冒険者達の日常3 ―鈍色の絵日記―
機能テストも兼ねて、挿絵回です。
ipad購入してうかれた勢いで描きました。痛いですね。とても痛々しいですね。
ですが私は後悔しない。やりたい時がやり時なのだから!
絵とかいらねーよというまともな方は挿絵機能offにてお願いします。
課題として活動日誌を渡されたのだが、さて何を書いたらよいのだろうか。
こんな時は自分の美的感覚の欠如を恨む。文才から始まる芸術の才は私には無いようだ。
十数年を迷宮の中で育ったのだから、それも当然なのだろうが。
活動日誌とは言うが、言ってしまえば日記である。この場合特にその色合いが強い。
冒険者としての試作や記録については、クリブスとナナシがまとめて提出している。リーダーと副リーダーの業務の一貫である。昨日も確か、夜中まで二人して机に向かって額を突き合わせていた。その二人だけの時間、光景を、少しうらやましく思ったのは、私だけではないだろう。
さて、その他のメンバーへと「何時かはあなたたちもリーダーになるのですからーその練習ということでー」と、ぽややんとした女教師に渡されたのがこの日誌。
言及されたのは、冒険者としての活動ではなく、学生としての日々を綴れ、ということ。この時期でのこの課題である。課題の意図は、素行調査か、進路先への紹介状を書くときの人物評の基とするためだろう。
日常を、私個人の主観で綴れということだ。
話は冒頭に戻る。
何を書いたらよいのか、さっぱり思い浮かばない。
どうしたらよいのかと、鳥頭と二人で仲良くソファで眠りこけているナナシを起こし、聞いてみると。
「なんだよ、子供の日記は絵日記って相場が決まってるだろ。いいから起こすなよ、頼むから、寝かせて、お願い。次話しかけたら殴る」
と、目の下に浅黒い隈を作りつつ、不機嫌そうにして寝返りをうたれた。鬼気迫る本気の殺気だった。
クリブスはというと「うう……どこだここは……僕は、私は……オープンキャンパス……ジョシコーセー……馬鹿だな君は……」と、不気味な寝言を呻いていて使い物になりそうにない。駄目な鳥頭である。
しかし、言うに事欠いて子供とはなんだ。私の年齢を知っているだろうに。私自身それを自覚し、その様な振る舞いをしているのだから、自業自得と言えばそうなのだが。
へタレ従順系、ツンデレお嬢様系、姉御先輩系、男装悪友系と各種揃ったナナシ陣。
このメンバーの中で自分を立てるには、天然ロリ系で勝負するしかなかったのだ。
初めの頃は本当に天然だったが、そんなもの都会の生活に馴染めば直ぐに消えて飛んだ。
身体が成長するにつれ、じわじわと素を出していく計画。一粒で二度美味しい戦略を立てていたというのに。完全に裏目に出た。
もう少し気遣ってくれてもいいではないだろうか。こう見えて、私も一応は女子であるのだし。もう少し、こう、女性に相応しい扱いをして欲しくなる時もしばしば、いや、かなりある。
私の努力が功を奏して、手を繋ぐまでは割りとすんなりいけたが、そこから先に中々発展しないのも悩みだ。
肉体的魅力に乏しいという自覚もある。
夜中朝方、ナナシが“元気”になる時間を見計らい、ベッドに忍び込んではいるが、全く触れられもしない。身体の方は正直のようだったが、鋼の精神でそれを押し込めているのだ。
優しく抱きしめられることはあるが、あれは男女仲のそれとは違う。子供をあやすような手つきだ。
なんか違う。
おのれ、ちきしょん。
策士、策に溺れるとはこのことか。
この憂さはそこら辺を偶然を装ってうろついているお嬢様で適当に晴らすとして、仕方が無い。
乗り気はしないが、ここは一つ、この不機嫌そうに眠る男の案を採用するとしよう。
□ ■ □
新暦498年8ノ月1ノ蒼日
きょうは、ナナシがせいびしにおこられていました。
ちからいっぱい、スパナで頭をたたかれていて、かぶとがへこんでいました。
とりあたまが青くなっていておもしろかったです。
8ノ月2ノ黄日
きょうは、アルマがメイドのしゅぎょうをしていました。
かげにひなたに、いついかなるときも、あるじのよびかけにこたえるくんれん。と言っていました。
ばればれでした。
とりあたまがどんびきしていておもしろかったです。
8ノ月3ノ緋日
きょうは、おじょうさまが、あそびにきました。
ナナシとたのしそうにおしゃべりしていたので、適当にからかってやった。お嬢様は忍耐力がないのですぐ怒る。面白い。
とちゅうでおこってどらごんぶれすしたら、ナナシがふきとびました。なんでこのおじょうさまはここにきたのかなあ? とおもいました。わざとらしいといったらない。
本当になんであのお嬢様は逐一冒険者クラスにやって来るのか。お嬢様はお嬢様らしく、そこらの鼻に付く鬱陶しい貴族共と一緒に錬金術科に閉じこもっていればいいものを。
去れ、金髪縦ロール去れ。
金髪ドリル去れ。お前は何処に穴を開けるつもりなのか。
一人称わたくしの癖に語尾がですわじゃないとかお嬢様道を舐めているのか。半端者が。残念お嬢様が。残念お嬢様が去れ。
とりあたまがとりはだを立てていておもしろかったです。
8ノ月4ノ翠日
きょうは、あるばいとがおやすみの日でした。
よるのじかんがあいたので、ナナシとふたりでおでかけしました。
すごくすごく、たのしかったです。
よぞらのしたのさんぽは、とってもきれいで、きらきらしていて、からだとこころがふわってかるくなったようなきもちになりました。
またナナシといっしょに出かけたいです。
こんどはデートだって、そうおもってくれるとうれしいです。
とりあたまはふくつうでダウンしたそうです。たぶん、星になってみまもってくれているとおもいます。
□ ■ □
「おーい、鈍色! そろそろ出かけるぞー!」
「わん」
呼びかけに応え、鈍色は活動日誌をぱたりと閉じた。
「何か書いてたのか?」
「わふわふ」
「ふうん? まあ秘密にしたいならそれでいいけど。そろそろミーティング始まるから行こうぜ。またクリブスにどやされる」
「わんおー」
「そう言うなって。あいつ、根が真面目だから融通が効かないんだよ。卒業試験の迷宮探索、もうすぐだろ? ピリピリしてるのさ」
「わふーん……」
「学園の迷宮みたいな学生用の温いやつじゃなくって、外の本物の迷宮だからな。神経質にもなるわな」
「わんっわんわん!」
「言うね、お前も。まあ、死ぬときゃころっと死ぬんだ。わけわからん内にさ。どーんと構えておくのが正解だよなあ」
「わんっ!」
「そうかい。お前が守ってくれるのか。なら安心だ」
「わんわん、おー!」
「んじゃ行くか」
二人は連れ立って部屋を出る。
扉が閉められた部屋の中には、静寂が。
机の上にある一冊の日記が、今日のいつもと変わらぬ、冒険者達の日々が書き込まれるのを待っている。