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完全装鋼士 : レベル0  作者: ノシ棒
第2章 ―喪失編:仲間―
22/64

地下20階

章分け機能を使用してみました。

一言でも結構ですので、ご感想もいただけると嬉しいです。

終った。

全てが終わったのだ。

暗黒の時は去り、光射す時が来たのだ。

終らぬ夜は無く、覚めぬ悪夢などない。

明日への一歩を踏み出していくために――――――。

人々は希望を胸に、夜明けの時を待っていた。

夜よ早く終われ、と。闇よ明けよ、と。


「やっべ、後2分だよ。こうなりゃ鉛筆転がしで……ってほぼ筆記問題じゃねーか!」


「うっ……こんな時にまで、しつこい奴等だ……!」


「君、待ちたまえ。どこへ行く」


「が、あ……離れろ……! 死にたくなかったら早く俺から離れろ!」


「ほっとけよクリブス。それよりちょっとここの問題をだな」


「不正はしないぞ。六級の火炎魔術など喰らいたくない」


「いちもーん、にもーん……あはは、白いマスが埋まらないー、あははははー」


「誰もつっこまなかったけど俺達のクラスにメイドさんがいる件」


「人の仕事着を下種な眼で見ないでください」


「メイドさんに冷たい目で見下される、イイ……ハァハァ」


「なあ、聞いてくれよ。俺、この試験が終わったら結婚するんだ……」


「相手がいないくせに。何言ってるんだか」


「いや、部屋で俺の帰りを待ってるドールちゃんがな」


「妄想乙。あの等身大人形かよ。あれ夜中にちょっとずつ動いたり、知らない間に髪が伸びてたりして怖いんだよ」


「俺はコイツと一緒に国に帰って、両親に挨拶しに行かないと」


「でも、ボク男の子だよ? ねえ、本当にそれでも」


「もういいよお前らは黙ってろ、頼むから。回復軟膏やるから」


「燃えたよ……燃えた、燃えつきた……まっ白にな」


「おい、どうした? おい、なあ、冗談だろ? おい!」


「信じられないだろ? 死んでるんだぜ、それ……」


夜明け前が一番暗いのだ、ととある詩人は言ったらしい。

辛い事の後には良い事があるものだという意味らしいが、今の探索者科の生徒達ならば、そんなものは嘘だと叫ぶことだろう。

試験開始前の、「これが終わったら遊ぶぞー」というムードは一掃され、大半の生徒が頭を抱えていた。

過去の問題傾向とは明らかに逸脱した難易度。

どう考えても、“落とす”ことを目的とした試験に見えて仕方がない。

おっとりとした顔の女教師が「うふふ」といつになく上機嫌で笑みを零していることからも、もう間違いないだろう。

何が暗黒の時は去った、だ。これが終っても、更に暗い未来が待っているだけだ。

主に追試とか留年とか。


「学園生活終了のお知らせ」


達観した笑みを浮かべ、ナナシは悟った風に呟いた。

もちろん手元の試験用紙は、無回答欄の方が多い状態。驚きの白さである。

一縷の望みを掛け、周囲の私語に耳を傾けるも、誰も回答に繋がるヒントを口に出しはしなかった。

元フリーランスの冒険者も多いせいか、学園では試験中の私語をある程度は許容している。

直接回答に繋がる事を言えば、監察役の教師から魔術が飛んでくるため、そこは皆弁えているようだった。


「はーい、試験時間終了でーす。ペンを置いて下さいねー」


「あかん。もうあかん」


「諦めたらそこで試験終了ですよー? あ、でももう書いちゃダメですからねー。ダメですってばー。エクサフレアー」


「ぎょぎょっ!?」


「サカナくーん!?」


炎熱呪文と氷結呪文のコンボ。

教室内は熱膨張したり急速冷却されてヒビだらけになったり、良い臭いが漂ったりしている。

だが誰も動じた様子はない。

皆、これから自分達がどうなってしまうのか、途方に暮れているのである。


「うぼぁー……」


「わうぁー……」


苦痛の時間が終ると共に、ぐったりと机に身を投げ出したナナシと鈍色。

この世界における初等教育を受けてはいない二人にとって、筆記試験は鬼門だった。


「日頃から予習復習をしていないからそうなるんだ。まったく」


「いいんですー。こんなペーパーテスト頑張ったって、将来何の役に立たないんだから。勉強なんてしたって無駄だよ、無駄!」


「わんわん!」


「出来ない子の代表的なセリフだな」


「うぼぁー……」


「わうぁー……」


決して頭が悪いわけじゃないんだ、と弁解したい気持ちでいっぱいのナナシだったが、何も言い返せない。

どうせまた赤点だと思うと、追試レポートの提出期限が迷宮探索に重なるかもしれないため、クリブスが不機嫌になるのは当然だからである。

面目ない、とナナシは頭を下げた。


「ごめん、あれだけ付き合ってもらったのに、結局赤点取りそうだ」


「いいんだ、今回に限っては仕方ない。このテストの難易度は高すぎる。魔術的空白地帯において発動可能魔術を調べるための神意逆算を、15次元理論を用いて証明せよ……なんて、学生レベルを超えている」


「そんな問題解けるの?」


「解けない問題などない。いわゆる一神教が敷かれた状態が、魔術的空白地帯のことだ。この国で言えば、唯一神に成り得るのは国教の不死鳥だな。不死鳥が顕現した時、魔術を使えるのはそれを信仰する貴族だけになる。そうなれば」


「説明しなくていいから、うんざりだ。それより、これが“イベント”じゃないかって言いたいのか?」


「おそらくは。ほら、説明があるようだぞ」


クリブスの鍵爪に視線を向けると、担任のほんわかとした女教師が教壇に着いていた。

あの穏やかな笑顔の裏に隠されているものを想像すると、と身震いした者は少なくないだろう。

基本的に荒くれ者ばかりの、強さが全ての判断基準である冒険者の教師役をしているのだ。

本人も優秀な冒険者であり、その強さが尋常なものではないことは当然なのである。


「うーん、ざっと見てみたところー、ほぼ全員落第点ですねー」


「そんなの横暴だ! あんな問題、解ける奴なんていないじゃないか!」


「エクサフレアー」


「ぎゃあああ!」


「解けた人がいる時点でー、そんなのは言い訳にしかならないんですよー。あ、クリブス君とアルマちゃんは合格ねー。皆さん拍手ー」


「どうも」


「ありがとうございます。しかし主人を差し置いて前に出る訳にはなりませんので、私も不合格と同じ扱いで結構です」


「んー? えーっと、えくさふれ」


「ありがとうございます! 光栄です!」


ぱちぱち、とまだらな拍手。

「申し訳ありませんナナシ様、アルマは恐怖に屈しました」とアルマが崩れ落ちていたが、強者には逆らえないのが人の常である。責めることはない。


「さてー、そんなダメダメなあなた達のためにー、先生が救済処置を用意しちゃいましたー」


「だららららー」とドラムロールを口ずさむ女教師。

口で言ってるだけの可愛らしい効果音だが、非常に緊迫感を煽られる。命の危機を感じる的な意味で。

「だだんっ」とドラムロールが終わった。


「皆さんにはー、錬金術科の試験を手伝ってもらいまーす。これをパス出来たなら今回の試験、合格にしてあげますよー」


「……思ったより普通だな」


「ああ、これなら安心だ」


「錬金術科の試験内容はー、中級迷宮『温故知新』で採集した品を使ってのー、錬金ですのでー、皆さんは錬金術科の子達と一緒に探索をしてもらいますー。つまり護衛ですねー。

 あ、錬金術科の子達を一人でも死なせたらー、あなた達全員死ぬよりも辛い地獄を見せてあげますのでー、頑張ってくださいねー。もちろん拒否権はありませんよー」


「普通じゃねえ……」


「足手まとい守りながら、しかも連帯責任とか……」


「ていうか最初から試験合同にするつもりだったってことか。あのテスト何だったんだ……」


「俺達の勉強時間が……睡眠時間を返せー!」


「うふふー、先生こう見えてもちゃあんと先生してるんですよー。今回は皆さんにお勉強をしてもらおうと思って、どっきり作戦を立てたんですー」


「何という女王さまぶり。先生! どうかこの卑しい豚めに蔑みの目を!」


「エクサフレアー」


「ぎゃあああ! ありがとうございます!」


後はその他の詳細説明だったが、幸い探索期間は1日のみだけとのことだったので、卒業探索の予定には支障無さそうだとナナシ達は胸を撫で下ろした。

錬金術科との合同試験がうまくいけば、の話ではあるが。

バランスが取れているように見えて、クリブス班は欠員が出ればそれだけで瓦解してしまう危うさもある。

役割分担がされているということは、誰かが欠けた穴を埋めることは出来ないということだ。

一人でも進級が認められなければ、探索予定は立ち枯れにするしかない。

不承不承、他の生徒達も合同試験について同意していた。

文句が出なかったのは、騙されて勉強をさせられていたことには業腹だが、これが教師の親心であることも理解していたからである。

この試験が終われば僅かな間を置いてすぐに卒業探索、その後には資格認定試験が待っているのだ。

資格取得に向けての勉強時間など、そうそう取れるものではない。


「あ、クリブス君達は合格しちゃいましたので、ご褒美で試験は免除ですよー。今回はお留守番してて下さいねー。ナナシ君に手を貸しちゃだめですよー」


「それは! あんまりではないですか!」


「僕もそう思います。戦力が減った状態のまま迷宮に挑めなど、パーティーリーダーとして認められません」


「お前ら……!」


憤りを隠せないと立ち上がったクリブスとアルマに、ナナシは思わず涙腺が緩む。

かなり下のランクの中級迷宮ではあるものの、自分と鈍色だけならともかく、錬金術科の生徒を含めての探索は危険である。それも、護衛任務となれば、より難易度は跳ね上がるだろう。

不確定要素が大きすぎることは、クリブス達だけではなく他の生徒達をも躊躇させるものである。

クリブスとアルマの言を聞いた女教師は、なるほどもっともだと頷き、にこりと笑みを浮かべた。


「えくさふれ」


「承知致しました! 不肖このアルマ=F=ハール、主人が帰るまで留守を守り通す所存であります!」


「頑張ってくれたまえよナナシ! 僕達は次の探索の準備をしておくから、安心して行ってこい! 旅行の予約だって取っちゃうぞ!」


「お前ら……!」


冷や汗を流しながら着席したクリブスとアルマに、ナナシは思わず涙腺が緩む。

ちゃうぞ、とか普段お前言わないだろ、とは言葉に出せないナナシだった。

ここは探索者科。実力主義の、縦割り社会なのである。


「冗談は置いておいてだ、『温故知新』なら大丈夫だと思うが、怪我には気をつけろ。大怪我をすれば、その後に響くからな」


「ああ、解ってる。これで丸一日潰れても、出発までにもう一月は残ってるんだから、大丈夫さ。ありがとよ」


「ナワジ女史には僕から頼んでおいてやろう」


「助かるよ。殴られすぎて頭が痛いからさ」


『温故知新』は階層が浅く魔物の発生率も低いため、ナナシと鈍色の二人しかいなくとも負担はそう掛からずに探索は終るだろう。

問題は錬金術科の誰と組むことになるのか、であるが、それについては心配しなくともいい。

錬金術科との合同試験、という話が出た瞬間から、ナナシ達にはある生徒の顔が浮かんでいた。

そのため、クリブスとアルマは心配しつつもあっさりと引きさがったのである。

あの女教師が留守番と言うからには、試験を免除する変わりに何か仕事をさせる、という意味で間違いがないのだろうし。


「ナナシ様、どうかご無事で。ナナシ様が帰ってくるまでに完璧な卵焼きが焼けるよう、練習しておきます……!」


「そんな決意を込められても。まあ、調合と料理が違うもんだって解ってくれたみたいでよかったよ。楽しみにしてる」


「はいっ、頑張ります!」


調合とは、主に錬金術師が使用する道具作成のスキルだ。

魔力で持って物質の結合を解き、他物質と結合させることで新たな道具を創り出すスキルなのだが、アルマは料理と称し、このスキルを使用していたのである。流石にそれにはナナシも慌てた。

どうも本人自身解っていなかったようで、料理という概念が、スキルを使用しているとしか思えなかったようだ。

アルマが朝食だと言ってはばからなかった炭も、玉子を使って何がしかと調合したなれの果てらしい。

そこそこ料理の腕もあったナナシだが、ただ卵を焼いただけの卵焼きを適当に作っていた最中、やたら感心して「すごい」を連発するアルマに頬を引きつらせることになったのである。

このままだと冗談抜きで食材を毒に変えられてしまいかねない。そして最初の犠牲者となるのは己である。

危機感を抱いたナナシは、勉強の合間に必死でアルマに料理を教えることとなった。

多少のコゲは目立つものの、アルマは何とか卵焼きを焼けるようになったため、一応の成果は出ているようだ。

サラダ油と機械油の違いを理解できたのは大きな進歩である。


「わんっ、わんわんわん!」


「鈍色……そうですね、あなたがいるのだから、きっと大丈夫。いらぬ心配でした」


「むふー。わふん」


「ナナシ様を頼みましたよ、鈍色。武運を祈ります」


「わん!」


任せておけ、とでも言いた気にふんすかと胸を張る鈍色。

アルマと鈍色の間には、何やらナナシの理解出来ないシンパシーがあるようで、こうして視線で語りあうような場面が多々見られた。

それはセリアージュも同じで、アルマが女性であったと知った今なら言えることだが、おそらく女同士で何か感じいる所でもあるのだろう。


「錬金術科との合同試験か。本当に大丈夫なのか?」


何が、とは具体的に言わないクリブスだったが、何を言いたいのかナナシには正確に伝わっていた。


「聞くなよ、解ってるんだろ」


「爆発オチか」


「言うなよ、解ってるなら」


額を覆うしかないナナシだった。


「錬金術科の生徒は探索経験はほとんど無いはずだ。取り乱してドラゴンブレスを乱射されて生き埋めに、なんてことになったらどうする」


「怖くなっちゃうからやめてくれない? それぐらいの自制は出来る、とは思いたいけど。鈍色がいるからな……」


「しかも三人での探索だからな。仲介役もいないぞ」


「まあ、なるようにしかならないだろ」


「楽観的な奴だな」


探索よりも鈍色との間を取り持つ方に気力を削がれそうだな、などと思っていると、クリブスが小声で問いかけて来る。


「それで、いつ声をかけるんだ? あれ」


「どうしような、あれ」


非常に扱いに困る。

クリブスが小さく指さした所からは、物陰からぴょこりとはみ出した龍尾が。

その向こうには、誰かが蹲っているような影が見える。

座り込んだ股の下から、尻尾が飛び出しているのだろうか。


「前振りが必要か?」


「……お願いします」


「あー、錬金術科の誰と組むかは自由意思に任せるとか何とか聞いたんだが。あてはあるのかー?」


ビクーンと反応する尻尾。

解りやす過ぎた。


「あー、実はまだないんだー。困ったなー。これじゃあ落第だよー」


「あー、大変だー。だれか助けてくれないかなー」


そわそわと動いていた尻尾が引っ込んだかと思えば、教室の扉がスパーンと勢いよく開かれた。

ひびが入っていた窓が、衝撃で砕け散る。


「ふっふっふ……ナナシ! 話は聞いたわよ!」


「聞いていたことを白状してしまうのか」


「シッ!」


凛とした声の主が登場。

洗練されたウォーキングに追随する、ウェーブが掛かった金髪が、空を泳ぐ。

胸に縫い付けられた金の蛇を象った章、錬金術科の証であるそれよりも、なお輝く頭髪。

まるで、黄金の化身が現れたかのような錯覚を探索者科の生徒達は覚えた。


「このセリアージュ・G・メディシスの力が必要なようね!」


登場したのは、お嬢様。

セリアージュだった。

ヒールを鳴らしながら教室を横断、ビシッとナナシの鼻頭に細指を付き付ける。

本人は良いタイミングで登場したと思っているのだろうが、体育座りをしながら“出待ち”をしていたのが、擦りガラスに映る影でばればれだった。

とても満足そうに不敵に笑うセリアージュから、ナナシとクリブスはそっと視線を逸らした。

ツッコミなど可哀そうで入れられない。

この子はちょっぴり残念なお嬢様であるだけで、悪い子ではないのだ。映っていた影がときおり揺れていたのは、今か今かとタイミングを計っていたからなのだろう。

セリアージュは指を付き付けたまま、ナナシのリアクションを待っている。

横で鈍色が肩を竦めながら、「わふん」と鼻で笑っていた。これも情緒面が大きく成長した表れなのだろうか。見たくはなかったが。

とりあえずナナシは、大げさに驚いておく事にした。

章始まりのあたりは短めに・・・

文章の量が安定してない、うごごごご

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