいたいのだろう。
唇を噛みしめ、恐怖に耐えている。
ぷつりと噛み切られた唇から、一筋の血が流れた。
わんっ、と一声鳴いたのは、恐怖を吐き出すためなのか。
「駄目だ! 逃げろッ、鈍色ォーッ!」
激痛を堪え、ナナシは叫んだ。
あれだけ怯えていたのだから、鈍色は素直に引くものだと思っていた。
だが鈍色には「にげる」などという選択肢は存在しなかった。
ナナシが、仲間達が、そこにいるのだから。
自身よりも大事な者を残し、何故去れると言うのか。
鈍色の胸に覚悟の炎が宿った。
「ぅぅうおおーーーーんッ!!」
――――――咆哮。
鈍色の下腹に力が籠り、丹田より全身に『氣』が駆け巡る。
氣とは膂力強化系のスキルだ。単純なスキルであるが、効果は絶大。鈍色の強靭な膂力は更に強化され、今や岩山すらも軽々と持ち上げられるだろう。
いける、と鈍色は内心にて頷く。
いける。
自分には出来る。
あいつを倒せる。
大切な人を守れる。
あの人を助けるんだ――――――!
自身に言い聞かせるよう、胸の内で鈍色は唱える。
「ぐるるぅ……がああああッ!」
跳躍。『氣』によって生み出された膂力が『勁』へと転じ、振りかぶる爪に爆発的な力が込められる。
勁とは呼吸や重身移動、身体運用など、ある動作に必要な要素全てを絶妙なバランスで融合させ、爆発的な攻撃力を得るスキルだ。
このスキルは技術に依存するものであり、『氣』と違い魔術的な要素を一切含んではいない。『勁』のように本当の意味でのスキル、積み重ねによって身に着いた技術も、広義にスキルとして分類されている。体術軽視の風潮が、武術という体系を生み出すまでには至らなかったのである。
鈍色はナナシの戦う姿を、誰よりも一番近くで見ていた。見続けていた。
この世でナナシのみを使い手とするスキル――――――武術がある。
その名を、『無名戦術』という。この世界に産まれた、極めて原始的な、しかし理を持った武技である。
長い時間ナナシと共に在った鈍色が、その一端を見よう見真似で会得したとしても、何らおかしくはない。
鈍色に限ってはナナシの一挙手一投足を、見逃すはずがないのだから。
そうしてナナシから写し取った拳を振るう動作を自身に合わせ最適化させ、自身の魔力を用いた『魔力発剄』を会得したのである。
ナナシの拳の鏡写しであるその構えは、しかし威力だけを見れば、ナナシの一撃を優に超えることは間違いがない。
生身が放つ魔力の波動は、鎧のそれを悠に超えることは説明するまでもない。鈍色の才は、オリジナルであるナナシを超えていたのである。
ナナシは未だその領域にまで至ってはいない事を鑑みれば、恐るべき才能であった。
「ぐぅおおおおッ!」
揃えられた指先が空気の壁をぶち破り、破裂音を轟かせる。
鈍色とキマイラの視線が衝突した。
先ほどまでとは打って変わり、興味深そうに鈍色を観察する何十もの目。
ぞくり、と鈍色の背筋が粟立った。言いようのない嫌悪感が体中を這いずり回る。
どうやらキマイラの眼鏡に適ってしまったようだ、と理解したのは、その視線に食欲ではない別の色が見えたから。
キマイラの目は、獣欲に濡れていた。
一瞬、悲惨な未来を想像し自失しかけた鈍色だったが、指先に感じる力強い空気の感触が、彼女を正気へと引き戻した。
……しかし、そう“思った”時すでに隙があったのかもしれない。
なぜならば、迷宮における戦闘というものはある種の読み合いであるからだ。
為すと決意したその時には、すでに終わっていなければならない。そういうことだ。
何をかを思ったその時には、理解したその時には、もうすでに遅過ぎるのだ。
「が……ううっ!?」
指先で切り裂いた空気の壁。
その何倍もの厚さを持った空気の“圧”が鈍色を打つ。
全身の筋肉が硬直し、込められた勁が霧散していった。
化け物が、臭気を含んだ咆哮を浴びせ掛けたのだ。
咆哮だ、と気付いた時には手遅れだった。そう、気付いた時にはもう、遅いのである。
失速。精彩を欠きバランスを崩した鈍色は、キマイラの懐へと、まるで待ちわびた恋人に抱きつくかのように飛び込んだ。
キマイラもそんな鈍色を、蠢く鬣で優しく受け止める。ひい、と鈍色の短い悲鳴が上がるのが聞こえた。醜悪な抱擁だった。
勢い以外は、先のナナシとの交錯と全く同じ。
違いはといえば、そこに愛があるか無いかだけだ。醜悪でいて、一方的過ぎる愛ではあったが。
鬣に絡め取られもがく鈍色へと、何匹かの蛇が牙を立てていく。
激しく暴れていた手足が糸を切ったかのように、だらりと脱力した。神経に作用する麻痺毒を注入されたのだ。
満足気なキマイラの唸りに、ナナシは怒りで目の前が真っ赤になった。
それら全ては、ナナシの頭上で行われていた。
「……左腕、開放」
腹の底から静かに発せられる、熱した鉛のような声。
『アラート。当武装はマスターの身体に多大な影響を―――』
「黙れ。言う通りにしろ」
『――――――左腕、封印解除』
鎧の合成音声が、凍結されていたシステムの解凍を宣告する。
封印が施されるということは、それだけの理由があるということ。左腕に内蔵されている武装は、ただ敵の粉砕のみを目的としていた。
装着者への影響を完全に無視して、である。
機関鎧の機構は装着者へと、その人体の限界を超えた稼動を提供することを可能にしている。撃ち出されたら最後、標的へと着弾した瞬間、装着者の左腕をも粉砕するだろう。
それでも構わないとナナシは思った。
砕けるならば砕けるがいい。
あの時から何も変わらない、こんな役立たずの『ナナシ』など、壊れ果ててしまえばいいのだ。
機関鎧よ、左腕だけといわずこの身全て持って行け。
その代り、仲間達を助けるだけの力を――――――。
『バックグラウンドにてシステムを解凍します……予備回路へと魔力開通、姿勢軸及び制御軸制御解放、関節部ロック』
左腕の拘束ボルトが音を立て、半ばから圧し折れていく。
広げられた装甲の隙間から現れたのは、一本の巨大な杭。
ナナシはそっと、胸を押さえつける前足に拳を添えた。
チャンバー内にて加圧させられた魔力が、巨大な一本杭を圧し出していく。
異常な魔力のうねりを感じたキマイラは、何事であるかとナナシへと視線を落とした。
『解凍完了。撃発準備終了――――――どうぞ』
「見下してんじゃねえぞ……喰らえよ、化け物!」
今更気付いたところで遅いのだ。起死回生の一撃に、ナナシは獰猛な笑みを浮かべる。
このまま自分の左腕は千切れ飛ぶだろうが、それは相手も同じこと。初めから覚悟していた分、自分にこそアドバンテージがあるのは道理。
数瞬後に襲い来るであろう激痛を覚悟しつつ、ナナシは仮想トリガーを引き絞る。
「メテお――――――!?」
しかしナナシの身を救ったのは、皮肉にもキマイラの一撃だった。
キマイラにしてみれば、いつまでも鬱陶しく悪あがきする獲物を踏み付けただけなのだろう。
だが、たったそれだけでナナシは行動不能に陥った。踏み付けられた箇所が頭部であり、狙いを付けるために首をもたげていたのが悪かった。
固い石畳と鉄兜の間で激しく頭部が打ちつけられ、脳が揺れる。
仮想トリガーから意識の指が離れる。エラー。不発。
「ちくしょ……ギャッ! あ、ガッ……ぐ……ウガアッ!」
何度も何度も踏み着けられる。その度に脳が、頭蓋のプールの中で暴れ回る。
喘ぐも、折られた肋骨では満足に酸素を取り込めない。
ガツンガツンと踏みにじられる度に、酸欠と衝撃で意識が濁っていく。
仲間達を助けねばと、自身を犠牲にしてまでもと、あれだけ固かった決意までも濁流に呑まれていくように消えていく。
浮遊感。地面に叩き付けられる衝撃。もう興味はないと、キマイラに投げ出されたようだ。
天も地も解らない程に揺さぶられ、感覚が消え去っていた。脳機能が低下し、景色がマーブル色に歪んでいく。記憶までもが混濁の中、消えていった。
自分が誰なのか、ここがどこなのかすらも、もう解らない。
「くそおおお、おおぉぉ……ちくしょぉ、ぉぉぉぉ……」
意識が曖昧になろうとも、怨嗟は自然と溢れるのか。
閉じていく視界の中、胸の内に残ったのは無念のみ。
ただ悔しく、涙が滲む。
理不尽に、そしてあっけなくやられて死ぬのだろうという予感はあった。
だが実感など無かった。終わりが、こんな、後悔と屈辱の中に訪れるなどと。
さっくり死ねるのだろうと甘ったれた考えを抱いていたのだろうか。何だと思っていても自分は死なないなどと自惚れていたのか。
それとも、自分がどうあっても異邦人でしかないからか。
もう何度目かも解らない無力感を噛みしめながら、ナナシは意識を手放した。
メリークリスマス!
皆様いかようにお過ごしでしょうか?
私は自分へのプレゼントに、新しくゲームソフトなんかを買ってしまいました。
いやー楽しいなあ!
一人プレイでやるマリオパーティーは楽しいなあ!
たの、しい、なあ・・・・・・