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完全装鋼士 : レベル0  作者: ノシ棒
第1章 ―学園編:ナナシ―
16/64

地下15階 プロローグ1:恋想―セリアージュ―


『セリアージュ・G・メディシス』がその男に感じた第一印象は、最悪の一言であった。

容姿は凡庸。中肉中背で、これといった特徴もなし。強いて特徴を挙げるならば、純人種としては珍しい黒髪黒目であることくらいだ。

周りから投げ掛けられている視線は、物珍しさだけではない。呆れの色を含んだ、「こいつ馬鹿だなあ」といった類のもの。

かく言う自分もその一人だった。


――――――だって、仕方がないじゃない。


口車に乗せられて、自分の血や髪や肉を、二束三文で売り飛ばそうとしていたのだから。

扇情的な服を着た女魔術師に腕を絡めとられ、何とも言えないにやけた顔。あの女は通りで良く見掛けるキャッチーというやつだ。それも、かなりの悪質な業者の。

どう考えても、自分にどれだけの価値があるのか解っていない。

いや、価値を見出してなどいないのではないだろうか。

自分を安売りするなとはよく言われる言葉だが、あれは行き過ぎだ。こんなものに値段がついて嬉しいなあ、と書いてあるような間抜け顔を晒している。

だから、思わず手に持っていた武扇で引っ叩いてしまったのも、仕方がない事なのだ。


気付いた時には、腕を取って歩いていた。

冷静に考えれば、自分から男性の身体に触れるなんて、なんてはしたない真似をしてしまったのだろう。

これまで良家の子女として、貞操観も叩き込まれて来た。今にして思えば、考えられない事だった。

でも、羞恥よりも怒りの方が勝っていた頭では、そんなことを考えられることもなく。


「わたくしが世間の常識ってものを教えてあげるわよ!」


と、大見えを切ったような気もする。

なぜだろうか。

この時の自分は、この手で導いてやらなければ、と自分でもよく解らない使命感を抱いていたのだ。

これが母から聞いていた恋というものなのか、と自問するも、ありえないと頭を振る。

だって、こうして引き摺られながらあうあうと情けない声を上げている男は、自分の理想像とは真逆に位置するような男だったから。

これでも豪商の娘である。

財力でもって貴族の末端に数えられるようになった一族の、その一人娘なのだ。

しかも自分は竜人(ドラゴニュート)だ。もはや伝説にしか登場しない龍種の血を引いているとい事実は、貴族であるということよりも、ずっと重い意味を持つ。

配偶者は、慎重に選ばなければ。それは、己の一存で決めてしまっていい問題ではないのだ。

貴族に生まれた娘の中には、自由恋愛がほぼ認められていないことに嘆く者もいるが、自分はそうではない。

生まれ持った立場と、力を、正しく理解していた。

こんな、物の価値がまるで解らないような迂闊な男など、歯牙にかけるはずもなかった。

なかった、はずだというのに。


母が言っていた。

「恋に落ちる」と書くのだ、と。

恋とは落ちるもの。まるで落とし穴のようなもので、いつ落ちるか解らない。落ちたが最後、そこから這い上がるのには、並み大抵のことではない。

だから気を付けなさい。貴女は誰よりも龍の血を濃く受け継いでいて、誇り高いのですから、きっと、落ちてしまっても、そうとは解らないでしょう。いいえ、認めないかも。

そうにこやかに言う母へと、そんな馬鹿な事はありえないわと鼻で笑ったものだ。


――――――はたしてわたくしは、落とし穴に落ちてしまったのだろうか?


横目に見れば、うなだれて涙目になっている彼の姿が。

屋敷に引っ張りこんで小一時間ほど説教をしてやったのが、大分堪えたのだろう。

ありえない。ありえないことだ。

この程度で根を上げる程度の男に、懸想することなど。

そもそも、見た目も中身も凡庸なのだ。能力的にも、容姿的にも、もちろん中身を見ても、これ以上の手合いは掃いて捨てるほど居る。

まあ、大人しく話を聞いていた素直さと、商店街のおばさま達と話していた時に見せていた素朴さは、評価してやってもいい。

ぴしゃりと武扇を閉じれば、びくりと身体を震わせて、こちらを見上げる男。

肝も小さいようだ。

自分で言うのもなんだが、いくら竜人といえども、こんな小娘にいいように言われ続けるなんて。

聞けば、彼は自分よりも五つも年上だった。とっくに成人を迎えている歳であるというのに、子供でも知っているような事も知らないのか。

まったく、しようがない男だ。

しかし自分も感情的になって、少々言いすぎたかもしれない。

彼にだって予定はあっただろうに、強引に引きずってきてしまったのには、反省している。

だが、謝らない。

この男の迂闊さが悪いのだ。

今だって、言ったことの半分も理解できていないような顔をしている。

本当に馬鹿だな、と思う。

人として生きるには、その権利を金を払って得なければならないような世界だ。この世界というのは、そんな厳しい世界なのだ。

弱者は強者に食い物にされるのが運命。

獣頭症患者(ベタリアン)とも分け隔てなく接せられる心根は美徳だが、お人好しも過ぎれば毒だ。

ここはあんな風にへらへらと笑って生きていけるような世界では、ないのだ。


――――――もう帰らないと、ですって?


よろしい。

なら明日も来なさい。明後日も来なさい。

理解できるまで、教育して差し上げましょう。

拒否権無し。反論は受け付けない。

まあ、でも明日ちゃんと約束を守って来たのなら。

お詫びにお茶くらいは淹れてあげましょうか。


それが、ナナシ・ナナシノとの出会い。

第一印象は、最悪だったのだ。

だって、何も見得なかった(・・・・・・・・)のだから。



□ ■ □



決闘の最中、お互いが力を尽くした結果として心を通わせ友誼を結ぶことになる、というのはよく目にする話しだ。

しかし、自分に限ってはそれは当てはまらないらしい。

然もあらん、と思う。決闘という形をとったコミュニケーションの結果として、友情が芽生えるのだ。

意思であれ、暴力であれ、双方向からの干渉がなければ、何らかの変化が生じないのは当然のこと。

であるならば、こうして一方的に打ちのめされている状態で、何かが生まれて得られると考える方がおかしいだろう。

そうでなくとも、眼前の相手と友誼を結ぶなど、絶対に御免被りたい。


そんな取り止めのないことを、鼻奥と喉に鉄の臭いを感じながら、ナナシは思った。

地に投げ出された手足は鉛のように重く、真正面から受けた二級火炎魔法は、耐魔繊維を織り込んでいるはずの制服を真っ黒に焦がしている。その下の皮膚がどうなっているかまでは、恐ろしくて確認できなかった。感覚がないのだから、どうせろくでもない状態なのだろう。

明らかに戦闘不能となっているのに、相手方はまだ「まだまだ勝負はこれからだ! 完璧なる敗北を君にプレゼントしよう!」などと、のたまっている。

落とし所がわからないのだろう。下手に戦闘力が高い分、経験の浅さが逆に脅威だった。このままでは、トドメを刺されかねない。

「これだから貴族は苦手なんだ」とぼやこうにも、出てきたのは血の塊。

冒険者が貴族を嫌う理由の一つとして、レベル問題も存在していた。

様々な“尺度”として在るレベルだが、冒険者はそれを戦闘力として捉えている。魔物との戦いにおいてレベルが上昇するのだから、それは間違いではない。

しかし貴族は、レベルを貴族としての格式の高さとして捉えていた。


レベルとは神から授けられている祝福の度合いである。

レベルを上げる方法とは、魔物と戦うこと唯一つではないのである。自らの加護神の定める戒律を敬遠に守れば、その分レベルは上がっていくのだ。

それだけでなく、国に尽くす貴族達は、国自体がシンボルとして掲げる創設神の祝福をも受けている。

冒険者は戦神の祝福を、須らく受けることになる。すなわち、戦えば戦う程レベルが上がっていく。だがナナシは、戦えども戦えども、レベルは0のまま。加護の恩恵を受けることはない。

仰いだ神々から授けられた祝福の度合い。その合計値が、レベルとして表されるということだ。


貴族達は、あんな蛮行を犯している者達と自分達のレベルが近しいことが気に食わない、と言い、冒険者は、机の上で銭勘定してるだけのくせに何で命を掛けている自分達とレベルが同じくらいなんだよ、と言う。

そしてまた諍いが起き、両者間の関係は険悪の一途を辿るわけだ。

何をやっているのだか、と呆れ返りながらナナシは立ち上がった。

足元がふらつく。


「ほう。絶対的な力量差があると知りつつも、よく立ち上がった。その闘志に敬意を評し、私も全力で相手することを誓おう!」


「そりゃあ、どうも……」


乱れる呼気を丹田に意識を集中させ、調息。拳を構える。

左腕は前に、右腕は後ろへ。弓を引き絞るような姿。

両の手のひらを浅く開いた拳掌は、打突にも掌底にも、受け流しにも対応出来る。

足は肩幅以上に開いて根を張り、深く沈みこませた、静の構え。


どの流派にも見られないその構えは、かつてジョゼットが往年に自らの全てを注ぎ込んでくみ上げた、名も無い戦闘術――――――『無名戦術』である。

しかし、対魔物戦を想定して考案された無名戦術は、対人戦には“からっきし”だった。

拳を放てば、眼前の貴族が振るう護身術によって転ばされ、間を空ければ魔術に打ち据えられる。

格闘技に始まり人が身に付けてきた戦闘術とは、人の歴史の中で練磨されてきたものだ。いうなれば、それの根本は、対人戦にあると言える。

比べて無名戦術は、ジョゼットが古今東西の武技武術の中から、実際に魔物に有効であると見たものを抜粋し、合成したもの。足運びは滅茶苦茶だし、隙も大き過ぎる。正直なところ、武術としての体を成さないような代物だった。

化物と戦うのにお綺麗な武術など必要ない、というのがジョゼットの言だった。無名戦術はその言葉を体現したような、大味な格闘技であった。

魔物に対して……否、神に対して、人の中で生まれた技など通用するものか。

獣を打ち殺すには、自らも獣にならなければ。

あらゆる武術を取捨選択し組み上げた結果、無名戦術とは、魔物の動きを阻害し体構造を破壊する武技となったのだ。

しかし、それを繰る者は、あくまで人間である。

武道の見地からしてみれば、児戯にも等しいだろう。特に護身術などという、対人戦に特化した格闘技とは、とことん相性が悪かった。

それは、今の自分の状態を見れば明らかだ。

元々が穴だらけの戦闘術であるために、まだ発展と改良の余地は十分残されてはいる。

その拳は常に最適化され続けていく、最新の拳。その蹴りは常に改良され続けていく、最新の蹴り。

未完の武術は、その未完という特性故、常に“アップデートされ続けている”。

しかし、ナナシには学んだものを工夫し作り変えていく才はあまり無かった。

対人戦に特化した技を使う相手に対応出来てはいない。これが鈍色であったなら、こうはならなかっただろう。むしろ、立場は逆になっているはずだ。

更に悪いことに、ナナシは無手であった。

彼の代名詞であるはずの、無名戦術を繰る上での大前提としてある装備。

機関鎧を脱いだ、裸同然の姿であった。


レベル差を覆すための機関鎧だ。だが、人間という、魔物と比べて高レベルであることが当たり前の相手ともなれば、それも難しい。

先日の肥えた貴族連中のような、動かない的とは訳が違う。相手は、貴族であっても鍛錬を忘れず、魔法の腕も一流。機関鎧の力に頼った戦術しか使えないナナシでは、手も足も出なかった。

完全装鋼士と名乗れども、常に完全装備でいられる訳ではない。

平時はツェリスカ本体は、ドックにて整備調整をされている。自衛手段と低ランククエストのために、手足甲部は装着を続けていたものの、その他は生身である。

先ほどから、生身部分ばかりを狙われていた。

見た目は金髪碧眼の精霊族の美丈夫であるというのに、中々にえげつない攻撃を繰り出してくる。

華美な容姿とは裏腹に、腹に一物を抱え込んでいるようだった。


ナナシにはこの男に見覚えがあった。

確か、セリアージュの婚約者であったはず。

まだ学園に入学する以前、セリアージュの屋敷に出入りしていた頃、何度かすれ違った記憶がある。

異様に敵意の篭った目で睨み付けられたため、何か無礼を働いて、機嫌でも損ねてしまったのかと震え上がったものだ。嫉妬の視線であったことになぜあの時、気付かなかったのか。

後にセリアージュに聞いたところ、何度もしつこく訪ねてくるため、来るたびに門前払いにしていたとのこと。

頭を抱えるしかなかった。それは機嫌も悪くはなるだろう。恨まれもするだろう。

婚約者である自分を差し置いて、どこの馬の骨とも知れない男が、連日フィアンセと茶を飲み交わしているのだから。

そうしてナナシと鈍色と共に、学園に入学してしまったセリアージュ。探索科ではないため冒険者となることはないが、それでも家人から、特に父親からは猛反対をされたらしい。

セリアージュの父親は、慌てて彼を追って入学させたのだという。だというのに、セリアージュは変わらず彼を避け続けている。

そんな彼の不満たるや、相当のものだろう。

今回の一件は、どうやら彼の鬱憤を晴らすいい機会となったようだ。


何のことは無い。八つ当たりだ。

それ以上彼について詳しく語れるほど、ナナシは彼に関心は無かった。

どう転んだところで、彼とは今後二度と接触を持たないだろうから。

問題は、この決闘遊びが引き下がれないものであるということだけだ。


「覚悟したまえ!」


「ええい、くそ……ッ!」


名目上は、先日不当に貴族に対する狼藉を働いた事への仕置き。あの肥満体の貴族達は、どうやらそれなりの格式を持った家の出であったらしい。

その実態は、悪い虫(・・・)の排除だろう。

気付いた時には衆目の最中で、手袋を叩き付けられていた。決闘の申し込みは、どうやらこちらの世界でも同じであるようだった。

違いがあるとすれば、相手が冒険者であった場合、決闘は禁止されていないということだけだ。

冒険者の命は軽い。例え学生であっても、どんな理由であれ命を落とせば、それは事故として処理される。

あれよ、という間に決闘のセッティングが成され、広場には大勢の見物人が。

狼藉者に罰を与える、とのことなので、義はあちらにあると見なされている。それは別にいい。悪者にされるのは構わない。

しかし、この戦いに敗北してしまえば、セリアージュとの縁を切られてしまう可能性があった。それは絶対に避けたいことだった。

ナナシはセリアージュから多大な援助を受けていた。

機関鎧は、元々が身体に欠損を抱えた者、あるいは老年の冒険者や、戦う力の無い都市部の民営自警団に向けて開発されたものだ。扱うには、相応の金が掛かる。莫大の、とまではいかないが、それでも駆け出しの冒険者では賄えないほどには維持費が掛かる代物である。

自分と鈍色の学園入学費を、ジョゼットの遺産で支払ってしまったナナシだ。セリアージュの力なくしては、冒険者を続けることは不可能だった。

メディシス家、特に彼女の父親はナナシを快く思っていないのは確か。しかし、セリアージュは個人的にナナシへと援助をしていた。あくまでも個人の範疇なので、現当主であっても彼女の父親は、それを止めさせることは出来ない。

そこで登場したのが婚約者の彼だ。

彼は決闘を始める際、この決闘で得る勝利をセリアージュに捧げ、結婚を申し込む、と宣言したのだ。

やられた、とナナシは苦い顔。セリアージュの父親から指令が下ったのだろう。

セリアージュがさっさと結婚して家に戻れば、それで万事が解決するからだ。彼女のわがままで学園に在籍しているが、メディシスの家繁栄を思えば、早期に家に戻るべきなのだ。

しかも決闘の名分はあちらにある、とされている。

断ることは出来なかった。

首を振れば、今度はクリブスに矛が向かうだろう。

ナナシが決闘を申し込まれた時のクリブスの顔は、過去最大に焦った表情をしていた。クリブスとて、それを解っていたのだ。槍玉に上げられたのは自分であり、そして狙いがナナシであることを。

瞬く間に取り巻きに囲まれてしまい、誤魔化せないと悟ったのだろう。何もできず、ただぐっと拳を握るだけだった。きっと、自分は庇われたのに何もしてやれない、などと悔やんでいるのだろう。

貴族出身のクリブスは、家訓によって冒険者登録をしている。冒険者と貴族のパラーバランスに介入することは、許されないのだ。

ナナシは「気にするな」と笑ってクリブスの肩を叩いた。


――――――気にするなよ、俺の自業自得なんだから。


だから、周りを囲む見物人の中で、血が滴るほどに拳を握り締め罪悪感に震える必要など、クリブスにはないのだ。

こうしてじわじわと追い詰められているのも、全てナナシの弱さのせいなのだから。


「う、わあああああ!」


悲鳴を上げながら炎熱系魔術、炎の雨の中を掻い潜る。

手足のみの機関鎧。末端の人口筋肉に頼った軌道は、身体に過剰な負担を掛けていく。ツェリスカのサポートが無ければ、戦うことも満足に出来ない。ナナシはツェリスカと一つとなり、初めて冒険者として完成するのだから。

一本一本は下級魔術である炎の矢といえど、雨あられと注がれれば、避け切ることなど不可能だ。

上方向からの面制圧魔術によって、広場の石畳は穴だらけにされていく。

火の雨に打たれ、ナナシの身体にダメージが蓄積されていく。


「ぐ、あっづ……ッ!」


「よく避けたな! 素晴らしい、それでこそ誇り高き冒険者だ!」


本当に外面だけは良い奴だ。吐き捨てたい気分になるも、寸での所で言葉を飲み込む。

ナナシは目の前の人物が、冒険者偏見主義であることを知っていた。顔に見覚えがあったのも、メディシス家の屋敷ですれ違ったからだけではない。学内の冒険者ギルドが貴族院とぶつかった時、何度も見かけていた記憶があった。

だがこの場でそれを言うわけにはいかなかった。

セリアージュの父親からの後押しを受けて決闘に臨んだであろう彼を罵倒しては、セリアージュの父親を侮辱したも同然であるからだ。

右も左も解からなかった頃から、セリアージュには多大な恩がある。それはもう、一生を費やしても返せない程に。

彼女の望みを汲むべきか、メディシスの意向に従うべきなのか。

それだけではない。自分には、社会的後ろ盾が全く無いのだ。

これ以上目障りな邪魔者だと判断さたら、簡単に排除されてしまうだろう。政争に巻き込まれ、“行方知れず”となった冒険者の話は、事欠かない。冒険者は命の安い職業。一人二人消えた所で、だれも気にも留めない。

戦うべきか、否か。

だが、とナナシは奥歯を噛む。


「手が、出ない! クソッ、どうすればいい……!」


ナナシも、“本物の”対人戦は、これが初めての経験だった。

相手方は戦闘自体の経験が浅いために“どこまで”やったらいいものか、計りあぐねているようだ。半歩先に踏み込めば、容易く命を奪いに来るに決まっている。

いかにナナシが冒険者であっても、衆目の面前での殺しは避けたいのだろう。いたぶる事に集中している。諦めろ、跪けと諭しながら。

しかし落とし所が解からないというのならば、ナナシも一緒である。

右腕を握り込めば、人工筋肉がぎしりと軋む。

追い詰められているものの、絶対的に敵わない相手、というほどでもなかった。

一撃を叩き込む隙は、いくらでもあったのだ。

相性が悪かろうが、戦いの素人にいいように弄ばれる程、ナナシは甘くはない。

しかし、拳を打ち込んでもいいものか、という躊躇が、ナナシの踏み込みを阻んでいた。


「一撃さえ入れられれば……でも、それじゃ、殺してしまうかもしれない……!」


ナナシの特性。

神意の遮断。

それは、“防御力”や、“攻撃力”といった、物理法則を超えた所にある加護の影響を、一時的に無効化させることを可能とする。

それを貴族の男は知らない。高レベルの己に冒険者程度の攻撃が通る訳がないと高を括り、隙を晒し続けている。

そんな無謀にな男に、魔物を打ち殺すような拳を放てばどうなるか。解り切っている。


「よせ! ナナシ! 踏み込むな! このままでは……ああ、クソッ、どうすればいい!」


クリブスが叫んでいる。

問題が大きくなれば、クリブスの家まで介入してくる可能性もあった。

震えるクリブスを見ると、その可能性はないとは言い切れない。

こればかりは、先日同じく貴族を殴り飛ばしたように感情的に行動するわけにはいかない。

クリブスの家は、後ろ暗い噂のある家である。クリブス自身語りたがらなかったが、血を分けた親兄弟でさえ、駒として使われるような家であるのだ。

どう動くべきか。

時間は限られている。

タイムリミットは、ナナシが力尽き、倒れるまで。


「私の華麗なる魔術に耐え切れるかな? さあ、喰らいたまえ!」


これだ。

放たれたのは、炎熱系二級魔術、炎の槍。

直進する炎の射線が、対象を貫く魔術である。

なんのフェイントもなく馬鹿正直に向かってくる炎の槍は、ナナシであれば容易に避けられる……はずだというのに。


「んぎぃあああああッ!」


自ら射線上に割り込むことで、甘んじて炎の槍を受けるナナシ。

辺りには肉の焼ける嫌な臭いが立ち込める。

この直進する炎の槍が、一番厄介なものだった。

そう、この魔術は、対象に直撃するまで直進する(・・・・)のだ。

ナナシの背後には、大勢の見物人達が。学生服の色から判断するに、非戦闘学科の生徒達も多数存在している。

そんな生徒達へと、二級魔術が飛び込んだらどうなるか。

自分のように耐魔制服の下に、鎖帷子を仕込んでもいまい。被害は、それこそ火を見るよりも明らかだった。

だというのに、にも拘らず、この男は先ほどから事ある毎に炎の槍を連発している。

自身の魔術が周囲にどれだけの影響を及ぼすか、把握していないのだろうか。戦闘魔術を実際行使することに明るくないのであれば、それも頷けた。だが。

しかし、これも全てナナシの行動を予測しての行いだったとしたら。


「……無様な姿だ。汚い冒険者にはお似合いだな。この国に巣食う虫共が」


周囲の者には聞こえないだろう。

対峙するナナシの耳にのみ、その呟きは飛び込んできた。

こいつ。

ギリ、と鳴る奥歯。

嘲笑っていやがる。


ナナシを見下す眼。整った顔に浮かべられる爽やかな笑みは、もはや歪んだものとしか見えない。

隠しようのない欲望が張り付いていた。

狡猾で周到な人物であると言わざるを得ない。やはり、全て計算尽くでの行いなのだろう。

この男は、ナナシが手出し出来ないことを解かっているのだ。

セリアージュの父親の目は、正しかった。彼ならば、海千山千の貴族達を押しのけ、メディシス家に更なる繁栄をもたらしてくれるだろう。正しい貴族の姿であった。

しかし、その踏み台にされる身としては、堪ったものではない。

貴族の男は傍から見れば精悍な、しかしその実、加虐心に富んだ笑みをナナシに向け、掌をゆっくりと掲げた。

そしてまた、ナナシにしか聞こえない声で、告げる。


「焼き殺してやるぞ羽虫共――――――!」


再び放たれる炎。

ナナシは予測軌道に強引に割り込みを掛け、悲鳴を上げる間も無く吹き飛ばされた。

広場が見物人達の歓声に湧く。

ナナシには、何かが焼けるじゅう、という音しか聞こえなかった。

その音は自らの胸から立ち上っている。やられたと思う余裕さえなかった。

クリブスの気配を近くに感じた。視界は暗く、その姿を確認することは出来ない。

どうやら、自分を助け起こそうとして、止められたようだ。クリブスは行く手を阻んだ人物に、大声で怒鳴り散らしていた。

クリブスがあそこまで声を荒げているのは、初めてだったような気がする。

嬉しいような、悔しいような、情けないような、誇らしいような……複雑な気分だった。

やはり、手加減は無い。追撃の気配を感じる。起き上がることは無理だ。意識が急速に遠のいていく。

このまま気を失ってしまっては危険であると、どこか冷静に自己分析するも、瞼が重い。

そうして眼を閉じる瞬間、ナナシの頭上に黒い影が差した。


「わたくしが今、何を考えているか、教えてあげましょうか?」


「あ・・・・・・セリア、お嬢様?」


落とされるセリアージュの声。

ナナシはぼんやりとその声に耳を傾けた。


「もう会えなくなったっていい。あなたがこのまま大怪我をして、冒険者を続けることが出来なくなればいいと、そう思っているわ」


落ち着いた、静かな声だった。

喧騒に包まれていても、彼女の声は良く透る。


「わたくしは、あなたが冒険者になることにずっと反対していた。勘違いはしないで。貴族だから冒険者を見下しているとか、そんな理由じゃないわ。

 あなたに冒険者なんて、勤まるはずがないと思ってたもの。こんな、自分とは関係の無い貴族の事情なんてものを考えて、決闘で手加減なんかしてしまうようなお人よしには。

 きっといつか酷い目にあうに決まっているもの。いいえ、現在進行形で痛い目を見ているわね。野次馬なんて、怪我をしても自分の責任なんだから、放っておけばいいのに」


セリアージュの独白は続く。


「嫌いよ。あなたなんて、大嫌い。初めて会った時からそう。大嫌いよ、あなたなんか。

 私の言うことを、ちっとも聞いてくれないんですもの。わたくしを誰だと思っているの? わたくしはセリアージュ・G・メディシスよ。自らに課せられた責任の重さくらい、ちゃんと自覚しているわ。

 わたくしはあの男に純潔を捧げて、そして……“抜け殻”になる」


言わなくてもいい。ナナシは声を出そうとした。

しかし、焼けた気管からはひゅうひゅうと空気が漏れるだけ。彼女に何も言葉を掛けることは、出来なかった。

セリアージュは、竜人族(ドラゴニュート)だ。

それも古き龍の血を引く、高貴な一族の。

古き龍の血に込められた龍神の加護はあらゆる災厄を撥ね退け、宿主に幸運を授ける。

その強力な加護を、竜人(ドラゴニュート)には他者と共有する術が有った。

古来から、龍とは最も神に近しい存在であるとされていた。

龍は時に人に試練を課し、自らの力を分け与えたという。

その古事に基づいた儀式である。


龍は、自らに傷を付ける程にまで己を高めた勇者のみを認め、祝福を授ける。

しかもただ傷をつければいいという話ではない。

龍に、人間としての存在を認め、受け入れてもらわねばならないのだ。それを為した古代の勇者、その武勇は並大抵のものではなかっただろう。

つまり……竜人(ドラゴニュート)の女性は、自らの純潔を奪った男へと、自身の加護を分け与えることが出来るのだ。


セリアージュは、大貴族に生まれた竜人族(ドラゴニュート)の女であった。

彼女の価値とは、女であること。古き龍の加護は、誰しもが喉から手が出るほどに欲しいものであるのだから。

セリアージュが自らの家から求められたのは、政略結婚の道具となることだった。

それを、彼女自身は、受け入れていたと言う。

そして用済みとなった後の、自分の運命も。


「お母様は言っていたわ。お父様を恨まないでね、と。あの人は、昔はあんなじゃなかったのよ、と。幸せそうに、悲しそうに、教えてくれたわ。

 確かに二人は愛し合っていたと。そして決まってわたくしに謝るの。ごめんなさいセリア、あなたを女の子に生んでしまって……って。

 ずっとそう聞かされながら育ってきたわ。だから自分には、それ以外の道しかないと思ってた。お母様みたいに、お父様に捨てられて、寂しく独りきりで過ごす。

 家のために子を成すだけの道具になること。それが、貴族として生まれたことに対する、責務だと思っていたわ。

 だってわたくし達は、民から絞り取った税で暮らしているんですもの。それは仕方の無いことだと、そう思っていたわ」


でもね、とセリアージュは小さく息を飲んだ。


「本当は、諦めていただけだった。ほんとはそんなの、嫌だった。自由に生きてみたかった。好きな人は、自分で見つけたかった。好きでもない力だけが目当ての男に触れられるのなんて、絶対に嫌だった。愛した人を、愛し続けたかった」


視界は暗い。

しかしナナシには、セリアージュが小さく、弱々しく見えていた。

今、彼女がどんな顔をしているのかも、解からないというのに。


「ねえ、わたくし、いっぱい我慢したのよ? 一言も文句なんか言わなかったし、お父様に逆らったこともなかった。あなたが傷ついて倒れた時も、無視し続けて来たわ。ねえ、だからもう、いいでしょう?」


ナナシの顔に、水滴が落ちたような気がした。


「わたくしは、あなたと共にある時を、望まない。あなたの……あなたの“心”を望まない。あなたに何も、望みはしないわ。あなたは自分の信じる道を往けばいい。何を省みることもなく。

 でも、今あなたが、少しでもわたくしのことを想ってくれているのなら、大事だと思ってくれているのなら……お願い、立って。立って、戦って。わたくしの背を押して。一人でも歩いていけるように……お願いよ……」


返答はしなかった。

ナナシは腰のアイテムポーチから回復薬を取り出すと、蓋を開ける間も惜しいとそれを胸に叩きつけた。

ガラス片が肉に突き刺さるが、とうに痛覚は飛んでいた。問題はない。

強引に出血を止められ、活性化を促された肉が、異臭と煙を発生させる。

魔術的要素に頼らないタイプの回復薬だ。回復薬とは名ばかりの、無理矢理に血を止めて細胞の分裂を促す、強烈な液薬である。

観衆に手を振るのに夢中になっていた貴族の男が、精霊族(エルフ)特有の尖った耳を引きつらせていたのが、はっきりと開いた眼に映る。

苦悶の声は一切漏らさず、ただ脂汗を滴らせるのみ。

ナナシは跳ね上がるよう、勢いよく飛び起きた。


「いやあ、格好悪いところを見せたようで、すみませんね貴族様。さあ……続きだ」


「回復薬、か。自然治癒力を強制的に喚起させるタイプ……安物を使いおって。舐めているのか?」


「何だよ伊達男。さっきまでの調子はどうした。俺はまだ倒れちゃいないぞ?」


「この死に損ないめ。薄汚い虫らしく、地に這っていればいいものを!」


「やっぱり、殺す気で撃ってやがったなこの野郎」


コンディションは最悪だが、気力は充実している。

自分がすべきことは、セリアージュの背を押すことなのだ。後は、彼女の戦いである。

門外の分野に手を出すべきでも、考えを巡らせる必要もない。

ただ戦えばよかったのだ。

勝とうが負けようが、その後だ。立ち上がる姿を彼女に見せてやりたかった。見てもらいたかった。


貴族の男が折りたたみ式の杖を取り出し、掲げる。

魔力が収束し、陣と成す。第三級魔術以上の詠唱に入った際に発現する、魔術的現象である。

放たれた魔術は、術者の魔力が尽きるか魔術の構成を破壊されるまで、対象を燃やし続けるのだ。

あれを受け止めるには、鎧がなければならない。

そう、鎧がなければ。

ツェリスカが無ければ、自分は戦えない。

自分がどれだけ無力な存在であるか、今日は嫌と言うほどに思い知らされた。

殴り倒してそれでお終いなら、どれだけ楽だろうか。

男は自らの力に、絶対の自信があるのだろう。

彼を傷付けずに勝つには、その自信を折るしかない。

だが、出来ぬ。


なぜならば自分はレベル0。

それは、無力さの証明であるのだから。


だが。

だが、とナナシは強く思った。強く信じた。

しかし、それがどうしたと言うのだ。

弱いのならば、鍛えればいい。叩いて、叩いて、鉄を打ち鍛えるようにして。信じる心で、熱く、熱く熱して。

それでも未だ弱いというのなら。

“装えばいい”――――――それだけだ。


「はっ! はっ! はふっ……わんッ!」


鈍色の荒い息遣いが聞こえた。

観衆を掻き分けてやってくる鈍色の背には、赤銅色をした布に包まれた大荷物が。

布の隙間から見えるのは、鈍い鋼の輝き。ツェリスカである。鈍色の背に、ツェリスカが背負われていた。

ナナシが決闘が始まる前に、急ぎ取りに行くよう頼んだのだ。結局は、間に合わなかったが。

いや、今にして思えば、これも策略だったのだろう。

鈍色の身体には、擦り傷や切り傷といった、明らかに襲撃を受けた痕が見られた。

クリブスが慌てて鈍色を先導するが、鎧を纏う時間は与えてくれそうにはない。


「ぎゃんッ!」


「ああっ、この! 今羽を毟った奴は誰だ!」


鈍色とクリブスの怒声。

どうやら、観衆の中にも手下を紛れさせていたようだ。

足をとられた鈍色はバランスを崩し、ツェリスカをぶちまけてしまった。

ナナシの足元にまで、かつん、かつん、とツェリスカの頭部、兜が転がって来る。

傷ついたナナシの姿が、ツェリスカの翠色のカメラに映った。

ぎらりとして、ツェリスカの瞳が、剣呑な輝きを帯びたように見えた。


『マスターに深刻な負傷を確認。即刻戦闘行動を中止すべきです』


「一人手に起動しておいて、第一声がそれか。まったく、“成長”して反抗期にでも入ったか?」


『再提案します。即刻、戦闘行動を中止すべきです。あなたでは勝てません』


「勝てなくていい。ぼろぼろにされたっていい。ただ、思い知らせてやりたくなったんだ。冒険者に手を出したらただじゃすまないってさ。悪いけど、ここは引けない」


『……では、共に戦いましょう』


魂の無いはずの鎧。

そこから発せられる合成音声に、ナナシは確かに熱を感じた。


『マスターに要請。新機能、高速自動脱着を起動します。登録ワードと動作の入力を』


「ツェリスカ……お前……そうか。ワードだの動作だのを登録した覚えは無いぞ。どうしたらいい?」


『貴方が思うがままに、心の叫びを』


「そうかい」


ナナシの顔に、獰猛な笑みが浮かぶ。

揺らめく魔方陣の向こう側にいる敵を真正面に見据え、構えた。

右腕は天に、左腕は地に。

指先は緩やかに弧を描き、空を斬る。

ナナシの髪を、熱風が散らす。放たれた巨大な火球が、眼前に迫る。

あれほどの熱量が直撃したならば、もはや火傷では済まないだろう。元の形が解らぬ程に炭化してしまうに違いない。

しかしナナシの心には、一片の恐怖も浮かんではいなかった。


「セリア――――――ジュ! 皆! 俺を見ていろ!」


ナナシは腹の底から、叫んだ。

恐らく、きっと、これから先。

自分が唯一唱えることが出来る、絶対勝利の魔法を。


「装・着・変・身――――――!!」


――――――その瞬間を最後まで冷静に見続けていられたのは、恐らくはセリアージュだけだっただろう。

クリブスも鈍色も、そしてもちろん周囲を囲んだ観衆たちも、火球がナナシへと着弾する瞬間に眼を逸らし、もうもうと立ちこめる火柱と煙とを唖然と見上げるしかなかった。

ふらふらと、熱に浮かされたように鈍色が、ナナシの立っていた所に近づこうとする。

それを止めたのは、セリアージュだった。

肩に手を置かれた鈍色は、初めてセリアージュに殺意を向けた。

仲が悪いと言われている二人だったが、それは誤解だった。少なくとも鈍色は、セリアージュを邪険に思ったことはこれまでに一度もない。ただ、少しだけ羨ましかっただけで。

セリアージュは鈍色に視線すら合わせずに、言った。


「黙って見ていなさい」と。

「あの人があんな程度の相手に、負ける訳が無いでしょう」と。

炎に巻き上げられる黒い煙の中を睨み付けるように、言った。


肩に置かれた手を、鈍色は振り解くことが出来なかった。

セリアージュの言葉は鈍色にではなく、自身に言い聞かせるためのものだったようにも聞こえた。

鈍色の肩に掛けられた手は痛いぐらいに力が込められ、震えていた。

鈍色だって信じたかった。

しかし、あんな巨大な火球が直撃してしまっては。

ナナシは相手の防御力を無効化する実、己の防御力すら無効化させてしまっている。

あの鎧はどれだけ呪法が刻まれていようと、ただの鉄並みの魔力的防御力しかない。

魔術攻撃に無防備なナナシは、もう。

鈍色が絶望に膝を折ろうとした、その時だった。


『――――――装着完了』


合成音声が、炎の中から聞こえたのは。

炎が急激に掻き消され、煙が晴れていく。

その中に見えた人影を視認し、セリアージュは鈍色へとようやく視線を寄越した。

「ほらね」と自慢気に笑うセリアージュに、鈍色は口を尖らせてそっぽを向く。

鈍色はセリアージュが羨ましくて、眩しくて、真っ直ぐに眼を合わせることが出来なかった。

構うものか、と心中で鈍色は言い切った。

ここでセリアージュと顔を合わせてしまっては、何故かは解からないが、負けたような気がする。

それは嫌だったし、女同士見詰め合った所で、面白くもない。

自分が視線を注ぐべき相手は、唯一人だけなのだから。

鈍色の瞳には、いや、クリブスも、セリアージュにも、そこにいた誰しもの瞳には、たった一人しか映されてはいなかった。

急激な気圧の変化によって舞い上がった風に、赤銅色の布がはためく。

爆炎の消えた其処には、人の形をした鉄の塊が。

赤く、暗い長布を身体に巻きつけた、鋼を纏った男が立っていた。

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