地下14階
【依頼書『ねこちゃんをさがして!』
わたしのねこちゃんがにげちゃった!
おねがいぼうけんしゃさん、ねこちゃんをさがしてきて!】
ナナシは何度も依頼書を読み返した。
依頼人は富裕層の女の子。幼い丸字が可愛らしく、それだけで女の子の姿が目に浮かぶよう。
所々文字が滲んでいたのは、泣きながら書いたからなのだろうか。
依頼内容は、家出ネコの捜索。
内容の割に報酬が多く、リハビリと試運転にはもってこいだとクリブスが持ち込んできた依頼だ。
ランクはD級の民間依頼で、次の探索の目処が立つまでは戦闘系の依頼を受けるつもりがなかったため、丁度よかった。
冒険者といえども、四六時中迷宮探索をしているわけではない。
彼等にだって生活はあるのだし、迷宮探索のための準備費用を捻出するには、働かなければならないのだ。
ナナシや鈍色も学生アルバイトをしていて、今回のように民間の依頼を選んでは受けることが、冒険者の日常なのである。
クリブスは貴族出身ではあったが、実家からの仕送りは無く、こうしてナナシ達と共にクエストをこなしていた。
今回も、パーティーリーダーであるクリブスがクエストを持ち込んで、クリブスとナナシと鈍色とで依頼に当たっている。
簡単な依頼だとクリブスからは聞いていた。
もう一度、ナナシは依頼書を読み返した。
「おい」
「わふ」
「……」
「聞いてんのか」
「わん」
「……」
「こっちむけや」
なおも目を合わせようとしないクリブスに、ナナシは依頼書を突き付ける。
「……知らなかったんだ。僕のせいじゃない」
「ふざけんなコラ」
翠色の視界保有モニタの奥からクリブスを睨み付けながらナナシが指した向こうには、依頼主の探していただろうねこちゃんが、可愛らしく「にゃあ」と鳴いて三人を見降ろしていた。
逆立った毛は雄々しく、ピンと立てられた尾は殻に包まれ、開かれた口からは鉄の牙が覗いている。
それぞれ自由に稼働する三つの複眼は三人の動きを捉えて離さず、「にゃあ」と可愛い鳴き声を発する喉は、今にも灼熱を吐き散らすだろう。
「あれの! どこが! ねこちゃんなんだよ!」
魔獣だった。
しかも、かなり凶悪な分類の種族。
居住区の家屋の上からナナシ達三人を見下ろすのは、ねこちゃんという名前を名付けられた、魔獣だった。
「だから僕のせいじゃないと言ってるだろう! 依頼書の不備だ!」
「お前これ詐欺だろ! 絶対D級の難易度じゃねえよこの依頼! やばいもんあれ、めっちゃよだれ垂らしてるし!」
「わんわんわん!」
このやりとりも数回目。二人してクリブスを責め立てる。
魔獣を繁殖させ調教し、ペットとして飼うことが富裕層のステイタスの一つとなって久しい。
動植物と魔獣の違いは、加護による能力を使うか使わないかくらいのもの。魔物との違いは、知性が見られるか否かである。
食用や実験用として、魔獣の交配や繁殖は盛んに行われていた。
養殖魔獣というわけだが、元々迷宮内を住処としていた魔獣達をここまで“普及”させたのは、間違いなく人間の技術によるもの。
養殖技術は、まだ魔獣の死後現れる『核』が貨幣価値を持っていた頃に、金儲けのために培われたという。
そうして増えに増えた魔獣によって核の価値は下がり、魔物を倒すだけで生活費の全てを賄えるのは、もはや過去の話となったのである。
魔獣は家畜になったのだ。
しかし生活圏内で魔獣を繁殖させることが、新たな問題を発生させることにもなった。
いくら人の手によって産み出され調教されているといえど、魔獣は魔獣。
その本能には、迷宮で生き延びるための術が刻みつけられていた。闘争心である。
良い魔獣は、逃げ出さない魔獣だけなのだ。
年々増加傾向にある市街地での魔獣被害は、人間の自業自得とも言えた。
可能性だけは考えておくべきだったが、しかし幼女が可愛らしく「ねこちゃん」などと依頼書に書いていたら、よもや魔獣だなどとは思うまい。
もしかしたら、クリブスは全て織り込み済みで依頼を受けたのかもしれない、ともナナシは思った。
あらゆる意味で厳格であったという家の出のクリブスは、持てる者が持たざる者に対する責任の放棄を、ひどく嫌っていた。
魔獣被害など貴族が起こす事件の最たるもので、正義感の強いクリブスならば、一も二もなく飛びついただろう。
「ま、待て。ほら、あそこの魔積柱を倒せば信線が丁度ねこじゃらしのようになる。サイズ的にもいいんじゃないか?」
「落ち着け。頼むから落ち着け」
……他意はなかったらしい。
想定外の事態が起きるとすぐに冷静さを欠き狼狽してしまうのが、クリブスの悪い癖。
電柱よろしく街のそこかしこに立てられている魔積柱は、家庭に魔力を送信するための装置だ。そこから張り巡らされたチューブ内を動力が伝わっていくわけだが、インフラの整備に掛かっている金額は、電柱のそれとは桁が違う。
柱そのものが通信構造体であるため、そこに掛けられている費用が跳ね上がるのである。
もし一つでも破壊しようものなら賠償金がどれほどのものになるか。各家庭に対する補償も考えると、恐ろしくて考えたくもなかった。
魔獣被害の依頼が嫌われる理由の一つである。
こればかりは、流石にお嬢様に頼るわけにも、ハンフリィ家の財力をあてにするわけにもいくまい。
「僕のせいでは……いやしかし事前確認はリーダーの責任……依頼破棄すれば……このままでは被害が出るかも……」
「ええい、しゃっきりしてくれ! 精神面も打たれ弱いのかお前は!」
ナナシの怒声に驚いたか、ねこちゃんは「ふしゃー!」と一鳴きし、屋上伝いに中心区の方へと逃げていく。
幸い愛玩用の魔獣だったためか、これまで人が襲われたことはなかったようだが、それでも危険であることには間違いないだろう。
肉食獣以上の巨体が街を疾走するのだ。何かの拍子で被害が出てもおかしくはない。
「やばっ! 鈍色、追え!」
「わんっ!」
元気よく答えた鈍色は、四肢に力を込めて跳躍。一飛びで手頃な家屋の屋上へと着地し、ねこちゃんを追う。
手には用意していた大きめの虫取り網が握られていたが、まさかあれで捕まえるつもりなのだろうか、とナナシは不安に思った。
何と言うか、鈍色は浮世離れしている所があるというか、色々な意味で天然少女なのだから心配だ。
あんな小さな身体をしているというのに、あれで自分と同年代だというのだから、不思議なものである。
これもやはり、加護が肉体に及ぼした影響か。
「ほらクリフ、俺たちも急ぐぞ」
「あ、ああ。しかし、こうなると直接捕まえるしか手がないぞ。市街地で魔術を使うわけにはいかないからな」
「仕方ないさ。猫だと思ってたんだから準備も何も無かったし。まあ、飼い魔獣? だから傷を付けるわけにもいかないだろ。体張るしかないって」
「むう……となると、僕は今回役立たずなわけか」
「いいさ、任せろ。ギルドと警備隊の方に連絡に行ってくれよ。もしもの時があるかもしれないから」
「解った。気を付けろよ、ナナシ! 次の探索のアイテム代は、折半でいいぞ!」
「マジでか! よっしゃあ、頑張るぞ、っと! 終わったら飯食いに行こうぜ!」
クリブスと背中合わせになる形でナナシは走り出した。
全身の制動を確かめるように、意識して爪先を蹴り出す。
ぐ、と拳を握り込むと、力強い反発が返ってくると共に、みしり、とボルトが心地よい軋みを上げた。
全面改修された駆動系は、運動エネルギーを効率的に全身に巡らせている。
かつてジョゼットが造ったそれとは違い、大規模な設備でもって作成された精密な部品類に、細部までをナナシ個人に合わせた調整。
新たに生まれ変わった『ツェリスカ』は、これまで以上の一体感をナナシに与えていた。
鋼が町を疾走する。
「ツェリスカ、街の地図表示。ナビを頼む」
『おはようございます、マスター。新機種の装着感はどうですか?』
「おはよう、ツェリスカ。調子は良好、さすが先輩だ。いい腕してるよ」
『前機種と比べ出力が20%上昇。同時にパワーアシスト機能が37%向上しています。注意してください』
「了解。試運転だけだって言ってたけど、戦闘機動で動かさなきゃならなくなった。急だけど、いけるか?」
『問題ありません。初回起動時にも訓練等は無かったと記録しています』
「はは、そうだったな。泣き喚きながら戦ったっけ。情けないマスターで悪いな」
『いいえ、そんなことはありません』
「ツェリスカ?」
『貴方はもはや、あの頃の貴方ではないはずです。そして、私も』
「あ、ああ……」
ツェリスカは入力に対し、ここまで柔軟な発話を返せただろうか。
ツェリスカはハンドメイドのAIだったが、それは発言パターンと音声出力に特化したもので、“会話”など出来もしなかったはずだ。
だが、ツェリスカはナナシの言葉に対し、明確な意図を以て返している。
『私たちは二つで一人、共に強くなった。そうでしょう?』
「お前……!」
ナナシの足が止まる。
その瞬間、間違いなくナナシはツェリスカに“微笑まれていた”。
網膜投射モニタに一瞬流れたノイズの向こう側。
確かにナナシは、微笑む少女の姿を見た。
少女は真昼に見る白昼夢のように、陽炎となり消えていく。
『当機に搭載されていた機能、自己学習が発動しました。AI機能の強化により、よりファジィな対応が可能となります』
「搭載されていた……? ああ、成程、そういうことか!」
「すごいやジョゼットさん」とナナシは歓声を上げた。
ジョゼットがツェリスカを造った理由の一つが、孫娘の写し身とすることだった。
自己学習がどれほどまでの範囲を示しているのかは解らないが、恐らくはジョゼットの掛けた“呪い”の正体、その一端に関係することなのだろう。
呪いによる効果――――――スキルと言い換えてもいい。
加護の反作用である呪いは、加護の顕現であるスキルに似た何らかの効果を発揮して然りなのだ。
ジョゼットは、孫娘の成長していく姿こそが見たかったと言っていた。ならば、AIも彼の望みを以って組み上げられているはず。
もちろんツェリスカに搭載されているスキル、呪いの効果は、その一つ程度ではないだろう。
これまでは機関鎧の機能そのものを使いこなすことだけに念頭を置いていた。AIの方、ツェリスカ自身については、優位度が低いと思い込んでいた。
ジョゼットの意図を考えるならば、AIこそがツェリスカ本体である。そう考えるのが自然であるはずだ。
だから自分はヒナコにAIの“乗り換え”を頼んだというのに。
「そっか、そうだよな。俺たちはずっと、二人で戦ってきたんだよな」
『はい、マスター。そして、これからも。貴方の望む限り、私は貴方と共に在ります』
「ありがとう、ツェリスカ。これほど心強いことはないよ」
新機体の調整と共に、機能の確認も行わなければならない。
これで、どうして処理能力が大幅に跳ね上がっていたのか、と先輩が首を傾げていたことの原因がはっきりとした。
それはツェリスカの“成長”の結果だったのだ。
もしかしたら、とナナシは思わずにはいられなかった。
もしかしたら、ジョゼットの願い通り、ツェリスカはツェリスカになるのかもしれない――――――。
『魔獣種検索――――――ヒット。魔獣種をランクB、ゲイルビーストと特定。風と共に駆ける魔物です。戦力差が大きく開いています。撤退を提案します』
「ここは一緒に頑張りましょう、とか、私たちなら出来ます、とか言う場面じゃないかな?」
『データ不足、希望的観測です』
「まだまだ固いなあ」
その時はまだ先になりそうだ、と再び駆け出す。
ゲイルビーストは、疾風の魔獣の二つ名で有名な魔獣だ。本当に真正面から戦ったならまず勝ち目はない。
だが、あのゲイルビーストは人に飼われていた。これまで街を疾走していたというのに、人的被害はゼロ。
何の拍子で野生が目覚めるか解らないが、少なくとも今は、捕縛することだけを考えていればいい。
それならば、いくらでも対処のしようはある。
「よし、動作確認だ。全力で走るぞ!」
『了解しました』
「いくぞおッ!」
両の足に力を込めれば、踏み出す度に、更に更にと加速が掛かる。
破損した油圧パイプ及びパワーアシスト機関、摩耗した機械式の人工筋肉の代わりにと搭載された試作型の有機式人工筋肉が、身体の筋の動きを正確にトレース。パワーアシストをリアルタイムで行うのを実感する。
以前までの機関鎧と比べ、一回りは細身となったフォルム。
もはやタクティカル・アーマーと言うよりも、タクティカル・スーツと言うべきか。
兜や胸部装甲の重厚さはそのままに、手足の武装も変わらないが、しかし、とりわけ関節の“繋ぎ目”からは機械部品が排除されていた。
足りない頑強さは、身体中のあちこちに取り付けられた接合口が解決してくれる。未だ完成はしていないが、追加装甲や装備をアタッチメント方式で装着するという、新機軸の理論による構成だった。
機関鎧とは、武装することで進化する兵器である。身に付けるのは、人だけではないということだ。
新ツェリスカは新型人工筋肉の搭載により、全体的な剛性は失われたが、反応性とそれによる敏捷性は跳ね上がっていた。
ナナシにとっては満足のいく改修結果だ。元々レベル0の身としては、敵の攻撃を受け止めることは危険だったのだ。受け流すか、回避することを主眼においた機体コンセプトは、非常に心強いものがある。
人工筋肉が収縮し、爆発的な膂力でもって、ナナシは突き進む。
石畳に罅を刻みながら、足甲で火花を散らす。
緩やかな曲がり角に突入。
「うお、おおっお、おおっ!? 止まっ、んぬえおおおおおおいっ!?」
曲がり切れずに、塀に激突した。
「うぐぅ……」
『第一装甲損傷。戦闘力が6%低下しました』
「痛っつ、なんだこれ、ピーキー過ぎるだろ」
『前機種と比べ出力が20%上昇。同時にパワーアシスト機能が37%向上しています。注意してください』
「それさっき聞いたね……ありがと……」
人型に砕けた塀から、ナナシはぼやきながら瓦礫を崩して頭を出す。
油圧パイプとは比べ物にならない馬力だった。
先輩曰く、「注文通りにしたけどよ、使い物にならないんじゃねえの? 極端過ぎて」との事だったが、正にその通り。
ツェリスカはかなりのお転婆娘になったようだ。乗りこなすには骨だろう。気を付けなければ。
「ふわわわわっ! わぅんーっ!?」
「うおっ!?」
頭上を通り過ぎる陰。
慌てて頭上を見上げれば、そこには“ねこちゃん”に必死に掴まった鈍色が、悲鳴を上げていた。
掴まった、と言うべきか、捕まえたと言うべきか。
虫取り網をねこちゃんの頭に被せ、そこにぶら下がっている。視界を遮られたねこちゃんはがむしゃらに建物の上を走り、それにつられて小さな身体が宙を舞うのは、見ていて恐ろしい。
「よっしゃあ、鈍色良くやった! 離すんじゃないぞ!」
「わふ、わんっ!」
頑張るぞ、という気持ちを顔一杯に現わして、鈍色は網の柄をよじ登る。
そのままえいや、とねこちゃんの身体にしがみつき、体毛をギュッと握り込んだ。
鈍色が力いっぱい体毛を引けば、ねこちゃんは「ぎにゃあ!」と一鳴きし、引かれた方へと進路を変える。
その進路を確認しつつナナシは開けた広場へ出ると、肩幅以上に足を開き、腰を落とした。
「ようし、来い! 鈍色ッ!」
「わんッ!」
合図と共に鈍色は手綱を繰り、ねこちゃんをナナシへと差し向ける。
モニタ一杯に巨体が迫るもナナシはその場を動かず、ただ、右腕を弓引くように引き絞った。
『イグニッション』
引かれた右腕から、多重構造の装甲内に隠されていた“五本”の杭が出現。
ツェリスカがカウントを開始すると同時に、全身に駆動用魔力が駆け巡る。
額を付けるほどに地に沈みこませ、ねこちゃんの巨体の下に潜り込むよう、狙いを付けるナナシ。
『接触まで距離残り5、4、3――――――』
「そこだぁッ! スタン・フィストバンカアアアアッ!」
伸びあがるようなアッパー。
五本の杭が一斉に打ち出され、圧搾空気と魔力とが腕部機構から噴射。
拳に掛かる衝撃から、空気の壁を破った瞬間を感じる。
追加された二本の杭は、以前のフィスト・バンカー以上の威力を生じさせるだろう。
拳を覆うように噴射された圧縮空気と魔力の衝撃は、多殻弾頭のそれと等しく右腕を保護し、対象に喰い込み破裂するのだ。
しかし、ねこちゃんへと拳が突き刺さる直前、ナナシは握った拳を解いた。
指だけを曲げ、浅めに握り込んだ形――――――掌底だ。
それを身体に触れぬよう、寸止めの形で停止させる。
五本の杭の内、二本が逆噴射され、フィストバンカーは急停止。
制動が掛けられたことにより、破られた空気と魔力とが壁となってねこちゃんに殺到する。
「にゃぁあああああぁぁ――――――」
衝撃によって内蔵を揺さぶられたねこちゃんは、悲鳴を上げながら空に打ち上げられ、三回転。
地面に打ち付けられ、目を回して気絶した。
純粋衝撃による対魔生物内器官通打――――――スタン・フィスト・バンカーの効果が、十二分に発揮された結果である。
人間に打ったならば気絶ではすまないだろう。死ぬか生きるかはナナシの匙加減一つだろうが、頭部にでも放てば眼球の破裂は必至だ。
だが今回の相手は魔獣である。問題はない。
「……やりすぎたかな?」
ピクリとも動かないねこちゃん。
問題はない、と思いたい。
「わふー!」
「おおっと」
「わふんっ!」
巻き込まれて宙に放り出された鈍色も、ナナシにすぽんと受け止められた。
うー、と低く唸っているのは、乱暴に扱われた抗議のためか。
まいったなあとナナシは装甲に包まれた面頬を掻いた。
「ううー!」
「ああ、はいはい。悪かったよ」
「むふー」
睨みながらぐいぐいと頭を押し付けてくる鈍色に、観念したとナナシは手を乗せる。
ピンと立った耳と耳の間を掻いてやると、鈍色は満足そうな吐息を漏らし、目を細めた。
鋼に包まれた指では固いだろうに、ご満悦な様子の鈍色。よくわからない奴だと、ナナシは苦笑を漏らした。
さて、後はねこちゃんが起きないように見張りつつ、クリブスを待つだけだ。
「わふー、わふー、わふーん」
「ははは、こやつめ」
見張らなければならないのだが。
やっぱりアイテム代は俺持ちになっちゃうのかな、と半ば諦めつつ、ナナシは鈍色の頭をワシワシと掻き撫ぜることに時間を費やした。
緑色の泡を口から吐き、危険な感じに身体を痙攣させ始めたねこちゃんを、極力視界に収めないために。